サブさぶれ
2026-05-09 17:43:58
20837文字
Public ワンドロワンライ
 

ワンドロワンライまとめ

sgaoワンドロワンライのお題で書いた作品まとめです。
覚えているものはタイトルと一緒にお題とかかった時間も記録しておきます。


きみはひまわり

お題「向日葵」1h+1h20min

 珍しく用事もブルレクも何もなく、部室でただ漫然と暇とお菓子を貪っていたその日、ゼイユはとあることに気が付いた。

「最近のあんたって、何かキマワリみたい」

 瞬間、隣に座っていた弟の眉間がギュッと歪む。

「何それ」
「そのまんまの意味だけど」

 吐き捨ててからポテトチップスを頬張る。最近お気に入りのパルデア限定ハラペーニョフレーバー。甘味ばかり好む弟は絶対に食べないと分かってるから安心してマイペースに食べられる。
 その一方でスグリは依然として不服そうなしかめっ面をしていた。

「全然意味分かんねっから」
「だーかーらー」

 ゼイユはウェットティッシュで指先を拭うと、弟が広げていた『草タイプ研究学』の教科書の一項目を指し示した。

「どこまでも太陽を追いかけて回って、見えなくなった途端にしょんぼりしぼむ。ね、今のスグそのものでしょ」
「それはキマワリの生態だべ。俺は太陽なんて追いかけてねえし」
「追っかけてるわよ。あんたの太陽を」

 あんたの太陽と表現したところでようやく鈍チンがぎくりと肩をこわばらせた。彼にとっての太陽——片想い相手の女の子を目で追いかけてる自覚はきちんとあったらしい。ゼイユは少しだけ安堵して、ポテチをもう一枚口に放った。

「姉としてハッキリ言ってあげるけど、黙って見つめ続けるのってちょっと……いや、だいぶ気持ち悪いわよ」
「き、きもっ!?」
「キマワリはいいの。ポケモンだし、そうやってエネルギーを得てるんだから。でも人間が人間を追っかけんのは程々にしないと最悪嫌われるわよ」
「き、嫌われ……!?」

 一気に畳みかけられたスグリは目を大きく見開いてから教科書の上へへなへな萎れていった。ただでさえ「何か今日忙しいみたいで、まだ一回も顔合わせてねんだ」としょぼくれてたのに。これじゃ本当にキマワリだ。しおしおに萎びた姿にさすがに同情したゼイユは弟の頼りない背中をバシンと叩いた。

「しょぼくれてないでサクッとアタックして、サクッと振り向かせりゃいいじゃない。両想いなら目で追ってようが何してようがただのノロケにしかなんないんだから」
「それができねっから苦労してんでしょ。簡単に言わんでよ」

 せっかく発破をかけてやったのにスグリは弱気にいじけたままだった。
 このままじゃいけない。弟を哀れなままにさせておけない。ゼイユに強い使命感が宿った。

「しゃーない。ねーちゃんがひと肌脱いだげる!」
「はあ!?」

 ゼイユは勢いよく立ち上がった。そして、食べかけのお菓子を弟に託して扉へ一直線に向かった。

「ロイヤルイッシュ号に乗った気でドーンと待ってなさい!」

 なんて言ったが、単に暇つぶしがしたかっただけだ。浮いた話に首を突っ込むのも面白い。もちろん、純粋に可愛い弟の初恋を実らせてやりたい気持ちもあるけども。
 スマホ片手に走り出したゼイユに弟の「余計なことしないでよ、バカねーちゃん!」の叫びは届かなかった。


 ゼイユの従順な舎弟は突然の呼び出しにも関わらず、わずか数分で待ち合わせ場所に現れた。どこにいても目立つ深紅の巨体が光の粒子を撒き散らしながらセンタースクエアに降り立つ。

「お待たせ、ゼイユ」
「アオイ、なかなか速かったじゃない。特別に褒めたげるわ」
「えへへ。ちょうどポーラからサバンナに行く途中だったんだ」

 褒められたアオイは白い歯を輝かせた。弟ほどではないがゼイユもアオイを気に入っている。飾らない性格と見ていて飽きないところが特にいい。弟を応援したい理由はそんな気持ちからでもあった。

「ところでゼイユ。緊急召集ってどうしたの?」

 アオイがトレードマークの三つ編みをキョトンと揺らす。そうだ、可愛い弟のためにものんびりなどしてられない。ゼイユは恭しく咳払いをした。

「突然だけどさぁ……。あんた、好きな花とか、ある?」

 好きな子への効果的なアタック方法。そんなの一つに決まってる。ズバリ『お花のプレゼント大作戦』だ。お気に入りの少女漫画にもそんな描写があったし、祖母も青春時代によく祖父から花をプレゼントされていたと話していた。だからスグリもアオイに好きな花をプレゼントすれば絶対成功間違いなしだ。
 質問を受けたアオイが顎に手を添えて考えはじめる。

「お花? うーん、お花は何でも好きだけど……。あ、でも最近一番好きなのはヒマワリかも」
「へーえ、ヒマワリが好きなんだぁ」

 頭の中に鮮やかな太陽の花を思い浮かべる。ちょっとだけ先ほど弟と交わした会話も思い出したが……別にどうということもない。重要なのはアオイの好みは何か、だけだ。早速戻ってスグリに教えてやろう。ゼイユは礼を言おうとしたが、それより素早くアオイが続けた。

「うん。だってヒマワリってスグリみたいでしょ。まっすぐでひたむきで、見てると元気と勇気がもらえるとことか。だから好きなんだ」
「え?」

 ——この子、今何か意味深なこと言った?
 一番好きな花はヒマワリで、その理由はスグリみたいだから。というのはつまり? 目を瞬かせるゼイユを前に、アオイは頬を淡い桃色に染めた。

「スグリには、まだ内緒にしててね」

 少女はうっとりした声で言ってから唇の前で人差し指を立ててはにかんだ。そのかんばせは誰がどう見ても——
 尚も惚けているゼイユに「そろそろブルレク戻らなきゃ。またね!」と元気よく声をかけてからアオイは再びコライドンに跨った。気付いた頃にはすでに春風漂う草原の彼方へ飛び去っていた。

「なぁんか……薮アボだったかも」

 とりあえず、今すぐ部室に戻って弟の背中を蹴っ飛ばしてやろう。そして「さっさとサバンナエリアに行きな」と言ってやろう。弟も彼女もきっと、それで元気になるはずだから。