サブさぶれ
2026-05-09 17:43:58
20837文字
Public ワンドロワンライ
 

ワンドロワンライまとめ

sgaoワンドロワンライのお題で書いた作品まとめです。
覚えているものはタイトルと一緒にお題とかかった時間も記録しておきます。


お題「名前を呼ぶ」「ゼロから、また、君と」
※前編→後編→番外編 の構成です

「おれ……、アオイみたいに、なりたかっ……た」
 
 滲む声に、歪んだ金色の瞳に、走り去る背中に、私ができることなど何も残されていなかった。彼を傷付けた張本人である私が下手なことをしたら、今以上に彼を苦しめる結果になる気がして怖かった。冷たい表情を向けられたり、「嘘吐き」のように鋭い言葉を言わせてしまったら——嫌い、とはっきり示されたら、二度と立ち直れない気がして、怖かった。
 だから自分の気持ちから目をそむけた。ちゃんと話したい。またお祭りに行って、今度は私がりんご飴を買って渡したい。そう考えてたのに、何もかも怖くなって逃げてしまった。
 追いかけなかったことを後悔したのはその翌日。彼らが急遽学校に帰らなければならないと聞いた瞬間だった。
 体調を崩したスグリは最後の挨拶に来なかった。もう一度笑った顔が見たいと願った想いは、無残に潰えてしまった。

「スグリ」

 今はもう届かない名前を呼ぶ。初めて好きになった男の子の名はなまぬるい夏風に乗り、深緑の中へ消えていった。
 りんごの匂いはもうしなかった。



 激しいエネルギーを受けたゼイユのヤバソチャが倒れる。私の手持ちも残り二体。テラスタイプが変わるなんてそんなの予想できるわけない。必死に立ち向かってるけど、このままじゃ負けてしまうかも。
 背後からゼイユがスグリに呼び掛ける声が聞こえる。そんな余裕なんて残ってないのに、彼の方を振り返った。

「でも……。ダメだ……。お、俺は……おれなんか……

 力なく肩を落とす彼に、彼の震える声に、こぼれた涙に、咄嗟に声が出た。

「スグリ!」

 君の名前を叫ぶ。一緒に戦ってほしいって気持ちもあったけど、それより「俺なんか」と言った言葉を打ち消したかったから。学園に来てから、林間学校で中途半端なお別れをしてから、りんご飴をもらったときからずっと抱えていた想いをすべて、君の名前に込めた。
 弾かれたように君が顔を上げる。揺らぐ金色に光が差す。降りしきる雨の中で聞いた咆哮より滲んだ、でもどこにも痛ましさはない声が己を鼓舞する。君が駆け寄ってくる。私をまっすぐ見る。出会った時と同じ瞳だった。

「アオイ! お、俺も……戦う!」

 あの時届かなかった声が、想いが、ようやく君に届いた気がした。



 少し湿度の高い空気に、ほのかに漂うりんごの香りに、静かな風の音に心が弾む。後ろから追いかけてくる友達にも気を掛けなきゃって分かってるのに、逸る思いを抑えられない。
 走る。走る。村の一番奥、立派な門のおうちに向かって、ひたすら走る。
 手紙を受け取った時からずっと心臓がうるさい。早く会いたいって、身体の全部が叫んでる。
 風に揺れる藤の花とコンクリートの壁が見えてきた。
 もう少し。あと少し。冒険してるときみたいにワクワクした足でキタカミの土を蹴り、一心不乱に君を目指す。
 門の奥、厳かな雰囲気のおうちの目の前。人の気配に気付いたすみれ色の髪がふわりと振り向いた。

「アオイ!」
「スグリ!」

 君が私の名前を呼ぶ。私も真似っこして君の名前を呼ぶ。
 おっとり垂れた眉毛と朗らかな君の笑顔を見て、確信した。私たちは絶対に、またゼロからやり直せる。