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サブさぶれ
2026-05-09 17:14:23
23948文字
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原作軸
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原作軸②
原作軸のSS・短編置き場②です。
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恋をするなら
発案者は誰だっけ。いつも通りツバッさん? 違った気もするけど
——
よく覚えてない。リーグ部のみんなって何だかんだノリいいし。規則に則ったことならネリネさんもタロちゃんも全然普通に盛り上がったりするし。楽しさ全振りなとこ、いいよね。
とにかく何かあれこれあって、部室のプロジェクターでオールナイト映画鑑賞会をすることになった。スマホに繋げて最新のポケウッド映画からモノクロガザガザの古い映画まで。アクション、ミステリ、ホラーにアニメ。ジャンル問わずとにかくランダムに。飽きたら途中退席OK、戻ってくるのももちろん自由。
私はときどきお手洗いにたつ程度で全部見た。映画自体面白かったしバトルの参考になりそうなシーンもあって、つい夢中になっちゃった。それまで映画ってあんまり見たことなかったと言うスグリも私の隣でじっと映画を観てた。ホラーのときなんか二人して膝に顔埋めたりして、そんなことすら楽しかった。
二十三時。『ハチクマン ザ・ファースト』が終わって次に流れてきたのは恋愛映画だった。運命的な出会いを果たした男の子と女の子が激しく衝突しながらも互いを強く求めるっていう内容で、青春ドラマに無関心な男子たちは早々に休憩に入っていった。残ってる女子も何だか眠たそうにしてる。確かに王道ストーリーだからちょっと飽きやすいかもだけど、恋愛未経験者の私でも楽しめるくらい素敵なお話なのに。みんなちょっと勿体ないよ。なんて考えていたら。
「な、アオイ」
「ん?」
突然お隣さんに話しかけられた。上映中だから耳元だけにヒソヒソと。
「これ、楽しい?」
「うん。楽しいよ。スグリは?」
「俺も楽しい。参考さなる」
参考って何の? バトルに繋がりそうな展開なんて一つもなかったはずだけどスグリは何かインスピレーション受けたのかな。どの場面が参考になったの、と尋ねようとしたけれど。
「アオイって恋したこと、ある?」
スグリの質問の方が先だった。ぽそぽそした小声が、ほんのちょっぴりくすぐったい。
「ないよ」
嘘つく必要もないから素直に答える。スクリーンにはヒロインが大好きな人にラブレターをしたためているシーンが映し出されてた。デスクライトの煌々とした灯りに照らされた乙女の顔はとても真剣で、とても美しかった。
「じゃあ、してみたいって思ったことは?」
「そうだなぁ」
これまで考えたことすらなかったけど。
「うん。私もこんな恋、してみたいかも」
特定の誰かを思って、笑って泣いて苦しくなって。相手を頭に浮かべるだけで幸せになれる。恋がそんな素敵なものなら私も経験してみたい。
「そっか」
「う、うん」
どこか強張った調子の返事をして、スグリはまた黙ってしまった。急に変な質問をされたせいなのか、胸のあたりがざわざわして落ち着かない。質問の意図もよく分からないし、答えさせるだけさせてダンマリになったのも訳わかんない。私だけ開示したのも不平等だ。だからちょっとした仕返しのつもりで私も同じ質問をぶつけてやることに決めた。
「そういうスグリは? 恋したこと、あるの?」
「あるよ。今、してる」
「え」
返ってきたのは意外な答えだった。てっきりスグリも恋愛未経験者だと思ってたのに。
予想外の返答に胸のざわめきが強まる。デカハンマーで殴られたような衝撃で頭の中真っ白なのに、目頭だけがやけに熱い。混乱状態になってる私をよそにラブストーリーは進行していく。少し目を離した隙にヒロインと男の子がまた喧嘩してた。投げつけられた手紙を切ない表情で拾う男の子、逃げ込んだ先で大泣きするヒロインと寄り添うメッソン。観てなかったシーンがあったからか
——
何だかさっきより集中できない。
原因不明なぐちゃぐちゃに襲われて戸惑っていると、不意に右腕に温かいものが触れた。スグリの左腕だった。なかよしの友達の適切なそれだった距離が急激に縮まっていく。なのに嫌悪感はない。
……
むしろ。
「なあ、アオイ。もしアオイが恋したくなったらさ」
穏やかで柔らかい高音が耳たぶをくすぐる。ぶわっと身体が熱くなる。息が苦しい。だけど、どうして。私今、嬉しいって思ってる。
「相手はどうか、俺にして」
スグリの声は画面の中の男の子より甘く切なく掠れてた。
言葉の意味を理解できなくて反射的にスグリの方を振り返る。ぼんやりした暗がりの中、金ぴかな目が一番星のように燃えていた。頬はツヤツヤのりんご色に染まっていて
——
まるで、今流れてる映画のヒロインみたい。真剣で美しい、恋する人の特別なかんばせ。
「なん、で?」
辛うじて絞り出した三文字を受け、スグリの肺が静かに膨らむ。
「アオイのこと好きな気持ちは誰にも負けねぇ自信さあるから。他の誰かに、アオイに恋教える役、譲りたくねっから」
「それって、どういう」
スグリは一瞬目を伏せた後、再度私を見つめて、やっぱり視線をキョロキョロ泳がせて、唇を震わせながら深呼吸した。
「す、すきです
……
って、こと」
飾らない言葉が私をまっすぐ貫いた。さっきまでちゃんと聞こえてたはずの音声はどこか遠くに行ってしまって、何て言ってるかちっとも聞き取れない。
「ちょっと、飲み物取ってくる。返事はいつでもいいから」
全身がドクンドクンうるさいのに、なぜかスグリの声だけははっきり聞こえる。部屋は相変わらず暗いのに、スグリの今にも泣き出しそうなむちゃくちゃな笑顔もちゃんと見える。
——
ううん、違う。今この瞬間、スグリだけがクリアに見えてるだけだ。スグリしか、映ってないだけだ。そう気付いたら、あとは簡単だった。
離れていこうとしたスグリの裾を小さく掴む。
「いつでもっていうのはさ」
「
……
ん」
「今でも、いいの?」
「え」
瞬間、満月色の瞳にいっぱいの星がきらめいた。スグリがこんなにも眩しかったなんて、私全然気付いてなかった。他の誰かは知ってたのかな。
——
まだ誰も知らなければいいな。自分勝手な願いを込めるように指の力を強める。
「スグリ。私と恋、してください」
自分でも驚いちゃうくらいロマンチックな言葉がスルリと出てきた。だけどその後はどうすべきなのか分からない。私今、絶対ブーバーンより熱い。顔だって絶対コライドンより赤い。感じたことのないレベルの恥ずかしさを隠そうと俯くと、隣から座り直す気配がした。
「
……
手、繋いでいい?」
首を縦に揺らすとスグリはちょっと間をあけてから手を握ってきた。そろりそろりとした手つきが我慢できないほどくすぐったくて、でもなぜだかとても嬉しくて、私も同じ手つきでスグリの手を握り返した。
はじめて知った私の恋は映画のように情熱に満ちているものではなかった。代わりに、優しい人の手のひらみたいにほのかに熱くて、爆発しそうなほどドクドクうるさくて、ジャージの粗い目が頬に食い込んで痛痒くて、チョコレートの洪水に飲まれたような甘い香りが満ちて
……
とても幸せな心地がした。
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