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サブさぶれ
2026-05-09 17:14:23
23948文字
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原作軸
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原作軸②
原作軸のSS・短編置き場②です。
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「幸せな恋」
ねーちゃん以外の人を初めて寮の部屋に招いた時、真っ先に枯らしてしまった観葉植物について言及された。
「あはは、葉っぱ茶色になってる。お水あげてなかったでしょ」
「う、うん
……
」
入学した時からの同居人は元の青さを失い、部屋の片隅で萎れていた。最初の頃はこんな惨めな姿じゃなかった。ピンとした張りがあって、ツヤツヤで、葉の先までしっかりと生きていた。今はそんな面影すら残っていない。
「枯らしちまって、悪かったなぁ
……
」
床に落ちていた死んだ葉を手に取る。水分を満足に与えられなかった幹は、腰の曲がった痩せた老人のように卑屈にうなだれている。
これも全部、俺のせい。焦ってた時の自分がこの木を殺してしまったんだ。今更すぎるけど、ごめんなさいと心の中で干からびた木に謝った。俺が悪い事なのに、目の前が少しだけ滲んだ。
観葉植物すらまともに面倒見れない奴だって知って、アオイだって引いちゃっただろう。アオイが来る前に先生に言って変えてもらえばよかった。食べた後のごみは捨てたけど、まだ完全に片付けられていない。「あの時」の恥ずかしい記録を残したままの部屋にアオイを通すべきじゃなかった。遅すぎる後悔に肩を落とす俺に、アオイは事も無げに返した。
「え? まだ大丈夫だよ」
「えっ! ほ、本当!?」
びっくりしてアオイの方を振り返る。アオイはスマホロトムを取り出して、すいすいとポケモン図鑑を開いて俺に見せてくれた。表示されていたのは小猿ポケモンのサルノリだった。
「コーストエリアにいるサルノリってね、枯れた植物を元気してくれる力があるんだって。ゲットして助けてもらお」
アオイが指を動かして詳しいデータを見せてくれる。独自の進化を遂げた特別な枝を持っていて、それを使ってリズムを刻む習性があるらしい。そのスティックを草木の近くで使って遊ぶと、枯れた草木に活力を与えることが実証実験で確認されている、と書かれていた。
「わやじゃ
……
。そんな事さできるなんて知らなかった
……
。サルノリってすげー。アオイもよく知ってたな。さすが」
俺が褒めると、アオイは頭をポリポリと掻いて少し照れ臭そうに言った。
「私のママがね、家庭菜園とか結構やる人だから、ちょっとだけ詳しいんだ。あとは栄養剤入れてあげて、朝と夕方にちゃんとお水あげたら多分もう枯れないよ」
「そっか
……
。よかった。こいつ、元気になるんだ」
ほとんど生きていない、ただの棒切れに成り下がった木を見る。アオイのアドバイスをもらって、ポケモンの力を借りれば、こいつはもう一度生き返るんだ。そう思うと、こんな俺だってやり直せるんだって言われた気がして、何だか勇気がもらえた。目の奥が熱くなってきたのをどうにか誤魔化そうと、俺は後ろを向いた。泣きそうになってる俺に気付いてないアオイは明るい声を俺に向けてくれた。
「よーし! 早速コーストエリア、行っちゃお!」
「い、いいの?」
「うん! ここまで来たら乗り掛かったラプラスだよ!」
そう言うとアオイは行こう、と手を差し伸べてくれた。あの時と同じ、太陽よりも眩しい顔で。
アオイはいつも俺に色んなことを気付かせてくれる。今まで見えてなかった世界や、自分でも知らなかった感情すら。胸の中いっぱいに広がる気持ちが、わやかっけーとか憧れとか友達とかありがとうとか、それだけじゃ済まされないって、さすがの俺でも気付いてる。
差し伸べられた手を取ってエレベーターまで二人で走りながら、俺は今までの人生の中で一番大事にしたい気持ちを再確認した。
次の週の月曜日。昨日街で買ってきた物を持ってアオイの部屋に行く決意を固める。白くてパキパキに硬い、女子が持ってるみたいな袋を下げてるところ、他の人に見られるのちょっと恥ずかしいけど、そんなこと言ってられない。
日曜の夕方からずっとうるさいままの心臓を抱えながらアオイの部屋の扉を叩く。深呼吸をしすぎたせいか、喉が乾燥して痛い。ドタドタした音の後、いつもの完璧に可愛い姿のアオイが扉を開けた。
「あ、スグリだ。私もちょうど会いに行こうとしてたんだ」
アオイはいつも付けている髪飾りとは別の、黄色いリボンを付けていた。オシャレさんだなあ。見惚れていたい気持ちを抑えて、少しでもいいなって思ってもらうために、一生懸命笑顔を作った。
「んだばタイミングよかったな。会いに来ようとしてくれて嬉しい。んで、何かあった?」
俺の顔を見たアオイは、一瞬だけチョコ色の目を見開いて、すぐに柔らかく細めた。余計な物がない、シンプルでストイックな部屋に通される。何の匂いか分からないけど、ふわふわしたいい匂いがした。好きな子の部屋にいると思うと、何だかいたたまれない気持ちになって、俺はずっと床ばっかり見ていた。頭の向こうでアオイが何かを動かした音がした。何だろうと目だけアオイに向けると、アオイは小さな植木鉢を手にしていた。そして、手の中で大事そうに包んでいたそれを差し出してきた。
「これ。机の上で育てられるんだって。可愛いから買っちゃった。幸福の木って言うの」
「え、俺に? くれんの?」
ずいぶん縁起のいい名前の木は、深い藍色の鉢の中でいきいきと胸を張っていた。凄い名前の木があったもんだ。アオイは本当に色んなこと知っていてすごいな。中心に白い筋の入った葉っぱをまじまじと観察する俺を見ながら、アオイはまたにっこりと笑った。
「枯らしてないか、時々抜き打ちチェックしに行くからね」
「にへへ。今度はもう大丈夫。ありがとな。絶対大切にする」
「うん
……
。受け取ってくれて、よかった」
アオイは三つ編みの先っちょをもじもじさせながら下唇をギュッと噛んで、口の形を変な形に曲げていた。これはどんな気持ちの時の表情なんだろう。女の子って全然分からない。もしかして、俺が受け取らないかもって思ったのかな。好きな子から貰った物だったら何だって大事にするのに。一回植物を枯らした俺じゃ不安だったのかな。ううぅ、反省だ。
なんて落ち込んでる場合じゃない。俺には絶対やらなきゃいけないことがあるんだから。アオイから貰ったプレゼントに見劣りしないか不安を覚えつつ、けっぱれと自分にエールを送ってから切り出した。
「俺からも、これ。あの木のお礼に」
「
……
! これ
……
、」
袋から取り出したのはプリザーブドフラワーという、凍らせて枯れなくさせた花の置物。フリフリのレースや白くて小さい花に囲まれた三本の濃いピンク色の薔薇が真ん中に鎮座している。ガラスのドームの下に赤いリボンが巻かれていて、男の俺から見てもすごくめんこい。
買った時のことを思い出す。照れながら店員さんにどんな物が欲しいか伝えた時。それを聞いた途端、ちょっと気難しそうな顔のおばさんがニヤリと笑って「打ってつけの物があるよ」と言ってこれを出してくれた。
意味も、きちんと添えて。
重たいって思われるかもしれないけど、それでも伝えたい。どうして俺がこれを選んだのか、アオイに聞いてほしい。
「店員さんに聞いたんだけどな、これって、」
緊張でうろうろしていた視線をまっすぐアオイに向ける。アオイは白くて餅みたいな頬を赤くして、口をパクパクさせていた。ちょっと、コイキングに似てる。
……
まだ何も言ってないのに、どうしてそんな顔をしてるんだろう。分からないけど、俺の気持ち、ちゃんと伝えなきゃ。
深呼吸を一回してから、ゆっくりと、話の続きを聞いてもらった。
俺が幸福の木の花言葉を知ったのはこの日から数週間後。サルノリのおかげで完全に元気になった木を見に来た、できたばかりの恋人から「実はね、」と告白を受けてのことだった。
※濃いピンク色の薔薇:感謝、愛している
三本の薔薇:愛しています、告白
プリザーブドフラワー:本来の花言葉に「永遠」の意味が添えられる
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