サブさぶれ
2026-05-09 17:14:23
23948文字
Public 原作軸
 

原作軸②

原作軸のSS・短編置き場②です。


好奇心


 ときどき無性に〝よくない〟ことをしたくなる。もちろん人やポケモンや物を傷つけるってイヤな類のものじゃなく、ちょっとした好奇心を満たす程度のことだけど。
 例えば曰くつきの杭を抜いてみるだとか、行っちゃダメと言われてる場所にコライドンごとダイブしてみるだとか、あってないような校則を破ってみるだとか。
 スマホに流れる動画ばかり眩しい中、サイダーの甘さがまだ残っていそうな唇を見る。

「なに?」

 私の悪癖に付き合わされた人がくすぐったそうに微笑んだ。嬉しいって気持ちを存分に教えてくれるまぁるいほっぺ、細められた白色に照るまつ毛。私は喉だけでクツクツ笑う。

「ねぇ、なに?」
「んー? べつにー?」

 別に何でもない。ただ、ほんのちょっと、どうしようもなく。やわらかいものがほしくなっただけ。
 一回。ふわふわの下唇は期待していたよりもサイダー味じゃなかったけれど、そんなのよりもはるかに私を幸せにしてくれた。
 二回。すっかり乾いて音すら鳴らない。『特別な許可なく他人の部屋に泊まってはならない』の校則を破った夜にふさわしい、静かなくちづけ。
 三回。やっぱり触れあうだけじゃ物足りない。もっともっと君がほしい。
 指先だけでロトムに「机に行ってて」と指示を出し、完全な二人きりを仕立てあげる。残りわずかだった距離をさらに縮めてゼロにして、もっともっと深くを求める。いざ四回目と小さく息を吸い込んだ途端。

「それ以上はダメ。禁止」

 細い指にそっと押さえ込まれる。隙間から真っ赤に茹で上がった可愛い顔が見えた。

「禁止されると逆に燃えてきちゃうんだよね」

 この人の優しいのを、私が一番よく知ってる。ささやかな抵抗を難なく払いのけ、大好きな人にもう一度キスをする。もう一度、もう一度。キスの隙間で足を伸ばし、少しこわばったふくらはぎを突いてみる。すうっと撫でる。かすかに跳ねたなめらかな肌に「だいじょうぶ」とささめくと、貪られてばかりの唇から苦しげな息が漏れたのが聞こえてきた。

……本気にしちまう前に、やめて」
「ヤダ。やめない」
「アオイ、」

 意固地な声に反応したスグリが肩を押し返してくる。火照る顔にぎらぎらした光を宿して、それでもなお私を傷つけまいと踏みとどまってくれる。気持ちがあふれて溺れちゃいそうになるくらい優しくて可愛くて強くてかっこいい。
 ——ああ、本当。ほんとうにだいすき。逸る欲を堪えつつ私は再度唇を重ねた。これまで以上にやわくやさしく、とかすように口付けた。

「おねがい、スグリ……やめないで」

 やめないで。そのままの君を私に受け止めさせて。
 精一杯の想いをぶつける。満月より優しく輝く金色が惑うように揺らめき、伏せられ、少し震えて見開いた。

「後悔しても知らねっから」

 私の欲の底を知らない人は最後の警告をした直後、鋭い目をして私に覆いかぶさった。一瞬見えた甘くとろけた目尻を愛おしく思いながら、私は細い背中を掻き抱いた。



 ふたりの境界線をあやふやにした夜が何食わぬ顔であける。好奇心と「大好き」に満たされた私ははじめて、おっとりさんの寝相のやんちゃさを知った。