サブさぶれ
2026-05-09 17:14:23
23948文字
Public 原作軸
 

原作軸②

原作軸のSS・短編置き場②です。


もしも願いが叶うなら


※後半から成長ifです

 もしも大好きな恋人と一年に一度きりしか会えないのだとしたら。
 好きな人ができて初めて真剣に考えた。紫色のペンをクルクル回しながら呟く。

「それって、スマホもダメなのかな」

 会えないのならせめて声は聞きたい。電話がダメならメッセージだけでもいい。アオイの言葉を受け、机を挟んで向かい側、願い事を書いていた人が顔を上げる。

「そもそも俺、まだスマホ持ってねっからなぁ。手紙はどうなんだべ」

 カイリューもグライオンも、アオイがどこさいても絶対ひとっ飛びで届けられるよ。そう言ってスグリは自慢げにモンスターボールを撫でた。ふんわりほどけた太い眉毛が可愛くて愛おしくて、胸がギュウウと苦しくなった。

「留学終わっても、また会いに来ていい?」

 たまらず左手を伸ばし、大好きな人に触れる。スグリは即座に意図を察して、くるんと手のひらを返してくれた。指先が甘く絡まる。穏やかな体温にぐじぐじした心がほぐれていく。

「俺もそっちさ必ず行くから。手紙もいっぱい送るから」

 だから、そんなに寂しがらないで。
 少し滲んだ視界の先で大好きな人が優しく、力強く微笑んだ。アオイも負けじと笑顔を作った。
 ——もし一年に一度しか会えなかったとしても、スグリとならきっと乗り越えられる。きっとずっと仲良しでいられる。だって、スグリと私だから。
 いまだに震える不安な心を奮い立たせ、黄色い短冊に願い事を記していく。

『いつまでもスグリと』



 もしも大好きな恋人と一年に一度きりしか会えないのだとしたら。
 それを途方もない悲劇だととらえて涙目で手を握り合った幼い日を追憶する。
 学校を卒業し、好きな地方をそれぞれ旅するようになった今じゃ、一年に数度しか会えない方がデフォルトだ。メッセージや電話や手紙のやりとりができている分、伝説上の彼らよりずいぶんイージーモードなのは理解してる。それでも寂しさは勝手に募っていく。彼が滞在してる地方行きの飛行機に飛び乗ってしまおうかと真剣に悩んだ日だって何万回もあった。
 たまの逢瀬でも耐えられたのはきっと……

「アオイ!」

 やわらかな低音が自分の名前を呼ぶ。互いの姿を確認した瞬間、それまで抑えていた糸が切れたかのように駆け出していた。

「スグリ!」

 明るく輝いていた顔が距離が縮むにつれてくしゃくしゃに潤んでいく。泣き笑いの表情が彼の気持ちをたくさん教えてくれる。アオイは両手を大きく広げ、地面を蹴って飛び込んだ。

「会いたかった」
「私も。会いたかった」

 わずかな隙間さえ許さぬ力で抱き締め合う。一時間かけて整えた髪をぼさぼさに乱す手も、息苦しささえ愛おしい。五感全てでスグリを感じる。伝説の恋人たちもきっと、こんな逢瀬を交わしたのだろう。
 大好きな人の腕の中、もう一度あの日を——短冊に託した願いを思い返す。

『いつまでもスグリと大好き同士でいられますように』

 アオイの願いは間違いなく叶えられた。