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サブさぶれ
2026-05-09 16:31:23
16963文字
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原作軸
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原作軸①
原作軸のSS・短編置き場です
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かおる
円形に切り抜かれた黄昏の中をキャモメたちが悠然と泳いでいく。寂寞とした光景に感じるのは、今自分が置かれてる状況のせいなのかもしれない。
アオイの留学が終わる。明日の朝、船と飛行機を乗り継いで、彼女は遠くパルデアへ帰っていく。
真横の彼女はどんな気持ちなんだろうか。心なしか、普段より口数が少ない。互いに集中できていないのか、断続的な会話はどちらも絶妙に的を得ていなかった。そんな状態が朝から、いや、三日前から続いている。
ポツポツと続けていた会話のラリーもいよいよネタが尽きて、沈黙の時間が長くなってきている。空には夜の紺色が入り混じり始めていた。
硬直した二人の時間を動かし始めたのはアオイだった。ブルーベリー学園指定の赤いリュックをガサゴソとまさぐり、何かを取り出す。
「これ、スグリにあげる!」
「ホシガ、リス
……
?」
手渡されたのは、ほおばりポケモンことホシガリスがぐっすり安眠しているようなぬいぐるみだった。ちょうどスグリの両掌に収まる程度の大きさのそれは何とも愛らしい、女の子が好きそうな品物だった。
「それね、私が小さい頃から使ってるホシガリスぬいぐるみのちっちゃい版なんだって!」
「アオイのぬいぐるみと、おそろい
……
」
胸がドキンと高まる。同時に、お別れする友人(もっと正確に言うなら片思い相手)に何も用意してなかった気の利かなさにズキンとした痛みを覚える。
「それを、私だと思って、大事にし
……
」
まろく優しい声が震えていると気がついて、ぬいぐるみから彼女へ視線を戻す。そしてギョッとした。アオイのアンバーの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていたのだ。
「アオイ、」
片想い相手にどこまで触れていいのか分からない。だけど、今この涙を掬い上げる程度は許されるのではないか。
スグリは泣くアオイを他の誰にも見られぬよう、壁になる形で彼女の正面に向かい合った。グローブをしていない左手で、そっと頬を拭う。この世で最も尊いものに触れる時の慎重な手つきで、自分の体温を伝える。初めて触れるアオイの顔は、柔らかくハリがあり、きめ細やかで、涙でびしょ濡れだった。
「俺、アオイがどこにいても、必ずまた会いにいくよ。だから、
……
っ!」
スグリの言葉はアオイによって遮られた。突然力強く抱き締められたのだ。
「スグリ
……
。寂しい。寂しいよ
……
。どこにも行きたくない。スグリもパルデアに来てぇ
……
」
「
……
。
……
行くよ。必ず行く。だから、待っててな」
ドギマギしながらもアオイを抱き締めかえした。互いにキツくない体勢へと身体を動かす。するとアオイの腕の力はさらに強まった。
「スグリ、スグリ
……
」
「アオイ」
肺が苦しい。物理的にも、心情的にも苦しくてたまらない。これは、絶対に勘違いなんかじゃない。全身が燃える。溢れ出る感情で溺れそうだ。どうにか息をしなくちゃと、口を開いて息を吐き出す。
「好きだ
……
」
「え、」
きゅうきゅうに締め付けられていた身体が突然緩められたのに驚き、直後、己の吐露に焦った。
「あっ! ご、ごめん
……
。つい、」
もっと然るべき場所、タイミングでやろうと画策していたのに、アオイが自分を好いてくれているような挙動をするから。いや、恋慕の情を抑えきれず、恋色の海で呼吸困難に陥った自分のせいなのではあるが。とにかく、スグリの告白はほぼ事故だった。
やり直したい。どうしよう。カッコ悪すぎる。どうしよう。どうしていつも間が悪いんだろう。
オタオタと焦っていると、やわらかな花の香りが再び近付いた。甘くてふわふわなシャボン玉にも似たアオイの香り。
「もう一回、聞かせて」
スグリの胸から切なげな声が届けられる。アオイは赤いタンクトップの肩口をギュッと掴み、スグリに自分のありとあらゆることを委ねるように儚げに縋っていた。
唾を飲み込む。夢見心地に浮かされた指先をどうにか動かし、見ていた以上に細っこかった身体を抱き締める。震えないでと伝えるべく、なるだけ優しく、伝わってしまった想いもたっぷり込めて。
大きく息を吸い込む。肺の上下に合わせてアオイも動いた。目を落とした先に見えたアオイのつむじの形に、何故か愛おしさが高まった。彼女にかからないよう注意を払って息を吐き出す。それから硬く目を閉じ、バトルと変わらぬ温度で目を開いた。
「アオイのことが、好きです。離れたくない。離したくない」
心臓が爆音を轟かせている。聞こえてるだろうな、と思い恥ずかしくなったが、腕の中の彼女はちょうど、スグリの薄い胸板を押して顔を上げたところだった。
「私も
……
。スグリが、
……
好き」
涙に滲んだ琥珀がとろりとほどける。チョコレート色の睫毛が伏せられ、残っていた雫が一筋落ちていった。
流れた涙を親指で追いかける。頬骨に添えた手に、アオイの体重が乗せられる。
「好きだ。アオイ。俺を、アオイの恋人にして」
「
……
はい」
アオイの手が重ねられる。いつかの朝と同じ、東雲よりもやわらかな笑みで見つめられる。
瞳を閉じたのはどちらが先だったろう。顔を傾けたのはどちらが先だったろう。きっと同時だったに違いない。
大好きの気持ちを確かめ合うファーストキスはほんの少し潮の香りがした。
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