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サブさぶれ
2026-05-09 16:31:23
16963文字
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原作軸
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原作軸①
原作軸のSS・短編置き場です
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きらめく魔法を、君と世界に
暗がりの中、ホーホーや夜行性の虫ポケモンたちの声ばかり響いている。ふかふかのお布団の、太陽や独特な香り
——
地元民曰く「お線香だべ」とのこと
——
を肺いっぱいに吸って、吐いて、また吸う。目を閉じる。寝るぞ、寝るぞ、と念じる。そして、またダメだったと目を開く。
仲良しの友達五人に「おやすみなさい」をしてから、体感一時間以上。アオイはなかなか寝付けずにいた。
スグリから「会いたいです」との手紙をもらい、キタカミを再訪してから四日。村を襲ったキビキビ騒動も無事終わり、遅れを取り戻すかのように朝から夜まで遊び倒した。全力でバトルして、ピクニックして、野も山も川も森も、キタカミの大地の隅から隅まで駆け回り、夕方のお祭りでは会場中に六人分の笑い声を轟かせた。丸一日たっぷり楽しんだ結果、公民館に戻る頃にはすっかり、HPゲージ残り1になっていた。あとは布団に倒れて今日はおしまい! と思った矢先。ゼイユが突然「今日はあたしたちも公民館に泊まるわよ!こんな超特別待遇、二度とないんだから!」と言い出した。皆驚いたが、次の瞬間には口々に「イイネ!」と言い合った。はしゃぐ空気をそのまま抱き締めて眠りたかったからだ。
わいわいガヤガヤ、講堂に布団を敷いて、また明日って挨拶して、プツンと電気が消えた。さぁ寝るぞと目を閉じ、大きく息を吐き出して、ようやく「私、スグリとお泊まりしちゃってる」と気が付いた。
林間学校で出会った、アオイの特別な友達こと、スグリ。彼とは出会ってから今に至るまで、怒涛の勢いで様々な体験を積み重ねてきた。甘くて優しくて温かで、一方で鋭い冷淡さや激情も秘めている不思議な男の子は、ぐちゃぐちゃに混ざった複雑な感情を持って、アオイにまっすぐぶつかってきた。ぶつかって、抱えていた気持ちを曝け出して、もう一度ゼロからやり直しはじめて。本気の笑顔を突き合わせられるようになったのは、ほんの三日前からだった。
そんな彼を「あれ、お布団お隣だ」と意識した途端、眠気がパルデアの大穴の奥底まで吹き飛んでしまった。
はあ、と息を吐く。自分のことながら、どうして寝られないのか分からない。知らない内に“不眠”の特性になっちゃった? どこかで悩みのタネでも飲んじゃった? あれこれグルグル考えて、やっぱり分からなくて、また目を開ける。角度の問題かと、頭を左に倒してみる。倒した先で、キラキラに輝く二つのお月様と目があった。
「スグリ、」
「あ
……
。アオイもまだ起きてたんだな」
「あ、
……
うん。スグリも」
アオイに悩みのタネを植え付けた元凶は、どこかくすぐったそうに目を細めた。ドクン、心臓が一層強く跳ねる。しかし、自分と同じく彼も起きてたのかと知ると、どうした訳か、肩の力が緩んだ。
スグリの頭が前に直る。解かれた長い前髪が、はらはら耳に落ちていった。
「俺、スイリョクタウンさずっと住んでたけど、公民館で寝んのは初めてかも」
極限まで潜められた声が、そう呟いた。スグリの真似をしてアオイも天井を見た。カーテンの隙間から漏れた月明かりがちょうど、一時だけの模様を描き出していた。
「じゃあ私、先輩だ。これで二回目だもん」
「ふふ、んだな」
他愛のない返事が、ふわふわのクッションみたいな笑い声に受け止められる。うるさいくらいに鼓動していた心臓がにわかに落ち着く。細く息をもらしたアオイを横目に、スグリはさらに独りごちた。
「友達いっぱいんとこで寝んのも、初めてだ」
先ほどより低い音が、身体の中に染み込んでいく。「私もこんなに大勢は初めてだよ」と答えかけたアオイを「俺な、」と続いた言葉が遮った。
「俺、アオイと出会ってから、初めてなこといっぱい経験してる。友達できたのも、家族以外で祭りさ行ったのも、自分の力で頑張りたいってわやけっぱったのも。
……
他にも、たくさん。リーグ部ん人傷付けたり、間違ったことたくさんしちまったのは、本当、ダメだったなって思うけど」
布団を被った語尾がモニョモニョ濁る。濁りながらも彼は「けど、けどな?」と懸命に想いを紡ぎ続けた。
「それでも、アオイと会う前より、バトルとかいろんなの楽しいとか、もっとけっぱりたいなって思えるようになった。世界って、こんなキラキラしてんだなって気付けた。
……
だから、」
左で布が大きく擦れる音がした。あ、と勘づきアオイも寝返りを打つ。予想した通り、スグリがこちらに身体ごと向き直っていた。
「アオイ。俺と出会ってくれて、ありがとう」
真っ暗闇の中、シトリンを砕いた瞳ばかりキラキラ瞬く。出会った頃と何一つ変わらない、まっすぐな視線や言葉、強い想いに心臓が痛む。鼻の奥がツンとする。
見つめる先でそんなことが起きてるなんてつゆとも知らない人は、にへへ、と空気をほのかに転がした。
「キタカミさ来てくれた時から、ずっと伝えたかったんだ。みんないっとこだと恥ずかしくて言えねかったけど、ねーちゃんのワガママに助けられた」
伝えたいと温め続けてくれた彼の気持ちに、じわじわ頬が熱くなる。どんどん脈が速くなる。
——
ああ、きっと。もしかして。そうだとしたら、どんなに素敵だろう。
高まり膨らむ胸を抑えつつ、眉を下げておっとり笑っているであろう顔を想像した。そして、寝付けなかった理由を悟った。
「私こそ。
……
私と出会ってくれてありがとね、スグリ」
たくさんの気持ちを与えてくれてありがとう。世界がもっと素晴らしく見えるフィルターをくれてありがとう。勿論、この感情だけが理由じゃないけど、それでも、たくさんありがとう。
五文字の音にこぼれんばかりの気持ちを乗せる。それだけでは伝わらないだろうから、手も伸ばしてみる。衣擦れと何かが動いた気配にスグリが全身を大きく震わせた。しかしすぐに持ち直し、アオイの真似をして、手を伸ばしてくれた。
ゆるく、あまく、指先を繋げる。心を繋げる。スグリの手は、うっとりするほど温かかった。
小さく互いの温度を交換しあう。穏やかに夜が更けていく。ようやく微睡み始めた睫毛の上に、スグリの囁きが乗っかった。
「俺、アオイと一緒にもっと色んな初めてさ出会いたい」
「例えば、どんな?」
問いかけた後、どうした訳かしばらく沈黙が流れた。寝ちゃったのかな、と思っていると、突然、重たい物を引き摺る音がした。正体は分かってる。ばっちり目の前で動いてたから。
スグリが身体をウデッポウのようにしならせて、布団ごとアオイの方へと近寄ってきた。
「たとえば
……
。恋、とか」
予想外の答えを放った人は、その大胆さとは裏腹に、顔を真っ赤に染め、視線を上下左右に落ち着きなく泳がせた。「言ってしまった」と慌てていた顔は、二度の長い深呼吸の後、真剣な面差しに変わった。
「俺。アオイと一緒に、恋に出会ってみたい」
強い想いがどこまでもまっすぐに、アオイの心を突き刺してくる。痛む部分から、じわりじわり、心地よい波が広がっていく。幸福感に絆された口角がふわふわ上向く。
躊躇いながらもアオイを求め、手を伸ばし続ける人に応えるべく、アオイも全身に力を込めて、布団ごと這った。
「
……
それなら、もう、出会ってるよ」
きっと、あの蒸し暑かった夏の日。目があった瞬間に出会ってた。本当は違うかもしれないけど、なぜだか今は、そんな勘違いをしていたかった。
ズリ、ズリ、ズリ。等間隔に並べた布団が、頑張った分だけ近付く。アオイの動きを見たスグリもまた、一生懸命布団を跳ねあげた。
二人でたくさん頑張って、ついには指の付け根までしっかり握れるほど近付けた。汗まみれの額をコツンとぶつける。荒い息で互いの鼻をくすぐって、歯を見せて笑いあう。
「アオイ、俺な
……
」
「うん」
きらめきの魔法にかけられた蜂蜜色の自分に微笑んでから、目を閉じた。それから
——
。
新しい気持ちを重ねあった二人で迎える明日はきっと、今日よりもっと輝いている。
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