Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
deutzialaughing
2026-05-09 21:00:00
27634文字
Public
大穢
Clear cache
甌穴の海
大崎さんが人魚の青海さんと暮らす対話体SS集
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
0 |名月(命日)
1955年9月。
あの日、青海さんは自らの首を掻き切り、意識不明の重体となった。
翌日、八丈島の病室で刑事から聴取を受ける最中、こんな相談を受けた。
青海さんにも同様に聴取が入る予定だったが、記憶の混濁が見られ、症状も重い。通常のやり方では難しいだろうから、事情の分かるものに補助役として入ってほしい、と。
自分に白羽の矢が立ったのは奇跡に近い出来事だった。後で聞いたところによると、他の生存者には断られたらしい。
「どなたですか」
「
……
自分は、あの日、大江島に居合わせた者です」
「大江島」
「
……
覚えていないんですね」
「はい。断片的にしか」
「あなたを診た医師からも、そのように伺っています」
「では。あなたは事情をご存知だと」
「
……
多少は」
「でしたら教えてください。私がなぜここにいるのかを」
「
……
島で怪我をされたんです。それも、かなり大きな」
「怪我。誰かに負わされたのですか」
「いえ、
……
ご自分で」
「そうですか」
「どこか、体調に違和感はありませんか」
「喉が痛みます」
「
……
」
「それと。脚が」
「
……
脚、ですか? そちらも痛みますか、」
「いえ。分かりません。動かし方が。動くのかすらも」
「
……
そう、なんですね」
「私のいるべき場所でないからだと思います」
「いるべき場所、ですか?」
「水の中に。深く沈んでいるべきだと」
「
……
」
「おかしなことを言っている自覚はあります。ですがそうでもなければ噛み合わないんです。身体の感覚が」
「
……
まるで、人魚みたいですね」
「人魚」
「きっとあなたは人魚なんです。
……
そう思えば、痛みは和らぎますか」
「そうかもしれません」
「では、今はそういうことにしましょう」
「はい」
……
こうなった以上、後には引けなかった。
警察に押収された彼の手荷物に、彼の身分を証明するものは入っていなかった。
足の不調があるとはいえ、大病院にも長くは置いてもらえないだろう。
自身が何者であるか分からない青海さんを、放っておくわけにはいかなかった。
かといって須賀の下宿に連れ帰るのは悪手だ、大家にも他の下宿人にも迷惑が掛かる。
何より、青海さんはもう「水の中にいるべきもの」として自分の身体を認識し始めていた。
ならば、それを崩さずに済む場所が要る。
水のある場所が。
少なくとも、そういうことにできる場所が。
そこで思い出したのが、自分と瓜二つの顔をしたあの人だった。
「大崎君、俺たち接触禁止の誓約書を交わしたばかりじゃなかった? なのに早々に俺に連絡を寄越すなんて。もしかして、俺が恋しくて会いたくなっちゃった?」
「違います」
「即答は酷くない?」
「ですが、あなたにしか頼めないことなんです。他の人ではなく」
「そこまで言われちゃあ仕方がない、一肌脱いであげよう。何をしてほしいんだ?」
「もし空き家をお持ちであれば、暫くの間貸していただきたいんです」
「空き家?」
「出来れば、藤沢に通いやすい場所だと助かります」
「新居探し
……
ってわけでは無さそうだ。今住んでるところを追い出されたとか?」
「いえ。ですが大家さんや他の方にご迷惑をお掛けするかもしれないので」
「
……
まさか、殺しでもやった?」
「
……
」
「冗談だよ、そんな睨む必要ないだろ」
「睨んでいません」
「そうだな、蒲田に使ってない別宅がある。折角だから君に掃除の依頼でもしよう。家賃は俺が持つし、部屋も好きに使ってくれていい」
「そこまで気を遣っていただく必要は、」
「兄貴がここまでしてるんだ。こういうのは乗っておくものだよ、大崎君」
こうして自分たちは、二人で暮らすことになった。
青海さんが息を続けられるよう、嘘で覆ったまま
——
。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内