akinoshiroihana
2026-02-03 23:24:27
18106文字
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ノーマルぷらいべったーゲッターネタ倉庫4

2021-22



しはすのころ

ええ、もう表に行列ができ始めちまってますから。
道路を挟んだ向かいの映画館を窓越しに眺めつつ言う。
一人で行くことにしますよ、これこれこういう成りで、こういう髪型の奴が後で来て何か尋ねたら「てめえ許さねえ」って言伝頼めますか?

喫茶店での待ち合わせは、後年で言う「マッチングが成立しませんでした」状態だった。来る途中で果たして迷子でも泣いていたか、大荷物のおばあさんにでも遭遇したか、体育会系のリーダーが時間を守れなかったということはせいぜいそういう線だろうとは理解しつつも、なにやらカップルの多いその日の店内に連れの友人が、「男」が笑顔で入ってくるのを肝を冷やしつつ待っていたハヤトはお冠だった。

過去に「失神者続出!」との宣伝文句の『エクソシスト』を観に行ったことがあるという友人が、この間は悪かったから俺が奢るよ、ちゃんと面白そうだし、と誘ったそれは鮫の出る映画らしかった。先日例によってハヤトの観たい映画についてきて、例によって隣で寝落ちしてのしかかって来た『デルス・ウザーラ』には虎が出たが、ひょっとして鮫と虎とで等価交換になると思っているのだろうか、と彼は内心首をひねる。
そういえば次に紀行物や半ドキュメンタリー長編を観る時には何といって振り切ればいいのだろう、あの「一人で映画」「一人でツーリング」といったものをおしなべて孤独の産物のかなしいもの扱いし、善意から付き合おうとするあの友人を。「怖い映画らしいから」?いや、これは駄目だもっと食いつく。「泣いちまう話らしいから一人で行かせてくれませんかね」―――ふん、これはいいかもしれない、これで行こう。そんな結論にたどり着きつつ、ハヤトは劇場の扉を潜った。

その約二時間後

「すまない!本当に悪かったよ!」
「いやもう言いなさんな、かまわねえよ!」

上映終了後のロビーで互いを見つけた彼等は一瞬で和解していた。想定外の「怖い」映画の衝撃で。現役で鬼と戦っている彼らにしても、人間を捕食してしまうタイプの敵にはそういえば久しく会っていなかったし、その分トラウマをえぐりもしたので、取り合えず彼らは言い争うより文字通り手を取り合って、そのショックを分かち合いたかった。
「『ゴジラ』みたいな怖さかと思っていたら、ぎりぎりありそうで
 でなけりゃもっとシートンっぽい『もう終わったことですが』感がある何かかと」
あんな怖さ特化だなんて。
「まさか漁師が、プロ中のプロが一番ひどい殺され方をするなんてなあ」
あの状況だったら助かる為の専門知識を一番多く持ってるだろう奴を「間違いなく殺されました」とやっちまうなんて、とんだサディスト展開だぜ。俺、年が明けても海に行く気になれねえや、きっと。
つき合わされたのが絶叫系の乗り物だとは覚悟完了していなかったらしい人みたいに、ハヤトが深々と溜息をつき長い前髪を疲れた風に掻き上げるのを見ながら、今はほっとする甘さが欲しくてコーヒーに五杯目の砂糖を投入するリョウも
「ああ、それは俺もすごく思った」
とだけ返し、スプーンをぐるぐる回す

来年の初日の出詣では海じゃなくお前の登山についていくかな
えっ(またこれか!?)
相変わらず仲睦まじいカップルの多い喫茶店の中、そこに溶け込んでしまっていることに双方気付かないまま、甘やかなざわめきの中で、彼らはそこにいた。


『ジョーズ』19751206日本公開


(了)