『若草物語』のジョーは風邪で外に出してもらえないローリーの部屋の窓に「やわらかな雪玉」を投げつけて呼び出すが
「警報を切れ、狙撃じゃない」
防弾ガラスに罅を入れて食い込んだ雪玉は、午前から景気よく一気に視界一面を白く覆ったはいいが、そのあとぴたりと止んでしまっている雪に、喜び飛び出していった勢いを殺すのに困った男れんじゅうがいい年して手を突っ込んだ結果の産物か。雪だるまにするには足りそうにない、投げ合うつぶてにもすぐ下の砂利が混ざるようになれば、殺傷力と遊びの難易度も上がったようだ
屋外駐車場は形状の異なる工事用車両が弾を避ける壁となりトーチカとなり、互いの本丸を落とすべく飛び交う雪玉は遂に號のそれを「取った」模様だった
窓の前に勝手に掲げられていたネーサーの青い小さなフラッグが、頭を飛ばされ、窓外の地下通路まで落ちたようだ。『あーちっくしょ、』と若人のぼやく声がする、よっしゃ陣地交代、と赤い小旗を振ってやって来る知った顔もあるので
「おい」
「おう隼人、出てこれねえならまあいいや、次は俺が守ってやるからよ」
安心してオシゴトしてろという元戦友の笑顔に隼人も笑顔で
「直撃したここだけで四万七千円、総取り換えで二十二万少々」
言いつつ窓辺の雪を白くも使い込まれた男の手が掬う。
「当たらなかったら請求しないでやるから
―――逃げられるものなら逃げてみろ」
窓辺の神隼人は、風邪引きの孤独なローレンス青年ではなく、『恐るべき子供たち』の美しくもいろいろひどいダルジェロスであったらしい。よって狙い定めて投げつけるのは心臓に他ならず、中に握り込んだのが重い石ではなく防犯のカラーボールであるのがせめてもの慈悲心か。
うわ待て、うぉあああああとの叫びのあと、しんと静まる雪景色。そして、
「また降り出したか。この跡を隠してもらえれば今日は職員が大騒ぎにならずに済む」
周囲にひっつけないよう帰って来い、寒いだろう俺は寒い、くしゅん、と閉じられた窓の外の雪原は、いまやひとごろし以外の何かが起きたとは考えづらい色が飛び散っている。
「うわひっでえ」
「アイツの色の上に、もひとつアイツの色だ、迷いが無えったらねえ」
医者にいろいろ止められている筈のあの男は、それでも。あんにゃろうめ、ははっ
「あ?」
応えることはせず、朱に染まった男もへっくしゅんとしわぶいた
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