akinoshiroihana
2025-12-19 00:47:12
9571文字
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名刺置き場14

25年末スタート





可哀想に

浅間学園の司書室から覚えのある声がそんなことを言うのが聞こえたから

竜馬は「失礼します」と言うのも忘れてがらりと引き戸を開けた
「あらリョウくん」
「どうしたんだい」
「花がね、この寒さで、お部屋の中でも霜焼けしちゃって」
「しもやけ」
「そうよ、梅なら咲いたままで枝から落ちちゃうわ、この花ももうだめね」
「えっ捨てるのかい、こんなにきれいなのに」
純白のふわふわとした洋菊が、その無数の花弁の縁を仄かにも鮮やかな赤に染めている。それはミチルの駆るコマンドマシンの白と赤を思わせもしたのに、今は黒地に赤のラインのほっそりとしたセーラー服に身を包んでいるミチル当人はすげなかった。だめだめ、この赤くなったのがもうおしまいですっていう状態なの、と。
「お華をやる先生が見たら、お見せできないようなものをって言われちゃうわ」
てきぱきと花瓶から出され、ゴミ箱の上で茎が二つに折られそうになったところを
―――あ、あっと……少しもらっていってもいいかな、可哀想だよこれは、確かに」
言って一輪だけを救い出した竜馬は図書館前の冷え冷えとした廊下に出る。と、すぐ脇の階段を上がって来る隼人がいた。

「なんだいどうしたんだ」
「いや、ミチルさんがバッサリ捨てそうだったのが可哀想なぐらいきれいでさ」
昨夜の冷えで霜焼けだって、と人の良い調子で繰り返す竜馬に隼人はシックローズ、と呟いた
「なんだって?」
『嵐の吼(ほ)える 夜中に飛ぶ 目に見えぬ虫が』―――いやこの場合冷気か?
そいつがこの花の褥に這い込み破滅させたのが見て取れるぞ、って詩(うた)。
恋愛沙汰に巻き込まれたか初めて恋したかもてあそばれたか、昨日までの純粋さや快活さを失って見える女性を歌ったかそれに見立てた花か、ちょっと尖んがりすぎた天才詩人がそう歌ったんだよ。
はたまた病んで見えるそのさまがしかしそれゆえ美しいというのかもしれねえな、言いつつ竜馬の手の中にあった花の花弁を無遠慮に掻き分けるのは、彼もミチル同様、この美しい花がもう長くないと見て取ったのかもしれない。
「そんなにもうダメなのか?こんな少しだけ赤くなっちまったら?」
きれいになったじゃなないか!そう竜馬が、赤い愛機を駆る彼が僅かな抗議を含ませれば、白いジャガーの機手である隼人はその白い顔を傾け、白い花をくるくる回して言う
And his dark secret love
Does thy life destroy.
「なんだっていうんだ、もう」
「お前さんの色に染められちまったらなあ、へっ」

『彼の暗くてひそかな愛が
お前の命を滅ぼしたのだ』

なぜ わたしを 見付けてしまった