後ろ手にドアを閉じて
靴底にへばりついた雪を玄関マットでこそげ落とす仕草は、普段さほど突出しては見えない四肢の力強さと肉体の頼もしい重量感が朗らかな人格から柔らかにはみ出ている
防寒具で着ぶくれた両肩に降りつのったぼた雪をも同じ大きな動きでざっと払うも、室内の温度にみるみる赤らんでいく頬と鼻先を庇う間もないのは、寒暖差でどくどく痛んできたであろうこめかみの辺に手を遣っているせいか
雪灯りが眩しい玄関口から二重扉を開ける薄暗いそこまでを、トカゲ人間や鬼にも狙われるから付けてあって当然の早乙女邸の警備監視用のカメラで見守り
「よう」
ソファの上、長々と寝そべったままの彼がそうとだけ声を掛ければ、竜馬は「ただいま」と微笑みつつ生理的な涙をこぼした
「なんだ?きらきらしてきれいだけど寒々しい曲だな、このレコード」
暖炉前の一番いい場所を占領しているくせにいつもと変わらず真っ白い肌の隼人は、その何か冷ややかで美しいものがマリンスノーのように永劫降ってくるような音の中から身を起こし、暖まり過ぎていた細身のパンツが肌に触れたのか「あちち」と小さく文句を言った
「金平糖の踊りのとこだよ」
このバレエ組曲はクリスマスの日が舞台だからさ、
「バレエ」
「そこは気にしなさんな
―――今日の曲だよ」
『三銃士』の作家先生も参加したんだそうだぜと言われ、「へえ」と反応した竜馬はダルタニアンが副隊長になるところまでは読んだようだ。クラシックバレエについ触れたものの、何を着ようと手足の長さ
―――悪意のある者に言わせるなら蜘蛛のようなひどく長く細い四肢が目立つ隼人には、「バレリーナ」も揶揄ワードとして投げられたことがありそうだ
それで姉さんがクリスマスカードと一緒に寄越したのが京都の店の金平糖だったから、今日この曲でも聞きつついただこうかねと、さ。
お高そうな割にいちごや桃味って書いてあって元気ちゃん達も気になりそうだし、だからってミチルさんやおばさんにこのちんちくりんなほどの小さな包みをことづけたなら、新年のお茶会か何かまで茶箱に放り込んで失踪させられそうだと思って、お前が帰って来るのを待って動こうと。
コートを置いてこいよ、正座しなくていい方のお茶にしよう
見上げ、ソファから立ち上がって竜馬の胸をとんと押す隼人からは、胸の上、洞窟の奥深く竜の抱える財宝か宝玉みたいに守っていた砂糖菓子がほのぬくもって、ふわりと遠い光輝く季節の香りがするままに
おかえり、と隼人は言った。
竜馬が帰るまで、隼人は小さな星をずっと胸に抱いていたのだ。
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