一番聞きたくない言葉は?
心を込めた差し入れを持って行った時に
あわよくばそれでほんの少しでいい、二人きりの時間を過ごせたらと思っていた時に
「置いといてくれ」
そう言われたのだと銀色のトレイだけ抱えて帰って来た道着の男は、階段の端にどすんと座り込み、ようやく気を取り直して立ち上がった頃には尻が石のように冷え切っていたから、その鍛え上げられた体躯が情けない程ぐらついた。かつてヤクザの長ドスで刺された時には毛ほども動じなかった同じ男が。
「
―――神さんがそう言ったんなら、その返事であんた達としては間違ってなかったんだと思うけど」
銀の盆を手にした號が言う
「あのおっさんがどれだけの男かわかってるから、その男があんなに凹んだって事実がおおごとだしいたたまれねえ」
多分神さんの言葉は忙しい中ちょっかい掛けに来たあのおっさんの手をやんわりいなす代わりに勝手知ったるで峰打ちでもしたつもりで、間違えて刃が付いてる側でざっくり片腕斬り落としちまったやつだぞ、やべえよやり直してや
……いや謝れよ!
トレイは男の膂力プラス冦(あたん)によってひん曲げられるでも二つにへし折られるでもなかったが、彼がしおしおと真冬の階段に座り込んでいた間にハンカチかスポーツタオルの代わりに手慰みに揉みしだかれて、二度とカップの一つも乗せられないほど千々に乱れ(ルパン三世TV版ではバラバラとか木っ端微塵の婉曲表現)ていた。號が持ってきたのはその破片である
「何故そんな、あいつがか?」
モニターから顔を上げた上司の顔に號はぎょっとする。端正な面差しにエグイほどの目の下の隈。帰国後時差調整もせずデスクワークを片付けようとしたからか、クリスマスイブまでに、仲間との時間を得るために。
「消毒液ならそこに置いておいてくれと言った他は何もなかったと思うが」
「なんて?」
「だからあいつが消毒液を」
「神さん、それ、おっさんが持ってきたのはショートケーキ」
三時に食うやつな、イチゴが乗ってる
上司が顔の片側を掌で覆い、「あ」と小さく呻いたのに心を小さく跳ねさせつつも、だめだこれはもうこの人まず一回寝かそうと一文字號は思った
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