pinopipi
2025-11-07 17:28:47
16596文字
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水龍の愛は深海より深く

神様時代に結婚してたヌヴィフリが予言後に別れた話


離縁してから初めてフリーナの姿を見たのは、とある事件の裁判中だった。
彼女は端の観客席に座り、静かに傍聴していた。
見たところ健康そうで安心したのも束の間、彼女から向けられる視線はどこか苦しそうで、私も胸が締め付けられた。
やはり、私の顔など見たくなかったのだろう。思っていたよりも嫌われているのかもしれない。
そんな彼女が何故此度の裁判を傍聴しに来たのか分からないが、どうしても必要だったのだろう。
でなければ、私が審判官を担当すると知ってなお、彼女がここを訪れる理由はない。
だが、今そのような思考に囚われるべきではない。集中せねば。なるべくフリーナの方を見ないようにしながら、私はいつものように裁判を進行していく。
それからおよそ30分後、判決を下す前に彼女は静かに退席した。
出口に向かって歩く小さな背中が今にも消えてしまいそうなほど儚く、深い悲しみを纏っているように見えた。
とても心配だったが、今の私にはどうすることもできない。
裁判を途中で投げ出して追いかけることも、後で彼女に会いに行くことも許されない。
それでも、久しぶりに彼女の傍にいたいと思った。それは私のエゴであり彼女にとっては迷惑だと分かっているが、ただただ彼女を1人にしたくなかった。
だから裁判が終了した後、私はクロリンデを呼び出し、フリーナの様子を見に行って欲しいと頼んだ。
クロリンデは二つ返事で了承してくれたものの、「それほど心配でしたらヌヴィレット様が直接行かれてはいかがですか」と、至極当然のことを言われてしまった。
だが、私は裁判の後処理を理由にフリーナの元へ行くことができないと説明した。人一倍勘の鋭いクロリンデのことだ。私とてこの程度の理由で彼女を誤魔化せるとは思っていない。恐らく、そろそろ私が頑なにフリーナと会わないようにしていることに疑問を持ち始めていることだろう。
しかし、クロリンデは何かを察してくれたのか、それ以上深くは詮索しないでくれた。
分かりました。では後ほど、フリーナ様のご様子を報告しに参ります。」
ああ、助かる。よろしく頼んだ。」
クロリンデが執務室を出た後、私は、ほっと息を吐いた。
この調子ではいつまで誤魔化せるか分からない。会いに行かない理由も言い訳が尽きてきた。そろそろ一部の者には本当のことを話すべきなのかもしれないな、と私は気が重くなった。



「ヌヴィレット様、フリーナ様の件でご報告に参りました。」
3時間後、クロリンデは再びヌヴィレットの執務室へと訪れた。
「いつもと特段変わったご様子は見られませんでした。悩んでいることや困っていることもなく、最近は食事のバランスも考えていると。お元気そうでしたよ。」
「そうか。」
歌劇場でのフリーナの様子が些か引っかかっているものの、フリーナの親しい友人であるクロリンデがそう言うのなら彼女は大丈夫なのだろう。私は胸を撫で下ろし、ほっと息を吐いた。
私が安堵した様子を確認したクロリンデは「フリーナ様から伝言を預かっています。」と続ける。
私は一瞬どきり、としたが、動揺を悟られないようぐっと堪え、静かに頷いて続きを促した。
「フリーナ様はヌヴィレット様が休暇を取られているのかとても心配されていました。『最近働き詰めみたいだけど大丈夫かい?忙しいだろうけど疲れたらちゃんと休暇届を書いて自分で承認しなよ。昔から何度も伝えているけれど、キミの場合は息抜きも仕事のうちだからね。無理しないでちゃんと休まないとだめだよ。』と。」
……っ、」
フリーナが、私を心配している?私は彼女に嫌われていると思っていたが、考え過ぎだったのだろうか。
私が働き過ぎると部下が休めないからと、昔何度か彼女に叱られたことがある。だから私ではなく、部下のことを心配しているのかもしれない。
それでも、どうしても喜びが勝ってしまう。
彼女の言葉がどうしようもなく嬉しい。
どうやっても抑えきれない緩みきった口元を手で覆って隠す。
このような顔、部下に見せるわけにはいかない。
しかし、クロリンデには気付かれてしまったのだろう。珍しく一瞬柔らかく微笑んだ後、何も聞かず一礼して執務室を出て行った。
察しが良い優秀な部下で本当に助かるが、私の個人的な事情に巻き込んで申し訳ないとも思う。
部下に面倒をかけない為にも今後のことを考えねばならないと思いながら、私は再び確認途中だった書類に向き合った。