pinopipi
2025-11-07 17:28:47
16596文字
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水龍の愛は深海より深く

神様時代に結婚してたヌヴィフリが予言後に別れた話

所謂、一目惚れだった。
まさか、このようなことになるとは誰も想像していなかっただろう。
事実、私自身が一番驚いている。
もし他元素の同胞が聞けば「あり得ない」「血迷ったか」と一蹴し、失笑するのが容易に想像できる。
水龍であるこの私が、よりによって古龍の大権を掠め取った裁くべき俗世の七執政ーーー水神フォカロルスこと、フリーナ・ドゥ・フォンテーヌを愛しているなど。
彼女への恋心をはっきりと自覚した時、龍王のプライドがそれを認めたくないと本心に抵抗したが、いざ愛おしい彼女を目の前にすると、プライドなどちっぽけなものはすぐになりを潜めた。
私達は水龍と水神であり、元々ひとつだった大権が天理によって分たれ、それを所持する謂わば対の存在。同じ水元素から生まれ、全ての水元素を掌握する王と女王。番としてこの上なく相性が良いといえるだろう。つまり、彼女は私の運命の番なのだ。
そう自分を納得させると、気付けば私は躊躇うことなく彼女を口説いていた。彼女が逃げられないよう早急に外堀を埋めて囲い込み、私のものにしてしまいたかった。

しかし、現実はなかなか上手くいかないものだ。当初、私には圧倒的に語彙力がなかった。生活や職務に必要な最低限の言葉しか習得していない。だから当然、異性に愛を伝えるための言葉も知らなかった。それに、好まれるような表情の作り方も分からない。ゆえにこの身を焦がすほどの大きな愛を彼女へそのままの熱量で伝えることは非常に困難を極めた。そのため、言葉を尽くしてもフリーナには全く愛が伝わっておらず、最初の10年はなんと私の愛が愛だと認識されることもなく全てスルーされてしまった。時に言葉を誤って彼女を怒らせてしまうこともあったが、それでも彼女は翌日には私を許し、愛らしい笑顔を向けてくれた。その度に私は彼女への愛の大きさを更新していったのだ。

彼女はかなり鈍感なのかもしれない、と気付いたのは彼女に愛を伝え始めて20年が経った頃だった。その頃には私も少しは進歩し、言葉のレパートリーが増え、僅かに口角を上げられるようになった。しかし、彼女は一向に私の愛に気付いてくれない。恐らくだが、プライドの高い野生の水龍がやっと人間社会に適応し始め、神に対しても少し懐いてきた、せいぜいその程度にしか思っていないだろう。しかし、私は諦めない。必ずや彼女を私のものにする。そう決めたのだから。

彼女に愛を伝え始めて50年が経った頃には、愛の言葉だけでなく、贈り物をするようになった。最初は何を贈れば喜ばれるかが全く分からず、とりあえず私の好むものをと、おすすめの水を大量に彼女へ贈ってはよく困らせていた。しかし心優しい彼女は必ず礼の言葉を述べ、美しい笑顔を向けてくれた。私はその度に胸が高鳴り、いつかこの笑顔を独占したいと思った。

60年が経った頃にはケーキや花など彼女の好むものを贈るようになり、やっと喜んで受け取ってもらえるようになった。その時に見せてくれる彼女の笑顔は以前とは比にならない程とても眩しくて愛おしくて、見る度に私はこの上なく幸せな気持ちになった。不意に彼女へ触れたい衝動に駆られたが、同意なく女性に触れてはいけない、と彼女から直々に教え込まれているため、毎回ぐっと拳を握り込んで耐えていた。彼女はパーソナルスペースが狭いのか距離が近く誰にでもフレンドリーな態度をとっているが、それとは逆に他者から触れられることを警戒しているような態度を見せることがある。そのため、私は許可なく彼女に触れることができない。絶対に嫌われたくなかったからだ。