DRRV11037
2025-09-30 17:46:19
16304文字
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DRRV:1章地下道編




……もうやめるべきじゃありませんか?」

膝を抱える楸谷くんが卒然と問いかけた。
高級なスーツを濡らすことになったせいで不機嫌そうだ。丁寧なヘアセットも台無しで、長くしだれた髪は片目を覆い、水滴をしたたらせている。

「な、なんてこと言うんですか!盛り下げないで。諦めちゃ駄目です、もっと努力すればいけますって!」

反射的に改瀬さんが立ち上がった。楸谷くんの暗い紫の瞳とは異なり、彼女の瞳はいまだ眩しすぎるほど眩しく輝いている。

このまんま終わるのは俺ちょっと悔しいかも。厳しいのは確実だけど、なんかモヤッとするじゃん?この俺がモノクマに負けるみたいで」

仰向けに寝そべり、天井を見上げている昼間くんが呟いた。それからころりと回転すると、兄の意見を問うように上目遣いの視線を向ける。

「ふふ、えるだぁは負けず嫌いだからネ。でも、全く別の方法を考えてみるのもアリじゃない?勝つためにも、さ!」

そんな昼間くんを膝に乗せてやり、頭をよしよしと撫でながら、夜深くんが柔らかく引き留めた。その態度が妙に疎外感を煽った。彼はどんな罠でも常に難なく避けていたから、地下道への挑戦を続けてくれるかと期待していたけどそうじゃないみたいだ。

「諦めたほうがいいんじゃない?そもそも、モノクマにバレてるどころか誘導されてる出口で本当に出られるという発想がおかしい。もう内実は分かった。早めに切り上げて別のことに時間を使うべき」

楠木くんはすっかり呆れ果てて溜息をついたあと、マフラーをいたわるかのように撫でて、神経質に埃を取り除く作業を始めた。彼も、夜深くんと同じく攻略に近づいていた人なのに

「なんでみんな疲れてるのー?まだゴールしてないのに疲れちゃ駄目なんだよー。ジャンプのやり方教えてあげよっかー?したらゴールに辿り着けるかもだねー」

ヘアゴムを噛んだまま、びしょ濡れの白跳さんが言った。濡れた髪が邪魔にならないように、後ろにまとめ直している最中だ。彼女は跳躍選手の才能を活用し、誰よりも先に進んでいた。

誰もが白跳さんと同じではないのよ。周りをご覧なさい。挑戦を続けるとしても、挑戦できる気力の余っている仲間は何人かしら。もう半分程度まで減っていると思うわ。」

天探さんはみんなの様子を観察していた。焦げついたワンピースの裾を気にするそぶりもなく、ただ淡々とそれぞれの表情を見回している。

「目標を思い出してください!脱出できれば、モノクマの鼻を明かして全員帰れるんですよ!宿題にも試験にも仕事にも少しでも早く復帰できます!気力が湧いてくるでしょう!?ね、少しずつ罠の配置を覚えていきましょう。現に、最初のころより皆さんずーっと進歩してるじゃないですか。頑張りましょうよ!」

改瀬さんがそう励ました。天探さんは、本当にそうかなとでも言うふうに首を傾げて、ちらりと形代さんを見遣った。

「いつも足でまといで、迷惑かけてごめんなさいっ。みんなに追いつくこともできなくて、すぐ最初に転んで……天探さんが、気絶しちゃったみゆのこと、いつも抱えてくれたって聞いて……みゆ、もう迷惑かけたくないよぉ

運動の苦手な形代さんは、打ち身で赤くなった膝を抱えて泣いていた。震える小さな唇から切れ切れに言葉が漏れる。

「迷惑だなんて思っていないさ……どうか泣かないでおくれ。君はよく頑張ったよ。天探さんもありがとう。」
三品くんは、ハンカチーフで彼女の涙を拭っていた。周りの心配ばかりしているけど、こちらへ振り向いてふわふわ笑う本人の顔色は青白かった。

「これ以上続けるのは……ご遠慮願いたいな。みんなが脱出を急く気持ちは分かるけれど、焦りは禁物だ。帰って……休憩を入れて、またゆっくり他の方法を、探していこうじゃないか。」

な~んか、雰囲気悪くなってきましたね。」
釘山さんは、先端が欠けてしまったネイルを忌々しく見つめていた。

「シンプルに疲れたッス。そもそも、なんでそこまでして脱出したいんスか?純粋に疑問なんスけど」

「家族と友達のためだよ。外の世界で帰りを待ってる人たちと、一生離れ離れなんて耐えられないでしょう?みんな心配してくれてるはずだから

私はそう答えた。あとから清忌さんも同意する。彼女は濡れた着物の袖を絞り、ふやけたマスクをかなり気にしているけど、諦めるつもりはないらしかった。

「She‘s right. わたしたちには家族と友達がある。Plus、外の世界に暮らしを持ってる。超高校級としての暮らしね。それは脱出しないと失うことになる。Look around you, guys! 帰り道は目の前にあって、わたしたちは動くための足があって、しかも毎秒加速してる!やるべきことは一つ、外に出るだけ。どこに諦める理由がありますか。」

黒原くんがくくっ、と笑って、紫色の目を輝かせてさも嬉しそうにみんなを見遣る。

「そ、それならもしかしてっ、今やめたがってる人たちってさぁっ、外の世界の家族にも友達にも望まれないぼっちだったり、ショボい才能しか持ってなかったりするのかなぁッ?そういうことだよねっ?プライドがないからすぐ諦められるんだよねっ」

「おい、やめろよ黒原ッ!喧嘩にするつもりか?」と榊くんが黒原くんを制して黙らせた。彼の話は過激すぎる。それでも、釘山さんは重苦しい圧を込めて黒原くんを睨んだ。

楸谷くんは意に介さず立ち上がると、濡れて白く透き通った髪を神経質に搔き撫でながら一人でぽつんと立っている改瀬さんのもとへと歩み寄る。

「僭越ながら、貴女にアドバイスさせてください───」

180cm以上ある楸谷くんに、愛想を捨てた冷たい目を向けられるのは、結構な恐怖を伴うにちがいなかった。

「───努力は時に報われません。な~んの価値もありません。貴女一人が頑張りたくて頑張るのは結構、涙ぐましく応援させていただきますが、無理矢理巻き込んでこられるとこっちが迷惑です。努力神話と精神論はもうやめてください。うんざりなんですよ」

それでも改瀬さんは涙をこらえて負けじと睨み上げ、力強く反論を述べた。

「それは、報われるまで努力してないからです!どうしてたったこれだけのことで諦められるんですか?ワタシたちは今日たった一日で、推理通りの地下の脱出ルートを発見し、途中まで進むことができた。この成果は紛れもなく努力の賜物じゃないですか!明日、明後日、諦めなければもっともっと進めるはず!楸谷さんもその態度を捨てればきっと変われるはずです!みんなで脱出しましょうよ!」

改瀬さんがそう叫ぶと、声が広い地下空間に反響した。

私たちはみんな静かだった。
とてもとても静かだった。