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真九龍
2025-09-10 19:48:53
48337文字
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小説
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【鳴ライ】Sweet and Crisis
鳴海×ライドウで、”二人で女装”して潜入捜査するお話。
ラストのページはあとがき、と言う名の裏設定になります。
注1:両想いな鳴ライになっています。
注2:ライドウremaster版をプレイ及びクリア済み。ゲーム本編のネタバレが含まれます。
注3:攻めの女装表現が含まれます(勿論ライドウも女装します)。
注4:間接的ですが、名も無きモブの死亡表現が含まれます。
注5:女性軽視表現が含まれます。
1
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9
─漆─
晴海町郊外、森の中。
ジュボッコは、昏睡状態に陥ったライドウの身体を枝で絡め拘束し、十文字状に宙吊っていた。さながら、磔台無き磔だ。ジュボッコの幹から生え出た枝は、ミシミシ、ギシギシという軋み音を立てながら蠢く。枝の先端が一本、ライドウの右頬を斬り付けた。生じたばかりの傷から血液が滲み、滴り落ちる。
『嗚呼
…
何テ美味しい血ダろうか
…
!此の血を飲メば、ワたシハ若くナる
…
!モッと美しくなル
…
!』
枝の先端がライドウの血液を吸い取ったのか、ジュボッコは狂喜で舞い踊り、ライドウの身体に絡む枝が寄り締まる。此れだけ騒々しくても、身体を枝に締め付けられても、ライドウは微動だにせず、項垂れたままだった。
『フフふ
…
貴方ノ血
…
ゼぇんブ頂クわ
…
』
ジュボッコが幹から生やす枝の中で、最も鋭利な六本の枝がうねり蠢き、眠り続けるライドウに迫る。枝の先端は、ライドウの頬を気付けた枝と異なり、注射針の様な構造に模られていた。六本の枝は、ライドウの頸部、肘関節、手首に狙いを定め、体内の血液を一滴残らず吸い出さんと直進する。
途端、ジュボッコの幹に激痛と灼熱が迸り、幹を通して枝全体へと伝番していく。ライドウの目前で注射針様の枝が停止し、彼の身体を拘束する枝が離れいった。拘束無きライドウの身体は、地面にドサリと落下する。
『アッ
…
!が、あ、あ、あ、ア
…
!カラだが、ワたシの、からだガぁ
…
!』
ジュボッコは枝を形振り構わず振り回し、暴れ蠢く。熱い、痛い。一体誰が、純銀の弾丸を幹に撃ち込んだのだ。いや違う、此れはデビルサマナーが所有する、純銀の弾丸ではない。何か特殊な術が施された、別種の弾丸だ。ジュボッコは怒りにのたうちながら、体内に留まる弾丸の排出を試みる。此の弾丸を排出しない限り、真面に動くことすら敵わない。
「ライドウッ!!」
ジュボッコが排出に手古摺る最中、物陰から人間が、否、鳴海が飛び出し、地面に突っ伏すライドウの身体を左肩に担ぐ。
『鳴海!退却だホー!』
『何処かでルァイドウを起こさねぇと、ぅ俺達の負けダアァァァッ!!』
ライドウの奪還を成し遂げた鳴海は、ゴウトの言葉に従い、脱兎の如く其の場を離れた。ジュボッコが自身の撃った弾丸で硬直している隙に、出来る限り遠く。
「ほんっと
…
、あの時却下しなくて良かったぜ
…
ライドウ、お前の案がお前自身を救ったんだ」
意識の無いライドウに、鳴海は感謝の言葉を紡ぐ。
─鳴海さんの銃弾に、僕のMAGを付加したいんです。─
定吉とゴウトが退室し、二人きりになった時、ライドウは鳴海にこう告げた。
脈絡のない案を突拍子も無く思い付くライドウに、鳴海は頭を抱えた。今から悪魔の潜む邸宅に潜入するというのに、此の子は何を言い出すのか。だが、愛用のルガーをスカート下に隠して持参すると知った時、ライドウはあの時の出来事を思い出したのかもしれない。
上官だった男と己の過去に決着を着ける為、鳴海は単身造船所に侵入した。だが、船内にはゾンビーと実体化した悪魔が徘徊しており、退魔の力など皆無な自分は、ゾンビー一体倒すのにも相当の労力を要した。息も絶え絶えに最下層まで到達し、決着を着ける前に少し休息をしていた折、ライドウが来た。彼の眼は、怒りに燃えていた。なんて無茶な事をしたのだと、訴えているようだった。過去と感情が招いた自身の暴走は、ライドウが決着を着けたことで終息する。
此の経緯も有り、愛用するルガーの弾丸にライドウのMAGを付加するのは、別に悪い案ではない。しかし、体内MAGを消耗すると、影響が出るのはライドウだ。ところが此の子ときたら、消耗したMAGはお茶会で出るお菓子やお茶で、MAGの回復に努めると発言した。鳴海が持参予定のチャクラチップで回復すべきだと訴えるが、数に限りが有るので、此の場で使用しないでほしいと言い返される。自身の案を、意地でも通してほしいらしい。鳴海は苦笑いを浮かべながら、ライドウの意思を尊重することにした。但し、MAGを付加するのは、ルガーに装填可能弾数の八発と、チェンバーに装填済みの一発、計九発のみの条件とし、ライドウにMAGの付加を託す。
─必要最低限の装備になる以上、もしもの事が有った時、鳴海さんの力も借りたいんです。─
そして、ライドウのMAGが付加した九発の弾丸は、ジュボッコの変異体に全弾放たれ、激痛と灼熱を齎した。しかし、幾らライドウのMAGが付加した弾丸とは言え、本職たるライドウが撃ち放った純銀の弾丸とは異なり効果が低い為、足止め可能時間はかなり限られている。
『鳴海!そろそろジュボッコが動き出すかもしれないホ!あいつがオイラ達に追いつく前に、ライドウを起こさないといけないホ!』
「そうだな。よいしょ、と
………
」
鳴海は左肩からライドウを降ろし、横たえる。右頬に切傷が有る以外、他に目立った外傷は無さそうだ。二本の封魔の管をライドウの左掌に載せ、包み込むように収めた。
『ヌァルミイィィィッ!鎮心符は持っているカアァァァッ?!そいつを貼って、ルゥアイドウを起こすんダアァァァッ!!』
「だぁ~もう!一々喧しい奴だなっ!!ちゃんと持ってるっつーの!!」
仲魔のマッドな言い回しが鼓膜にキンキン響き、鳴海は負けじと声を荒げながら、ホルスターのポーチから鎮心符を取り出す。
鎮心符。
デビルサマナーの状態異常を瞬時に治療する道具の一つで、新世界の客ことサマナーの協力者が、念には念を押して持参するようアドバイスしていた。其のアドバイス通り、鎮心符は正に必要となった。ライドウの胸元に鎮心符を張り付けた途端、赤黒い閃光と電流が迸り、鳴海の手を跳ね返す。
「
…
ぃ、てぇ
…
!
…
?!符が
…
!!」
ライドウの胸元に張り付けた鎮心符は黒く変貌し、ハラハラと灰の如く散っていく。電流様のものが直撃した鳴海の左手は火傷のような痕が出現し、加えて、痺れを伴う痛みが左手腕全体を支配する。
『鳴海
…
ヤバいホ
…
ライドウに掛けられたドルミナー
…
只のドルミナーじゃないかもしれないホ!』
「
…
つぅ
…
何、だっ、て
…
?」
『ウオォォォッ!技芸属の勘が冴え渡ルウゥゥゥッ!!此奴は魔法を何重にも重ね掛けしてるかもしれネエェェェッ!!』
「
…
重ね掛け、ねぇ
…
」
一難去って、また一難。
鳴海は左手腕に広がる痛みに顔を歪めながら、眠り続けるライドウを見詰める。鎮心符を張れば、ライドウは直ぐ覚醒するものばかりだと思っていた。だが、違った。重ね掛けされた魔法を解かない限り、愛しき人は永遠に目覚めぬ。
『鳴海ぃ~
…
オイラ達は管の中からライドウを支援出来るけど、ライドウの意識が断たれるとMAGの供給が途絶えちゃうから、全く以って何も出来ないホ!!オイラ、治療魔法のパトラを覚えているのに
…
悔しいホ
…
!』
『グアァァァッ!万事休すカアァァァッ?!』
自責の念に駆られ、絶望する仲魔の声が鳴海の耳に届く。鳴海もまた絶望、などしていなかった。彼は再びホルスターのポーチに手を伸ばし、鎮魂符を取り出した。念には念を押し、鳴海は鎮心符を複数枚準備していたのだ。持参した枚数は、全部で五枚。うち一枚は灰燼と化し消失した為、残り四枚。
「重ね掛けっていうのはな
…
鍵の重複施錠と一緒で、一つ一つ執念深く解いていけば、何時か解除出来る
…
!まあ、俺の勘だけどな!」
鳴海は自身を奮い立たせる為敢えてにやりと笑い、ライドウの胸元に二枚目の鎮心符を張り付けた。しかし、二枚目の鎮心符も張った瞬間に閃光と電流が迸り、符は黒く灰燼化した。左手腕の痛みが更に増し、震えが止まらなくなる。鳴海は唇を噛み締め、三枚目の鎮心符を張り付ける。案の定、鎮心符は黒く灰燼し、鳴海の目の前で消失していく。電流の負荷に耐え切れなくなった鳴海の左手腕は皮膚が裂け、血液がぽたりぽたりと滴り落ちる。
『
…
!鳴海!赤黒い閃光が弱くなっているホ!!』
『ウオォォォッ!重ね掛けの魔法が少しずつ解除されているのカアァァァッ?!』
だが、効果は着々と、着実に出ていた。
左手腕に迸る激痛で脂汗が止まらない鳴海だが、只管に堪え、四枚目の鎮心符を張り付ける。符に、変化は見られない。遂に解除かと躍った矢先、鎮心符は赤黒い閃光を走らせ、黒の灰燼と成り果てる。
『あともう少しだったのに
…
!』
『
…
!!ヌァルミイィィィッ!!ジュボッコに見つかったゾオォォォッ!!』
仲魔の一体が、ジュボッコの気配を察知した。
『見ツけたわよ
…
もう、逃がさなイ
…
!』
赤褐色の葉をガサガサ鳴らし、木の枝を触手の如く唸らせ、ジュボッコは鳴海とライドウの姿を捉えた。悪魔の樹木は憤怒を露わにし、二人に目掛け突撃する。其の速度は然程早くないが、此方に到達するのは時間の問題だ。
「
…
っ
…
はぁ
…
残りは、一枚
……
─
……
なあ、ライドウ
…
こんな御伽噺を知ってるか?悪い魔女に魔法を掛けられ、茨のお城で長い長い眠りについたお姫様が、王子様の口付けで目を覚ます御噺だ
…
」
負荷の蓄積で満身創痍の鳴海だが、ふと、昏睡状態のライドウに穏やかな表情を向けた。人間は敗北が確定した時や、全てを諦めた時、何故か笑ってしまうことがある。だが、鳴海が浮かべる笑みは、挫折したものではない。優しく静かな声で、或る御伽噺を語りながら最後の一枚となった鎮魂符をライドウの胸元に張り付ける。そして、痛み迸る左腕でライドウの上体を起こし、無傷の右手で愛おしく其の顔を撫でた後、唇を重ねた。
『ひゃー!!鳴海がライドウにチュ~したホォー!!』
『ホァオアオォォォッ!!此れは熱い口付けダアァァァッ!!』
仲魔が鳴海とライドウの口付けで興奮する中、ジュボッコが愈々詰めてきた。幹より生える木の枝が一斉に伸び、鋭利なる枝の先端が口付けを交わす二人を串刺しにすべく来襲する。其の時、管を持つライドウの左手が僅かに動き、其の動きを視認した鳴海が唇を離した瞬間、ライドウは開眼し、封魔の管を掲げた。
「
…
─
…
ジャックランタン、イッポンダタラッ!」
『やったー!!ようやく出番だホォー!!アギ・ラティをお見舞いだホーッ!!』
『むぁち草臥れたゼエェェェッ!!マハ・ラギで燃えちまいナアァァァッ!!』
封魔の管から待ってましたと言わんばかりに飛び出したジャックランタンとイッポンダタラは、迫りくるジュボッコの木の枝に火炎魔法を放つ。樹木子という字の如く、火には非常に弱い。火炎魔法が命中した木の枝は瞬く間に燃え上がり、ジュボッコは幹を激しく揺らす。赤褐色の葉はひらひらと舞い散り、地面に落葉していく。
『ア、あ、あ、あ、ア
…
!あ、ヅ、い
…
!
…
絶対に、許さナい
…
!お前ノ血を、寄コせえぇェっ!!』
灼熱で責めても尚ジュボッコの執念は凄まじく、新たな枝を再生し、ライドウ達に迫り来る。其の度にジャックランタンとイッポンダタラは火炎魔法を放ち、木の枝を燃やすも、二体が放つ魔法は下位に位置する。仲魔の火力不足が眼に見ており、此のままではライドウのMAGを無駄に消耗するだけだ。ゴウトと定吉が退魔の刀と管を届けるまで、数に限りの有るチャクラチップでMAG回復を図りながら、ジュボッコの攻撃を耐久しなくてはならない。
「ライドウ、お前の分のチャクラチップとやらが無くなったら言えよ。俺が持って来た分も有るからな」
「
…
!有難う御座います!」
『おりゃおりゃおりゃー!アギ・ラティだホー!!』
『燃やすだけじゃ物足りネエェェェッ!うぉれは連撃で燃える枝を打ち落としてやるゼエェェェッ!!』
イッポンダタラは火炎魔法から物理技の連撃に変更し、炎上中の木の枝に槌を打つ。燃えて黒炭化途中の木の枝はとても脆く、衝撃を加えただけでボロボロと落下していく。ジュボッコは呻き声を上げながら新たな木の枝を再生するも、ジャックランタンは迫る枝を宙でいなしながら得意の火炎魔法で燃やし、イッポンダタラが打ち落とす。完全に鼬ごっこの構図だが、ジュボッコが再生可能な枝は無限ではない。ジュボッコ自身のMAGが尽きれば、枝は再生不能となるだろう。
ライドウは右脚のレッグホルスターから銃とチャクラチップを取り出し、自身のMAGの回復に努めつつ銃を撃ち、ジュボッコの動きを硬直化させ、攻撃を続ける仲魔を支援する。すると、枝の再生が先程と比べ鈍くなり、攻撃の勢いも低下してきた。
(
…
何だろう、此の嫌な感じは
…
)
ジュボッコの幹が、フルフルと痙攣している。
此方の攻撃の手を止めぬまま強引に押し込めば、退魔の刀と管が届く前に討伐出来るかもしれない。しかし、ライドウは胸騒ぎを感じ取り、過信を振り払い、油断禁物と警戒した時だった。
殺意、憎悪、嫉妬。
強烈な負の感情と、どす黒く渦巻くMAGを感知する。
『ライドウ!あともう少しな気がするホワチャチャチャ?!』
『ウオォォォッ!連撃連撃連撃イヌオォォッ!?うぉれの身体がルァイドウに吸い寄せられるウゥゥゥッ!!』
「どうしたライッ
…
!」
突如、ジャックランタンとイッポンダタラの身体がライドウの許まで引き寄られ、半透明状と化した。仲魔に隠し身を施したライドウは、鳴海の身体を突き飛ばす。尻もちを着いた鳴海はライドウの挙動に驚愕する間も無く、彼の胸元に顔を埋める形で抱き留められる。左腕だけの抱擁だが、まるで、息をするなと言わんばかりに力強い。
『
…
?!あれは、瘴毒撃だホー!!』
(しょうどくげき
…
?!)
ジャックランタンが叫んだ時、ジュボッコが一層激しく蠢き、幹から紫色の霧を噴射した。紫色の霧は瞬く間に拡大し、周囲一帯を満たしていく。
「うっ
…
!ゲホッ
…
ゲホッ
…
!
…
ッ、カハ
…
!!」
(しょう、どくげき
…
どく
…
毒のことか?!)
鳴海はライドウが何故自分を突き飛ばし、抱擁で顔を覆い隠す行動に出たのか。其の意味を、ようやく理解する。瘴毒撃、則ち、毒の攻撃。ライドウはジュボッコが発動しようとしている技を咄嗟に見抜き、仲魔を隠し身の術を施し、鳴海が毒を誤って吸気せぬよう顔を覆い隠したのだ。ライドウ自身も口と鼻を右手で塞ぎ対処したが、毒の霧は僅かな隙間を掻い潜り、ライドウの体内へ侵入する。例え微量であっても、毒は毒。霧状の毒はライドウの肺を蝕み、呼吸器に深刻な負荷を与えた。
鳴海はライドウの抱擁を解き、顔を覗き込むと、苦悶の表情を浮かべ、少量だが口から喀血している。肌の色は青白く、呼吸も浅い。此のまま放置すると、毒は体内を循環し巡り、何れ死に至らしめるだろう。
何故無茶をしたんだ、と、説教している暇は無い。鳴海は湧き上がる憤りを抑え込み、レッグホルスターのポーチから解毒符を取り出した。
「念には念を押して
…
てやつだよ!」
『ウオォォォッ!解毒符!ヌァルミ!やるじゃねぇカアァァァッ!!』
『隠し身状態は、オイラ達が悪魔の攻撃を受けない代わりに、技や魔法が使えなくなるホ!鳴海、早くライドウの毒を解除し
…
!今直ぐ後ろに下がるホォー!!』
「
…
?!どわっ!と、と、とぉっ?!」
解毒符をライドウの胸元に張り付けると同時に、ジャックランタンが声を荒げた。瞬刻、鳴海はライドウの身体を横抱きに抱え、咄嗟に後退する。
どす、どす、どす、と、何度も突き刺すような鈍い音が鳴り響く。
「あっ、ぶねぇ
…
!」
間一髪、自分達が居た位置には、ジュボッコの鋭利なる枝が何本も突き刺さっていた。反応が一歩でも遅れていたら、鳴海とライドウの身体は串刺しになっていただろう。
『ホアー
…
咄嗟に動けるなんて凄いホ
…
』
「はは
…
此れでも元軍人だからな
…
瞬発力は、まだまだ衰えちゃいねぇぜ
…
」
(
…
─
…
鳴海さん、本当にすみません
…
)
解毒符の効果に由って、ライドウの体内から毒が消失したのか、先程よりも血色が良い。しかし、かなり気落ちしている。必要最低限の装備で、悪魔討伐に挑まなければならないのは百も承知。だったが、ドルミナーの重ね掛けで昏睡状態に陥る、拉致される、磔にされた挙句吸血され掛ける、毒を受ける覚悟で猛毒状態になり、鳴海に解毒符を貼ってもらうも彼を危険に曝す、と言った負の連鎖が続き、ライドウの精神は密かに追い詰められていた。其れでも屈しないのは、如何なる時でも鳴海が精神的支柱となって、己を傍で支えてくれているからだ。
─自分が討伐に失敗したら、愛しい人の命も無いと思え
…
!─
ライドウは今一度己に喝を入れ、仲魔の隠れ身を解除した。ゴウトと定吉が退魔の刀と管を届けに来るまで、もう暫し耐久する必要が有る。彼等が到達すれば、勝機は必ず見えてくるだろう。
「あそこに居たぞ!定吉、もっと早く走らんか!」
「充分早く走っている方だ
…
!」
「
…
!此の声は、ゴウトちゃんと定吉か
…
!」
鳴海に降ろしてほしいと言い掛けた時、ゴウトと定吉の声が耳に届く。声のする方角は何処かと見渡すと、此方に向かって全力疾走する定吉とゴウトの姿を捉えた。噂をすれば何とやらとは、此の事なのかもしれない。
『ルゥアイドオォォォッ!ジュボッコの枝がまた増えてきたぞ!再生ノ力が徐々に戻ってるみたいダアァァァッ!!』
好機と捉えたのも束の間、ライドウと仲魔の攻撃が一時止んだことに因り、枝の再生能力が復活してしまう。ジュボッコは幹から枝をめきめきと生やし、赤褐色の葉を擦らせ、今にも襲い掛からん勢いで悍ましく蠢く。
『
…
ワたシは、綺麗ニなっテ
…
まタアノ人に、ワタしヲ
…
ワタシを、美しクなッタわタシヲ
…
見テもらいたいのヨぉおおオッ
…
!』
ジュボッコは絶叫し、無数の枝をうねらせながら、ライドウ達に再び狙いを定める。
ライドウは考えた、此のまま耐久しながらゴウトと定吉の到達を待つのか、それとも、此方からゴウトと定吉の許へ向かった方が得策なのか。
否、答えは一つしかない。
「鳴海さん!ゴウトと定吉さんのところへ向かいましょう!」
「了解!」
「
…
て、僕を抱えたまま走らないで下さい!寧ろ走りにくいと思いますっ!自分の足で走りますからっ!」
『兎に角急ゲエェェェッ!』
『退却だホー!』
ライドウが出した答えは、ゴウトと定吉の許まで後退し、合流すること。此方からも向かうことに由って、彼等の移動距離は大幅に短縮し、退魔の刀と管を直ぐ受け取ることが出来ると踏んだのだ。
鳴海はライドウの一声で駆け出すが、何故かライドウを降ろさず、横抱きに抱えたまま疾走する。恥ずかしさのあまり、ライドウの顔は一気に紅潮し、降ろしてくれと訴えた。しかし、鳴海は降ろす気配を一切見せず、涼しい顔をしながら全力で駆け続ける。スカートを裂き、多少は可動し易くなっているとしても、履き慣れないパンプスで走行するとなれば、話が異なってくる。鳴海の足に、既に相当の負荷が掛かっている筈だ。
「な、鳴海さんっ
…
足は痛くないんですか?!」
「ああ、めっちゃ痛いぞ!!お前が攫われた時に走って、助けた時にも走って
…
お陰で足がパンパンだぜ!左腕も重ね掛け解除でボロボロだからな!でも今は長距離を走る訳じゃねぇんだから、大目に見てくれ!」
「(そうか
…
!左腕も
…
!)だったら、尚更降ろ」
『じゃあうぉれがディアを掛けてヤルウゥゥゥッ!』
「んん?!痛みが和らいだぞ!へえ
…
魔法ってすげぇなっ!!」
やはり、痛みを伴っていた。涼しい顔を浮かべていたのは、痩せ我慢をしていたのだ。鳴海に此れ以上の負担を掛けられまいと、再度降ろすよう懇願しようとした矢先、イッポンダタラが回復魔法のディアを唱え、鳴海に施した。効果は抜群で、痛みは軽減し、鳴海の走行速度が少々上昇したのであった。
自身も負傷した折、仲魔に回復魔法を掛けてもらっていた。ただ、痛みは和らぐも、傷が完全に完治する訳ではない為、最終的には手当が必要となる。全てが片付いたら鳴海の左腕と足を診せてもらい、手当てを施そう。
「其れよりジュボッコはどうだ?!後ろから追って来てるか?!」
『あいつは変異して巨体な分、動きが少し遅いみたいだホー!てなんか飛ばしてきたホー!』
「あれは、ブフ・ラティ
…
!」
ライドウ達から距離を取られたジュボッコは、ブフ・ラティを放ってきた。ジャックランタンは慌てふためきつつもアギ・ラティを放ち、フブ・ラティを相殺する。
「ぜぇ
…
はぁ
…
ライドウ君!鳴海殿!」
「ライドウ!退魔の刀と管を届けに来たぞ!」
「ゴウト!定吉さん!」
ジュボッコからの追跡及び攻撃を掻い潜った鳴海とライドウ、ライドウのMAGを頼りに異界を駆け回った定吉とゴウト。二組は、遂に合流を果たす。
鳴海がライドウを降ろすと、定吉は息も絶え絶えながら退魔の刀をライドウに渡し、管が装着されたホルスターを前に差し出した。ホルスターを装着する時間は無い、今此処で、次に召喚する仲魔の管を選択する必要が有る。
(ジュボッコの変異体
…
強力な火炎魔法を操る仲魔でないと、あの太い幹を完全に燃やし尽くせないだろう
…
)
ライドウは眼を細め、ホルスターから二本の管を取り出した。次に、ずっと握り締めていた二本の管を掲げ、ジャックランタンとイッポンダタラを帰還させ、ホルスターに仕舞う。
『すっごく疲れたホォ
…
あとは別の仲魔に任せたホォ~
…
』
『うぉれも、少し休むゼェ
…
』
「長い時間無理をさせて済まなかった
…
ゆっくり休んでくれ」
慈しむ声で、二体の悪魔を労わった。
「私も、少し
…
休まねば
…
此処まで走りっぱなしだったのは、何時振りだろうか
…
」
「三十超えてから全力疾走すると、中々きついぜ
…
あ、そうだ
…
ライドウ、此れ渡しておくぜ
…
俺も、ちょっと休憩だ
…
」
「鳴海さん、定吉さん
…
本当に、有難う御座います」
現役海軍秘密将校の定吉ですら、異界を只管走り続けるのは流石に堪えた様子で、其の場に座り込んでしまう。鳴海は息を切らしながらレッグホルスターのポーチからチャクラチップを取り出し、最後の決戦を控えるライドウに手渡す。そして、定吉同様、力尽きて座り込む。ライドウは二人にも労いの言葉を掛け、鳴海から渡されたチャクラチップを握り締める。
『う、あ、ア
…
!血を、寄コせ
…
血ヲ、よコせええエぇッ!!』
「ふむ
…
ジャックランタンとイッポンダタラの猛攻が効いておるようだな。ライドウ、もう一息だ」
体力の限界で倒れた男性二人とは打って変わり、何時もと変わらぬ調子のゴウトがライドウの背中を後押しする。帝都の守護者たるデビルサマナーは静かに頷き、自分達に追い付いたジュボッコを睨む。
変異化した悪魔との、決着の刻。
全てを終わらせ、事件を解決せよ。
鞘から退魔の刀を抜き、構え、二本の管から仲魔を召喚する。
「ヴリトラ、ケルベロス!」
『ライドウよ、我の力が必要のようだな』
『待チ草臥レタゾ!』
紅き龍、ヴリトラ。白炎の狼、ケルベロス。二体はジュボッコに向け、技を発動。
砲火─アギ・ラティの上位互換─、マハ・アギダイン─マハ・ラギの上位互換─。
ジャックランタンとイッポンダタラが発動した炎よりも、由り強力な烈火がジュボッコを包み込む。
『ア、ア、ア、ア
…
!燃エル
…
!ワタしのカらダガ、燃エテイクウゥウウ
…
!!アァアアアア
…
ッ!!』
二つの火炎が直撃したジュボッコは金切り声を上げ、形振り構わず暴れ回る。枝は一瞬で黒炭化し、ボロリと崩れ落ち、再生を試みても幹に燃え移った炎が枝に即延焼し、黒炭化して落ちていく。炎は赤褐色の葉まで広がり、焚火のようにパチパチと音を立てながら炎上する。
「(
…
ッ、流石、MAGの消耗が激しい技だ
…
あっという間に持っていかれてしまう
…
けど、鳴海さんから貰ったチャクラチップを使えば、持ち堪えることが出来る
…
!)ヴリトラは此処に留まりながら砲火を連発、ケルベロスは雄渾撃を!」
『承知した!』
『ウオオ!突撃ダ!』
鳴海から渡されたチャクラチップを惜しみなく使用し、MAGを回復しながら仲魔に指示を出す。ヴリトラは砲火を以って追い打ちを掛け、ケルベロスは雄渾撃で燃える幹に激突する。ライドウもケルベロスと共に駆け、退魔の刀で煉獄撃を繰り出し、炎上で蠢く枝を斬り落としていく。
『グオォオオ
…
!ワタしのかラダに、何テこトヲォオオ
…
!!』
「(冷気の気配
…
!)ケルベロス、下がるぞ!」
『オウッ!』
膨大なMAGの集結を察知したライドウはケルベロスの背に飛び乗り、ジュボッコから引き下がる。途端、燃え盛るジュボッコは大きくうねり、叫びながら巨大な氷結晶─マハ・ブフダイン─を周囲に幾つも形成し、ライドウとケルベロスに向けて放った。ケルベロスは持前の瞬発力を以って氷結晶を回避し、マハ・アギダインで反撃する。ライドウは其の隙にチャクラチップを割り、ヴリトラとケルベロスの技で消耗したMAGの回復に努める。
『おのレェェ
…
!ナぜ、じゃマをスるのダアアアァ
…
!チが、血が無いト
…
ワタしのカらダハアアアアァ
…
!』
怒りに荒れ狂うジュボッコは、体内に残るMAGを全て集結させ、激しく燃えながらも新たな枝を生成する。火事場の馬鹿力となって、先程とは比べ物にならない技が来るかもしれない。
「(今のが、最後の一つ
…
MAGの回復手段がもう無い以上、次で決着を着けなければならない
…
!)ヴリトラは引き続き砲火を、ケルベロスは雄渾撃で突撃してくれ!』
『ガッテンダ!』
『今度こそ木炭にしてやろう!』
お互いに後は無いと判断したライドウは、二体の悪魔に命じた。ヴリトラは砲火を放ち、ケルベロスは迫り来る木の枝をいなしながら突進し続ける。刹那、ライドウはケルベロスの背から飛び上がった。ジュボッコは宙に浮くライドウ目掛け、鋭利なる枝を差し向けるも、ケルベロスの雄渾撃が直撃し、失敗に終わるどころか、大きく怯む。
ライドウは、退魔の刀を天高らかに掲げた。刀に火炎の魔力が纏い、煌々と燃える。
「ライドウ、決めるのだ!」
─スピリットを
…
燃やせっ!─
火炎のスピリットを纏った退魔の刀が、ジュボッコの幹を一刀両断する。縦に割れたジュボッコは絶叫を上げ、其の幹は徐々に黒炭化し、灰燼となって消えていく。
『ナゼ、ナの
…
?わたシは、アのころの美シさをとリ戻シて
…
あの人と
…
イっショに
…
─
………
』
ジュボッコは完全に消失し、取り込まれたと思しき白骨の骸と、碧い宝石のペンダントネックレスが跡に残る。異界化の根源たる悪魔を討伐した結果、ライドウ達は夕陽沈む現世へと舞い戻った。其の景色を見て、ライドウの戦闘を固唾を呑んで見守っていた鳴海と定吉は、全てが終決したのだと覚り、立ち上がる。
「
…
どうやら、一件落着のようだな」
「みてぇだな
…
」
「異界に取り込まれた参加者も、現世に戻っていることだろう」
「あれ
…
?ゴウトちゃんの声が聴こえなくなったぞ
…
?」
「現世に戻ってきたからですよ、鳴海さん」
ヴリトラとケルベロスを管に帰還させたライドウが、鳴海の疑問に答えた。ゴウトと仲魔、ひいては悪魔たるジュボッコの声を認識していたのは、異界の影響あってのこと。異界から戻ると、彼等の声は鳴海に届くことは無い。
『鳴海、男前だったホ!ライドウのことを大切に想っているんだな~って、少しだけ見直したホ!』
『ヌァルミイィィィッ!うぉまえの漢気ってやつ、超絶にかっこよかったゼエェェェッ!』
「
…
ん?ライドウ、何で顔が紅くなってるんだ
…
?」
「
…
いえ、その
…
ちょっと
…
な、何ででしょうね
…
?」
「仲魔があの鳴海を褒めるとはな
…
」
鳴海を褒める仲魔の声が嬉しくて、つい頬を染めてしまうライドウであった。
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