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真九龍
2025-09-10 19:48:53
48337文字
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小説
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【鳴ライ】Sweet and Crisis
鳴海×ライドウで、”二人で女装”して潜入捜査するお話。
ラストのページはあとがき、と言う名の裏設定になります。
注1:両想いな鳴ライになっています。
注2:ライドウremaster版をプレイ及びクリア済み。ゲーム本編のネタバレが含まれます。
注3:攻めの女装表現が含まれます(勿論ライドウも女装します)。
注4:間接的ですが、名も無きモブの死亡表現が含まれます。
注5:女性軽視表現が含まれます。
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─肆─
土曜日午後十二時、白雲浮かぶ好天。
鳴海は今日まで成果が得られず、暗い影を落とすライドウの手を引き、銀座町のミルクホール・新世界へ足を運ぶ。カウンターには定吉の姿が有り、新世界主人お手製のソーダと、本日のサンドイッチを一足先に嗜んでいた。
「来たか、鳴海殿
…
集合場所を此処に指定したのは、何か理由が有ってのことで相違無いな?」
「当然だろ?あ、主人。俺とライドウにもソーダ水を頼む、あと、本日のサンドイッチもだ」
鳴海は自身とライドウの分のソーダを注文しつつ、カウンターまで移動する。着くや否や、新世界主人が二人分のソーダと本日のサンドイッチをカウンターテーブルに置き、軽く一礼した。鳴海は頂きますと手を合わせ、ソーダを一口飲んだ後、サンドイッチを齧る。捜査に進展が無く、苛立ちっぱなしだった前日とは打って変わり、普段通りの鳴海の様子に、ライドウは違和感を抱く。とは言え、悠長に軽食を嗜んでいる暇など無い。事件発生の法則に乗っとると、本日の夕方、お茶会で何かが起こるのだ。刻一刻と時間が迫り、焦りと重圧がライドウに圧し掛かる。
此処はもう、あの案しかない。ソーダに満たされたコップを強く握り、顔を上げた。
「
…
あの、鳴海さん
…
」
「ん?どうした?」
「一昨日僕が立てた案で、今日のお茶会に潜入させて下さい」
「良し分かった。ライドウ、女装しよう」
「ブーッ
…
!げほっ
…
ごほっ
…
」
「有難うございま
…
!て
…
鳴海さん
…
今、何て言いました
…
?」
「女装
…
だと?鳴海の奴、一体何を考えておるのだ
…
?」
一昨日鳴海が静かなる怒りを露わにし、却下した案を、ライドウは再度鳴海に提案した。鳴海はライドウの提案に間髪を入れず答えたが、其の返答は中々斜め上なものだった。
女装。
定吉は盛大にソーダを噴き出し、ライドウは一瞬礼を述べるも、鳴海の返答を反芻して戸惑い、ゴウトは鳴海の謎な思惑に首を傾げる。そして、定吉が噴き出したソーダを、手慣れた手付きで拭く新世界主人。鳴海のトンデモ発言を間近で聞いたにも関わらず、全く以って狼狽えていない。周囲の客へも確実に耳に入っている筈だが、帝都の内情や悪魔に関する噂で盛り上がっている。
「
…
いかん、つい取り乱してしまった
…
鳴海殿、この期に及んでふざけているのか?」
「いや~全然ふざけていませんよ?今の俺は滅茶苦茶本気ですから。実は昨日
…
件のお茶会について、進展があったんだ」
「
…
!」
金曜日の午前。
随分と気落ちしてしまったライドウは、捜査ではなく、学校へ登校した。ゴウトはライドウが不在となった鳴海探偵社内に居座るつもりはないのか、何処かへ出掛けていく。ライドウとゴウトを見送った鳴海は執務椅子に腰掛け、何時もの煙草で一服する。脳裏に浮かぶのは、自分の怒りに説かれ、憂いを帯びたライドウの表情。後悔と同時に湧き上がる、眉目秀麗だという思考。背徳的な感情に、我ながらなんて醜悪なのだと嘲笑する。
其の時、探偵社に設置された電話が鳴り響く。鳴海は受話器を取り、電話の主の声に耳を傾けた。
「電話の主は、今日開催されるお茶会の招待状が手元に届いた女性だ。彼女は第一の事件で犠牲になった女性の従妹で、遺族への聞き込みで一度聴取はしていたんだが、其の時は何も語りはしなかった
…
けど、諸々の理由で身の危険を感じ、改めて電話をしたそうだ」
「何だと
…
?!」
鳴海探偵社に電話を掛けたのは、お茶会に参加予定の女性で、鳴海とは捜査の折で面識が有った。鳴海は彼女から再度聴取すべく、直ぐ鳴海探偵社に来るよう示唆する。電話を受けてから一時間後、電話主たる若い女性と、母方の伯母と名乗る壮年女性が来訪し、早速事情聴取に取り掛かった。
若い女性は第一の犠牲者の従妹で、犠牲となった従姉とは、幼い頃から大変仲が良かった。従姉が結婚した後、一緒に出掛ける機会は減ったものの、手紙を通して交流を続けていた。
三週間前の金曜日─従姉が遺体となって発見される三日前─、夫への不満が記された従姉の手紙に眼を通した女性は、居ても立っても居られなくなり、従姉の嫁ぎ先を訪問する。従姉が女性を出迎えてくれたものの、顔色が悪く、少しやつれているように見えた。
女性は従姉の部屋に案内され、お茶とお菓子を準備してくると席を外した時、ベッド横のサイドテーブル置かれた手紙と仮面が視界に映る。従姉に悪いと思いつつも、女性は好奇心から手紙を覗いてみると、お茶会の招待状だと判明する。送り主は兎も角、事細か過ぎる条件に、女性は眩暈を覚えた。しかも、招待状には誰にも見せるな、口外するなと記してあるのに、つい見てしまった女性は罪悪感に苛まれる。勝手に覗いた自分も悪いのだが、人目に付くテーブルに置きっ放しにした従姉もどうかと思いながら、女性は宛がわれた椅子に座った。程無くして、お茶とお菓子が載ったトレイを抱えた従姉が戻って来た。女性は手紙の内容を頭の隅に追いやり、従姉が今抱えている悩みを静かに傾聴するのであった。
従姉は夫に対する不満を吐き出せたのか、訪問直後とは打って変わり、すっきりとした表情を浮かべていた。女性は安堵し、気分転換目的で、来週明けにお出掛けしようと約束する。其の約束は果たされること無く、週明けの月曜日、従姉は無残な姿で発見された。青白く変貌した肌、恐怖を微塵も感じさせない位穏やかに眠る顔。従妹は彼女の亡骸を見て、茫然と立ち尽くすしかなかった。
従姉を喪い、三週間後の木曜日。
女性の許に、仮面が封入されたお茶会の招待状が届く。数日前、鳴海が聴取に訪れ、従姉の動向を尋ねてきたが、金曜日を最後に会っていないと語り、聴取は終了する。土曜日の夕方、お茶会に出掛けたかもしれない、と、伝えれぬまま。従姉が受け取った招待状には、決して口外してはならないと記されていた為、其れに則ったのだ。
しかし、お茶会の招待状が自身の手元に届いたことで、状況は一変する。送り主は従姉の招待状と同一人物、記された事細かな条件、仮面。全てが一致した時、従姉はお茶会の最中か後に、命を落としたのではないかという疑念を抱く。途端、自分も従姉と同じようになってしまうのでは、と恐怖心が心身を支配し、招待状の掟を破り、同じ趣味を嗜む伯母に打ち明けた。伯母は恐怖に怯える女性を優しく宥め、事情聴取で尋ねて来た探偵に再度相談しようと持ち掛けたのである。
「そして彼女から預かったのが、此れと此れだ」
「女性の許に届いたという招待状と仮面か
…
成程、ライドウ君が女装した上で仮面を付け、招待状を持ってお茶会に行けば、件の悪魔や初老婦人にも怪しまれることなく潜入捜査は可能、という訳か
…
」
女性はお茶会に参加することを拒否した為、鳴海が招待状と仮面を預かることになった。捜査の中で、非常に有利となる物を入手した鳴海は、ライドウが立てた案に”幾つか手を加えれば”実行出来るのではないか、と判断を下す。本日の集合場所を銀座町はミルクホール・新世界に設定したのは、此処に集う客─デビルサマナーの協力者─の協力を得る為だ。
「ライドウの案を断固反対していた鳴海が、”幾つか手を加えれば”実行出来る、か
…
其のうちの一つが女装なのは分かったが、あと幾つ手を加えるのだ
…
?」
「さ~てと
…
ライドウちゃんは此方の御婦人に従っておめかししてきてくれ、俺も後から合流するからさ。定吉はライドウに付いていてほしい」
「あ、ああ
…
承知した(鳴海ではなく、私がライドウ君に付け、か
…
此奴の頭の中は、さっぱり分からんな
…
)」
「はぁ~いライドウちゃん!ちゃんとサマナーやってるかしら?おめかしは私に任せて頂戴ね」
「あ
…
はい
…
宜しく、お願いします
…
」
おばちゃん口調の悪魔を髣髴とさせる妙齢の御婦人を鳴海に紹介され、ライドウは狼狽えるも、自身が女装することは絶対逃れられない運命なのだと腹を括り、鳴海の企みに従うしか他なかった。先ずは注文したサンドイッチとソーダを空にするようにと御婦人から催促され、三人は急いで頬張る。腹が減っては何とやら、である。
(鳴海さん、僕の案をあれだけ反対していたのに
…
けど、鳴海さんが”幾つか手を加えた”案
…
というものを、今は信じるしかない
…
)
完食後、笑顔の鳴海に見送られながら、ライドウは御婦人に手を引かれ、ミルクホールのバックヤードに辿り着く。後ろから定吉とゴウトが続くも、御婦人からおめかしが終わるまで待機してほしいと止められ、ライドウと御婦人だけがバックヤードの控室へ入る。控室前に残された一人と一匹は、取り敢えず戯れることにした。
「おい定吉!其の猫じゃらしは何処から持って来た!くそっ
…
身体が勝手に反応してしまう
…
!!」
「ライドウ君のお目付け役とは言えど、猫であることに変わりはないのだな。ほい、ほい、ほいっ、と」
ライドウの傍に立ち、彼の補佐をするお目付け役の黒猫。其のお目付け役たるゴウトが、猫じゃらしを前にするとどんな反応を示すのか、定吉は密かに気になっていた。ゴウトと自分だけになった頃を見計らい、こっそり持参した猫じゃらしを取り出し、ちょこんと座っている黒猫の前でゆらゆらと揺らす。すると、ゴウトは猫じゃらしに因って猫の本能を擽られ、暫く翻弄され続ける羽目となる。此の時、定吉の表情は非常に綻んでいたのだが、ゴウトが猫じゃらしに夢中だった為、誰にも気付かれることはなかった。
「ゴウトちゃん、定吉ちゃん。ライドウちゃんのおめかしが終わったわよ。さあ入って、私は鳴海さんを見てくるから」
「ぜぇ
…
はぁ
…
お、終わったようだな
…
」
「
…
─
……
ライドウ君、失礼するよ」
御婦人が控室の扉を開き、おめかしが終了したと声を掛けてきた。瞬間、定吉は猫じゃらしを仕舞い、海軍秘密将校の顔に切り替える。猫じゃらしに玩ばれて息も絶え絶えになったゴウトだが、呼吸を即座に整え、控室に足を踏み入れた。一人と一匹がすれ違う形で、御婦人は退室していく。
控室の椅子に座っているのは、可憐でお淑やかな大和撫子、もとい、千草色(※ちぐさ、水色に少し緑がかった色)の千鳥格子柄振袖に青褐色(※あおかち、青みの強い褐色)の袴を身に纏い、橙色のスカーフを首に巻き、焦茶色のブーツに履き替え、黒髪長髪の鬘と紫紺色のリボンを付け、薄化粧と口紅を施されたライドウだった。
「あ
…
ゴウト、定吉さん
………
あの
…
どう、ですか
…
?」
「
…
どうも何も(一瞬揺らいでしまったことなど、口が裂けても言えん
…
)
…
元が男であるとは気付かない仕上がりだと思う」
「ふむ、スカーフを撒いたのは喉仏を隠す為か」
『ライドウが可愛くなっちゃったホー!思わず見惚れちゃったホー!』
『ルァイドオオオオッ!完璧な擬態だゾオオオォッ!』
『
………
可憐だ』
『くっ
…
!此れがハイカラお嬢さんって奴かぁっ?!』
『ライドウくぅんの新しい一面発見だね』
女学生風に変装したライドウは、定吉の精神を見事惑わせたようだ。封魔の管の仲魔達からも、好評を得ている。御婦人のおめかし施行術は、完璧の一言に尽きる。後は鳴海を待つだけなのだが、彼がライドウと別れた事に疑問が残る。ライドウの身を案じ、常に想い、時に独占欲を丸出しにする、あの鳴海がだ。其の時、控室の扉を叩く音が響き、二人と一匹の視線が扉に向かう。
「ライドウちゃ~ん、おめかしは終わったかしら?」
「あ、はい
…
終わりました(先程の御婦人かな
…
?其れにしては、声が少し低いような
…
?
…
いや、御婦人は僕のおめかしを担当したから、おめかしは終わったという台詞は矛盾してる
…
)」
「じゃあ、入るわよ~。みんな、おっ待たせ~!」
ライドウが違和感を抱く中、扉を開いて入室してきたのは、橙色系統の服装を身に纏った、モダンガールだった。クロッシェ帽子、ショートヘア、スカーフ、ブラウスと薄手のロングコート、ベージュ色のストッキング、膝丈程のフレアスカート、底が低めの白パンプス。正真正銘定番のモダンガール、なのだが、何かが可笑しい。
目を凝らしてよく見てみると、
「
…
!?貴様、まさか鳴海かっ?!」
「
…
!!な、な、な、鳴海?!なんだ其の恰好はっ!!」
「~ッ!!な、鳴海、さん
…
?!」
「どぉ~?似合ってるでしょお~?」
『ワチャチャチャチャ?!何か化け物が入ってきたホォー?!』
『グアアアアアッ!目に毒ダアアアアァッ!!』
『
………
何故だ、逆毛が止まらん』
『うへぇ~
…
仕草が自然過ぎて腹立つぜ
…
』
『
…
鳴海の変装
…
此れは、予想外だね
…
』
モダンガールの正体は、鳴海だった。髪は鬘を敢えて付けず、整髪料でアンバランスな髪型を演出しているようだ。化粧と口紅もばっちり施し、モダンガールになりきっている。
室内は大衝撃、及び大仰天の嵐。
定吉は敬称をうっかり付け忘れ、ゴウトは全身の毛が逆立ち、ライドウは眼を大きく見開きながら立ち上がり、モダンガールに変装した鳴海を凝視する。仲魔からの評価は、微妙である。二人と一匹の頭の中が真っ白に塗られ、思考が停止する中、鳴海は満面の笑みを絶やさず接近し、左腕でライドウを抱き締め、右手で彼の顎を持ち上げた。
「女学生のライドウちゃん、とぉ~っても可愛いわねぇ~!
…
此のまま食べちゃっていいかしら
…
?」
「
…
─
…
は!あ、あの、鳴海さんっ!
…
何故、鳴海さんも女装しているんですか
…
?!」
鳴海が付けている香水の香りで我に返ったライドウは、鳴海の腕の中であたふたと赤面しつつ質問する。すると、鳴海はライドウの耳元に口寄せてきた。脈がドクドクと波打ち、身体に熱が籠っていく。
「
…
女装で装備が制限されたお前を、悪魔が潜んでいるかもしれない女の園に、単身放り込める訳ないだろ
…
」
「
………
ッ─」
女性口調とやや高めの声ではなく、何時もの低声が鼓膜を刺激する。鳴海の台詞は、まごうことなき彼の本心。ライドウが立てた案は、悪くは無いが不足点の多いものであり、最悪の場合、ライドウの身に危険が及ぶ。鳴海は招待状と仮面を譲り受けた後、銀座町のミルクホール・新世界に直行し、常連客ことデビルサマナーの協力者達からアドバイスを得ることにした。
女性しか許されないお茶会に潜入する場合、女装が一番いい方法でしょう。
女装するのなら足に武器を隠せる服装が良いわね、太腿に銃を取り付けることが出来るホルスターが有った筈よ、レッグホルスターだったかしら。
足に荷物が無いか、其処まで細かく調べてこんだろう。
あら鳴海さん、とても深刻な顔をしてるわね。
そんなにライドウちゃんが心配なら、貴方も女装してお茶会に潜入したらどうかしら。
あら、随分と返事が早いわね、ライドウちゃんの事がとっても大切なのね。
分かるわよ、其の気持ち。
では、レッグホルスターは二人分準備しておこう。
ライドウ君の刀と管は海軍の秘密将校に預け、邸宅外の木の上に潜んでもらうのはどうか。
有事の際、外と連携出来る手段が有るとよいかのう。
悪魔はライドウ君に何か仕掛けてくるかもしれないから、鳴海殿が状態異常解除符を念の為に持っているといいぞ。
時間が無いぞ鳴海、ライドウとお前が着る服を今直ぐ見繕うのだ。
明日の昼十二時にライドウ君を此処に連れて来て頂戴ね、私が責任を以っておめかしするわ。
海軍の秘密将校も忘れずに呼んでおくのだぞ、潜入捜査には、奴の協力が必要不可欠になるからな。
「新世界の人達はホンットに温かくて優しいねぇ
…
俺に色~んなアドバイスをくれたんだからな」
「鳴海さん
………
─
…
有難う、御座います」
有益なアドバイスを沢山得た鳴海は、事件解決の為、ひいてはライドウを護る為、自身の女装を即承諾した。女装に対する抵抗は無かったのか、そんなもの、鳴海は一切抱えていない。変装して捜査をすることは、密偵時代から沁み付いている事なのだ。例え、女装であっても。
「な、成程な
…
しかし、招待状と仮面は一つしか無いぞ
…
?鳴海殿の女装ははっきり言って無駄なので」
「おいこら定吉ぃ。だぁ~れが招待状と仮面は一つしか無いって言ったかぁ?俺は一度も言ってねぇぞ?」
定吉の突っ込みを、鳴海は荒々しい口調で遮り、ライドウを抱擁から解放する。何処からともなく取り出し、ライドウと定吉の前に差し出したものは、鳴海がカウンターで見せたものとは別の招待状と仮面だった。そう、招待状と仮面は、もう一つ有ったのだ。
此の招待状と仮面の所有者は、相談者である女性の母方の伯母だった。伯母はお茶会に参加予定だったが、女性の相談を聞き、不気味な意図を感じ取り、参加を急遽止めることにした。必要の無くなった招待状と仮面は、女性の分と共に鳴海へ引き渡したのである。
「あ、ライドウ。ちょっと椅子に座ってくれ、レッグホルスターを着けてやるよ。俺が着替え終えた直後にやっと届いたから、お前のおめかしを担当した御婦人に渡せなかったんだよ」
「えっ?!あ、はい
…
(それはつまり
…
鳴海さんが僕の脚にレッグホルスターを付けるということ
…
?!)じゃなくて、自分で着けま」
「駄~目だ。こういう型のホルスターはずり落ちない為のコツが必要になってくるから、俺に着けさせてくれ」
「~ッ
…
はい
…
」
「鳴海め
…
どさくさに紛れてライドウの白い脚にちょっかいを出そうものなら、直ぐ引っ掻いてやるからな
…
」
あれこれ想像したライドウの顔面は一気に紅潮し、鳴海の手に由るホルスター装着を拒否するも、コツが必要だと押し切られ、やむを得ず従うことにした。ライドウは椅子に腰掛け、恥じらいながら右側の袴をゆっくり捲る。鳴海はライドウの右脚にレッグホルスターを手慣れた手付きで装着し、ゴウトが咥えて持ってきた銃をホルスター内に仕舞い、袴を元に戻した。鳴海が邪な仕草を一切しなかったので、ゴウトの懸念は杞憂に終わる。
レッグホルスターの装着が完了し、ライドウは立ち上がった。定吉は女装して並ぶ鳴海とライドウを見て、女性にしては身長が高過ぎて、返って怪しまれるのではないかと不安視する。
「そうそう、女性と其の伯母さんは、趣味でバレーボールをやってるんだとさ。二人とも身長がそこそこ高い方だったから、俺とライドウが彼女達に扮したところで、違和感は無いだろうよ」
(くっ
…
私の心理が鳴海に読まれているようだ
…
!)
「ほほう
…
此れは偶然か、或いは必然か
…
何方にせよ、女性の告発は優位な方向に動いたという訳か」
定吉がどう足掻いても、鳴海の方が一枚上手な行動を取ってしまうのであった。
捜査に行き詰まり、最早強硬手段に出るしかないまでに追い込まれた鳴海達だが、摩訶不思議な巡り合わせに由って、突破口を切り開いた。後は紹介状に則って、指定された場所へ移動し、仮面を付けて待機する。そして、初老婦人の使用人か警備役の案内で、お茶会が開催される邸宅へ潜入することになるだろう。
「ところでさぁ、定吉くぅん。陸海軍共同で何かもんの凄いもの作っちゃったんでしょお?其れさあ、今回の捜査に使ってもいいかしらぁ~?」
「(
…
アレの情報を既に掴んでいたか
…
流石、元秘密将校だ
…
しかし、相変わらず無性に腹が立つことこの上ない
…
)
…
ああ、未だ試作段階では有るが、今回の捜査で試してみるのもいいだろう
…
詳細は海軍省で話そう」
再び女性口調とやや高めの声へ切り替わった鳴海に言い寄られ、定吉は貶しと褒めを心の内で交互に吐き出しながら、捜査の上で役立つ備品を所持していると答えた。
事件の捜査も、いよいよ大詰め。三人と一匹は一致団結し、控室から退室する。
「あ
…
!えっと
…
定吉さんは、先に車へ行ってて下さい。鳴海さんに、少しお話ししたいことがあって
…
ゴウトも、その
…
定吉さんと一緒に、先に行っててくれ」
「なぬぅっ?!お前のお目付け役である我が、鳴海より先に行けと申すだとっ?!どういう風の吹き回しだライドウ!!さては鳴海に何か吹き込まれたか、毒されたな?!」
「いや
…
特に何も吹き込まれてはいないし、毒されてはいないけど
…
」
「ゴウトちゃん、そんな大袈裟に鳴かなくても大丈夫だって。ライドウとの話が終わったら、後からちゃ~んと追い駆けるからさ」
「そ~ゆ~問題ではないっ!あっ、これ定吉!我を持ち上げるでないっ!!我とライドウの話は未だ終わっとらんのだっ!!」
「ライドウ君、お話は手短にな」
ライドウの想定外な発言で大いに取り乱すゴウトを定吉は軽々と抱き抱え、先に退室する。足音が遠ざかった頃を見計らい、ライドウは鳴海に向かって口を開く。愛しき想い人の言葉に、鳴海は不意を突かれたような顔をするも、脳裏で警鐘が鳴り響く。其の言葉は、ライドウに負荷を掛けるものだったからだ。
「悪くはない
…
が、此れから潜入するっていう時に、負担にならないのか
…
?」
「一度、試してみたかったんです
…
負担の掛からない程度に留めるので、やらせて下さい」
「
…
分かった。けど、試すのは此の分だけにしとけよ。お前の立てる案は何か危なっかしくて、肝が冷えることばかりだな
…
」
警告はした、だが、ライドウの意志は固かった。鳴海は半ば呆れ混じりで台詞を吐き、受諾する。
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