真九龍
2025-09-10 19:48:53
48337文字
Public 小説
 

【鳴ライ】Sweet and Crisis

鳴海×ライドウで、”二人で女装”して潜入捜査するお話。
ラストのページはあとがき、と言う名の裏設定になります。
注1:両想いな鳴ライになっています。
注2:ライドウremaster版をプレイ及びクリア済み。ゲーム本編のネタバレが含まれます。
注3:攻めの女装表現が含まれます(勿論ライドウも女装します)。
注4:間接的ですが、名も無きモブの死亡表現が含まれます。
注5:女性軽視表現が含まれます。


─陸─

土曜日午後五時、陽沈み始めし逢魔が刻。
初老婦人の挨拶と共に、男子禁制の秘密のお茶会が始まった。
仮面を装着したライドウは、テーブルの上に置かれた色取り取りのお菓子と、淹れたての温かいお茶を堪能していた。いや、或る理由で減少した体内MAGの回復に努めている、と記した方が正しいか。

(!このケーキ、美味しいな果物が沢山乗ってて、カスタァドクリームが敷き詰められていて、生地がサクサクしててこっちは何だろう………─カボチャの味がするケーキだこっちの焼き菓子は、バターの風味が凄く強い!)
(ライドウの奴、かなり食ってるなあの時消費したMAGを食べ物で供給している感じか大丈夫か?)

お菓子を頬張るライドウの背後では、鳴海が彼の様子を窺っていた。体内MAG消費の経緯を唯一知る者で、其の健啖具合にMAGを消耗し過ぎていたのではないかという懸念を抱く。しかし、あの提案はライドウ自ら申し出たもの。揺ぎ無き力強い眼で試してみたいと主張されたら、否定は出来なかった。今回は自身も潜入捜査に参加し、ライドウに有利な道具を隠し持てる為多少融通が利くものの、色々と不安であることに変わりない。
兎にも角にも、鳴海に出来ることは、ライドウから適度な距離を保ち、動向を監視すること。ライドウが行動に出た折は、付近に悪魔が出現したと判断してもいいだろう。スカートの下に隠したトランシーバーを繋げ、邸宅外の木に潜む定吉とゴウトに通知すれば、彼等は此方に直ぐ駆け付ける手筈になっている。

「あのとても、背が高いですね」
「えっ?!ああ、お(俺じゃなくて)あたしのこと?うーん背が高い女性は、やっぱり可笑しく見えるかしら?」
「そ、そんなことないです!かっこいいと、思いまして

鳴海の高身長は目立つのか、彼は参加者の一人に声を掛けられた。職業は何か、何故身長が高くなったのか、苦労したことは無いか等、質問攻めを受ける。此処は律儀に答えておかないと、彼女は自分から離れない予感がする。鳴海は脳裏から伯母の経歴を引っ張り出し、質問に答えていく。

「あたしはね、或るホテルで料理人をやってるのよ。でもまだまだ男性が多い職場だし、身長も高くて後ろ指をしょっちゅう指されるけどそういうのに一々構っていると時間の無駄だから、出来る限り気にしないようにしてるわ」
「料理人凄いですね」
「身長が高いのは、バレーボールをやっているからよ。仕事で嫌なことがあった日はボールに怒りを込めて、対戦チームのコートに思いっきりぶつけるの。決まるとスッキリして、嫌なこともす~ぐ忘れちゃうわ!」

鳴海の自然な振る舞いと答えに、参加者は憧憬の眼差しを向ける。一通り答えたのだから、此れで解放される筈。ライドウに再度注視しようとすると、複数の参加者が鳴海の許に集まって来た。鳴海の立ち振る舞いは、”女性はこうあるべき固定概念に抗い、自分らしく、逞しく生きる強い女性”として映り、一部参加者の注目の的になったようだ。参加者達は、挙って悩みを打ち明ける。更に引き止められる形となってしまった鳴海だが、参加者達の言葉に耳を傾けつつも、ライドウの監視だけは意地でも続けた。

(鳴海さんのところ、人が集まっているな)

何やら後ろが騒がしいなと振り向くと、鳴海の許に参加者達が集まっていた。様々な声が混じり聞き取りにくいが、鳴海に悩みを打ち明けているようだ。自分が捜査に手詰まりを起こした時、鳴海に相談していた。自分の言葉に傾聴し、時に静かな声で相槌を打ち、微笑みを向ける姿。探偵としての鳴海を思い出し、ライドウの頬はほんのりと紅く染まる。

「あらあら、沢山食べるわね」
!!」

不意に声を掛けられ、肩が跳ね上がる。仮面で顔半分は隠れているが、瞳の色は碧色で、口元周辺には少し皺が見受けられる。少々老いた声の特徴から、声を掛けて来た女性はお茶会の主催者たる、初老婦人である可能性が高い。
食べ過ぎて、逆に怪しまれてしまったかもしれない。ライドウの心身に緊張が走るも、意を決し、自ら切り出すことにした。

えっと沢山食べるのは、やっぱり、変ですか?」
「いいえ、逆よ。お菓子を食べる貴方の姿が、とても幸せそうに映ったの。ひょっとして、日頃から沢山食べることを遠慮したり、我慢していたのかしら?此処ではそんな感情なんて必要無いから、満足するまで沢山食べて頂戴ね」
「は、はい有難う御座います(例の香りがしなかったし、悪魔の気配を全く感じなかった擬態した様子も無い)」

ライドウの健啖ぶりに、初老婦人は普段からあまり食していないのでは、と思われたようだ。警戒されていた訳ではない、加えて、初老婦人今回の事件の犯人ではないと判明し、ライドウは安堵する。初老婦人はライドウの許から去り、談笑したり、お互いの悩み事を打ち明ける参加者達の輪へ足を運ぶ。
ライドウは停止していた手を再び動かし、プディングを頬張る。お茶会が開始してから食べ続けた甲斐も有り、或る事情で消耗したMAGは大方回復出来ただろう。

(後は、件の悪魔が何時現れるか)

食べて続けている間も、警戒は怠らなかった。其れでも、悪魔の気配は全く以って察知出来ない。抱えていた悩みを一通り吐き出し、満足した様子で参加者土曜日のお茶会を優雅に過ごしていた女性を惑わし、全身の血液を抜き命を奪った悪魔は何処。

(僕の気配を逆に察知された可能性も否めないがいや、件の悪魔は、必ず此処に来る誰かが独りになった時を見計らい、現れるかもしれないとなると、やるべきことは一つ)

己の力が向上した悪魔は、更なる高みを目指し望む筈。
プディングを食べ終えたライドウは、空になった皿を置き、お茶会会場から離れる。途中、警備役にお帰りですかと声を掛けられるも、少し距離を置いて休憩したいと申すと、庭からあまり離れ過ぎないようにと、釘を刺される。

(!さては、悪魔を誘き寄せる囮役に出たな)

ライドウの動向を監視していた鳴海は、独りでふらふら歩いているあの子─ライドウ─が気になるから、ちょっと声を掛けてくる、と言い、其の場をしれっと離れることに成功。距離を少しずつ縮めながら、追跡する。

(綺麗な庭だな異国の文化が並ぶ晴海町ならでは、という感じがする)

時々立ち止まっては、花壇に咲く季節の花を覘く。

「ホントに綺麗だよなぁ」
!そうですね」

お茶会の会場から離れたことに因って、鳴海とライドウは合流を果たす。突発的な囮作戦に出た身ではあるが、ほんの少しの時間だけでも二人で過ごしたいと思うのは我が儘だろうか。ライドウは花壇の花を黙って見詰める鳴海と、距離を縮めようとする。

ッ?!此の香りは!!」
!どうしたラ………事件現場で拾った、香木の香りと一緒だな

熟した桃とメープルシロップを合わせたような香りが、辺りに漂い始めた。
ライドウは袴を捲り、左右のブーツに仕込んであった封魔の管を取り出す。鳴海もスカートを捲り、ホルスターに固定していたトランシーバーを取り出し、邸宅外で潜んでいる定吉に通話を開始した。

「此方鳴海。件の悪魔が付近に潜んでいるかもしれない」
「此方定吉。木の上から双眼鏡で君達を監視していたが、ライドウ君の挙動を見る限り、間違いなさそうだな」
「ニャー!(ライドウよ!お前の刀と管を持って、今其方へ向かうぞっ!!)」

トランシーバーの向こう側から、ゴウトの鳴き声も聴こえた。鳴海と定吉はゴウトの言葉を聞き取れない為、何を発言しているのかは分からない。

鳴海さん、あの女性
「ああ俺の記憶が正しければ、あの女性は参加者の中に居なかったと思うぜ

大きな庭木の陰から、女性がふらりと姿を現す。お茶会の参加者同様に仮面を装着しているが、参加者の容姿と特徴を一通り記憶していた鳴海は、眼前の女性と一致する参加者が居ないと判断する。仮面は事件の犠牲者から強奪したのか、或いは、自ら作り上げたのか。何方にせよ、狡賢しこい頭脳を有する悪魔と見受けられる。ライドウは女性を睨み付けながら管を構え、鳴海はトランシーバーでの通話を継続し、定吉とゴウトの到着を待つ。

「あら貴方達女じゃないわね?でも、女学生のふりをした可愛らしい坊やは、とっても美味しそうだわ其処の大きな男はあまり美味しそうには見えないわね
「(女装していても、力を得た悪魔にはお見通しか)………甘い香りに混じって、僅かだが血の匂いがするお前が人を殺めた、確固たる証拠だ」
「(俺は美味しそうに見えない、ねぇ)ははぁ甘い香りを出しているのは、吸い取った血の匂いを誤魔化す為か香水みてぇなもんだな」

うっとりと艶めかしく喋る女性は、女学生とモダンガールの本来の性別を見抜き、鳴海には目もくれず、ライドウにのみ興味を示す。デビルサマナーたるライドウは、悪魔にとって厄介な存在であると同時に、美味しい獲物。鳴海よりも自身を美味そうに見えると発言するのは、己は悪魔だと自ら明かしているようなものだ。甘い香りを漂わせているのは、血の匂いを掻き消す為だろう。其の血の匂いの素は、犠牲となった女性の血液に違いない。
女性は興奮しながら、鳴海とライドウにじりじりと迫る。二人は女性の異質さを直に感じ、嫌な汗が額から流れ落ち、心拍が上昇する。
今直ぐ仲魔を召喚し、定吉が退魔の刀と封魔の管を届ける間の時間稼ぎをしなくてはならない。

……ジャック、ラ………イッ……………
?!おい、ライドウッ!!」
「ニャッ?!(?!鳴海よ、ライドウに何が遭ったのだ!!)」

封魔の管から仲魔を召喚しようとした刹那、ライドウの手から管が滑り落ち、石畳の上に倒れ込んでしまった。鳴海はライドウの身体を揺するも、微動だに反応しない。
何故突然倒れたのか、意識消失しただけなのか、其れとも、”即死”の呪殺魔法なるものを施されたのか。

(呪殺魔法?いや、まさかそんなこと、ある訳が唯、単に意識を失っただけ、だろ?)

トランシーバー越しから響くゴウトの荒々しい鳴き声は、最悪の想像図が記され、全身と精神に戦慄が駆け巡る鳴海の耳に届いていない。鳴海はライドウの生命反応を確認すべく、震える手で手首の脈に触れようとした時、

「嗚呼、美味しそう美味シそう!男は嫌いだけど、坊やノ血はトテも美味シそうだワ!もウ、抑え切れナイ!!」
ッ!!」

ビキビキと罅割れるような音が鳴り響き、女性の背中から木の枝が一斉に生え出た。背中で触手の如き蠢きうねる木の枝は勢いを増しながら女性を刺し、身体の全てを吸収。木乃伊を経て、白骨の骸に変貌させ、太い木の幹を形成していく。女性”だった”ものは大量の瘴気を振り撒き、辺り一帯を”異”に塗り替え、徐々に引き摺り込み始める。其の悍ましさに、今直ぐ此の場から離れろ、と、本能が警鐘を鳴らしている。鳴海はライドウの生命反応確認もままならない中、力無く倒れる彼の身体に手を伸ばした瞬間、視界が真っ暗闇に暗転する。

………此処は………ライドウ?」

直ぐに景色が映るも、空は赤と黒が交じる禍々しい夕暮れの色に染まり、庭の花は枯れ果て、悪魔が彷徨う凄惨な景観へ変異していた。
異界。
我に返った鳴海は、彼の眼前に倒れたライドウと、異形と化した女性が消えている事実に気が付く。周囲を見渡すも、二人の姿は見当たらない。有るのは封魔の管と、外れた仮面と、黒髪長髪の鬘。声を荒げ、ライドウの名を呼びながら探す。

ライドウッライドウくそっライドウッ!!」
『鳴海ぃ~!オイラが見てたことを聞いてほしいホー!ライドウはジュボッコが連れ去っていっちゃったホ!未だ生きてるけど、滅茶苦茶危ないホォ~!』
あれは、ライドウの………んん?」

ライドウが落とした封魔の管から、くぐもった様な声が聴こえる。ライドウを失い、自失呆然と化した鳴海は、黄緑色に淡く発光する二つの管を手に取った。主たるライドウが傍に居らずとも、仲魔の声が鳴海の耳に届く。いや、仲魔の声が自分に聴こえている時点で可笑しくないか。悪魔は実態を現さない限り、鳴海の眼には見えぬし、声も聞こえぬ存在。其れがどうしたことか、原理は不明だが、鳴海の耳が仲魔の声を認識しているのだ。
管から聴こえる仲魔の台詞が真実ならば、ライドウは。

「おい、今何て言った!ライドウは生きているんだな?!」
『そうだホ!生きてるホ!あの女はジュボッコに化ける前、密かにドルミナーをライドウに施していたホー!オイラもライドウが倒れてからやっと気付いたホ!とんでもなく高度で強力なドルミナーホー!』
?じゅぼっこ?どるみな?」
『ヌァルミイィィィッ!!ジュボッコは人間の血を吸う樹木型悪魔のことダアァァァッ!!ルァイドウの読み通り、アのジュボッコは血を大量に吸って、力を蓄えた変異体で間違いネエェェェッ!!アとドルミナーは精神魔法の一つで、相手を睡眠状態にさせる状態異常魔法ダアァァァッ!!』

ライドウは魔法に因って深い眠りに落ち、悪魔に連れ去られた。則ち、此の異界の何処かで生きている。
即死の呪殺魔法など施されていなかった、否、即死の呪殺魔法に対する印象が強烈過ぎて、ライドウが声も上げず石畳に突っ伏した時、本当に施されてしまったのだと早とちりした自分が憎い。鳴海は猛省し、絶望の淵から這い上がり、冷静さを取り戻す。
そして、仲魔の証言から悪魔の正体は、『銀氷属ジュボッコ』と判明する。犠牲者から血液を奪い、己の糧としたジュボッコは高位悪魔と同様の力を得、変異体と化したのだ。

『ライドウはドルミナーの影響で眠っちゃって、オイラ達へのMAG供給が断たれた状態だホー!でもこうして鳴海と話せるのは、ライドウが生きてるからだホ!オイラ達は管から出られないけど、ライドウが連れ去られた場所は、ライドウのMAGの匂いを辿れば分かるホー!』
!本当だな?!」
『ゥ案内するゼヌァルミイィィィッ!皆でルァイドウを助けるゾオォォォッ!!』

仲魔達の言葉が、愛しき人を探し求める探偵に希望の光を当て、奮い立たせる。しかし、危険な状況には変わりない。庭を徘徊する悪魔─グール─は此方に狙いを定め、少しずつ近付いて来た。彼は右脚側のスカートを一気に裂き、ホルスターのポーチから瓶を取り出す。栓を抜き、中の水を振り撒くと、悪魔は呻きながら立ち止まる。

「持っててよかったぜ退魔の水」

退魔の水。
其の名の通り、悪魔を退く力を秘めた水だ。任務で負傷したライドウは、以降戦闘を極力避けるべく、退魔の水を振り撒いた上で鳴海探偵社に帰宅することがある。いや、帰宅することが多いと訂正しておこう。鳴海はライドウを見習い、念には念を押し、ホルスターのポーチに退魔の水を密かに仕込んでいた。もし持参していなかったら、ライドウ不在の今、悪魔の餌食になっていただろう。

「鳴海お前と仲魔が話していたことは、トランシーバーなるものから聴いていたぞ」
「へ?あ、そうだったトランシーバーのことをすっかり忘れ?」

石畳に落としたままのトランシーバーから、ノイズ混じりの音声が聴こえる。異界に堕ちても難通話が可能とは、無線恐るべし。だが、鳴海はトランシーバー越しの声の主に違和感を抱く。
定吉よりも、声音が低い。
しかし、不思議と落ち着く声だ。

「我はゴウトだ。鳴海よ、時間が惜しい故、此方の状況を手短に話すぞ」
!ゴウトちゃん?!此の声、ゴウトちゃんなの?!」

ゴウトの発言は、”異”に関わる者には届いているが、鳴海や定吉には猫の鳴き声にしか聞こえない。ところが、今の鳴海には、ゴウトの発言がしっかりと届いている。鳴海は瞠若しながらトランシーバーを拾い上げ、仮面と帽子を投げ捨て駆け出した。兎に角時間が惜しい為、仲魔の案内に従いつつ、トランシーバーの通話ボタンを押す。

「ゴウトちゃんの声なのか?!」
「異界に取り込まれた影響で、鳴海にも我と仲魔の声が聴こえるようになったのだ。ともあれ、我と定吉も異界に取り込まれておる、お茶会の参加者も含めてな」
「何だって?!」

普段聴こえることの無いゴウトと仲魔の声が、何故今回はっきりと聴こえたのか。其の理由が判明した今、鳴海の中で腑に落ちる。いや、腑に落ちている場合じゃない。ゴウトの発言から、向こうも拙い状況のようだ。

「今定吉が参加者を一カ所に集め、周囲に退魔の水を撒いておる。此れで悪魔は参加者に手を出せまいが、効果は時間の経過と共に消えるもの。退魔の効果が消える前に、我々はジュボッコの変異体を討伐せねばらん」
「ああそうだな」
「討伐の要となるライドウは、ジュボッコに拉致されたのだな?」

ライドウの拉致。
悔恨で立ち止まりそうになるも、ゴウトの言葉に耳を傾けながら走り続けた。仲魔がもう近くだホ、気を引き締めろヌァルミイィィィ、と叫ぶ。

「鳴海よ、お前にこんなことを言う我も可笑しいと思うがライドウの救出を頼む。打開策は一応持っておるのだろう?お前がライドウと二人きりになった時、ライドウが自身のMAGを以ってお前に何かを施した合流した際、ライドウのMAGが減少していたからな。しかしライドウから力を与えられたからといって、過信はするでないぞライドウをジュボッコから解放した瞬間、脱兎の如く逃げるのだ」
「(あーちゃんとバレてたのね)分かった肝に銘じておくぜ。あとゴウトちゃん、件のジュボッコとやらに大分近付いたみたいだから、通話ボタンを離してくれ。声でバレちまったら、元も子もないからな」
「ああ、了解した。我々も区切りが付いたらライドウのMAGを辿り、其方へ向かう。死ぬでないぞ、鳴海!」

流石はライドウのお目付け役、全てお見通しであった。
ゴウトの忠告を心に留め、鳴海はトランシーバーの通話ボタンを離す。
ライドウを拉致した相手がテロリズム組織だったら、自分は躊躇いを一切抱えずテロリズム組織に乗り込み、問答無用に、無慈悲に蹂躙し、至る所を血に染めながらライドウを救出しただろう。しかし、相手が悪魔となると話は別。心拍の上昇と発汗、止まらぬ武者震い。

引き下がれる訳ねぇだろ!鳴海ィっ!!」

愛しき人の為に雄叫び、己に纏わりつく恐怖を払拭する。