真九龍
2025-09-10 19:48:53
48337文字
Public 小説
 

【鳴ライ】Sweet and Crisis

鳴海×ライドウで、”二人で女装”して潜入捜査するお話。
ラストのページはあとがき、と言う名の裏設定になります。
注1:両想いな鳴ライになっています。
注2:ライドウremaster版をプレイ及びクリア済み。ゲーム本編のネタバレが含まれます。
注3:攻めの女装表現が含まれます(勿論ライドウも女装します)。
注4:間接的ですが、名も無きモブの死亡表現が含まれます。
注5:女性軽視表現が含まれます。

─壱─

香りは癒しと安らぎを与えるか、其れとも惑わし狂わせるか。

大正二十年、某月某日。
雨雲の下、小雨降る肌寒い昼時の月曜日。銀楼閣は鳴海探偵社の執務室では、緊張感張り詰めた空気が漂っていた。

「突然の来訪、失礼する」

其れも其の筈、鳴海と非常に因縁深き人物、帝国海軍秘密将校・川野定吉が来訪していたからだ。彼は両腕を後ろで組み、執務椅子に座る鳴海を見下ろす。其の顔は、無表情で冷徹。鳴海は定吉の気迫に負けまいと前で両腕を組み、睨み付ける。其の顔は、底冷えする偽りの笑み。ライドウはというと、二人のピリピリバチバチとした険悪な空気を直に感知し、狼狽えている様子だ。

「ふーむ鳴海は陸軍の元秘密将校で、定吉は海軍の現役秘密将校或る意味対をなす二人、互いに相容れぬものが有るのは致し方無しか

ゴウトはテーブルの上でぽつりと呟きながら、閃光散らす鳴海と定吉を交互に見やる。室内に暫しの沈黙が続いた後、先に口を開いたのは、

あ、あの鳴海さん、定吉さんその………珈琲を、お淹れしましょうか?」

まさかのライドウだった。
彼は此の重苦しい空気を変えるべく、勇気を出して自ら声を上げたのだ。但し、恥ずかしさ故か声量は物凄く小さく、顔も赤く染まっている。互いに睨み合いっこをしていた鳴海と定吉の視線がライドウに逸れ、二人の視界の中に捉えられた瞬間、ライドウの肩がびくりと跳ね上がる。蛇に睨まれた蛙とは、此のことなのか。煩い心音、額に滲み伝う冷や汗。強烈な重圧と緊張で硬直してしまったライドウに、上司である鳴海は視線を下に逸らし、そして、肩を震わせた。

「ふっ………くくっあはは!ライドウ、此のクソ重てぇ空気で珈琲をお淹れしましょうか?は中々攻めたな。でも、お陰で気が楽になったぜ!じゃあ、頼もうかな。何処かの誰かさんの所為で精神がピリピリしちまったから、ライドウちゃんの淹れた珈琲でも飲んで落ち着くとするか」
「そ、そうですか(良かった何時もの鳴海さんだ)あの、定吉さんは、どうされますか

鳴海が顔を上げると、何時もの笑い声と、何時もの笑顔をライドウに向ける。空気の読めない台詞だったかもしれないが、ライドウは鳴海の声に胸を撫で下ろし、定吉の回答を待つ。

噂を聞くと、君が淹れた珈琲は美味いそうだね?では、一杯貰おうか」
!わ、分かりました!直ぐに淹れてきます!」

定吉は帽子を一旦被り直し、淡々と答えた。二人から珈琲の注文が入ったライドウは、準備の為に一旦退室する。残されたのは、先程無言の対立を繰り広げた鳴海と定吉、及び、ゴウト。やはりと言うか、仲介役のライドウが居なくなった途端、二人の間で無言の対立が再び勃発する。
無表情の定吉、対、偽りの笑顔を浮かべる鳴海。
あまりの気まずさに、ゴウトはライドウに連いて行けばよかったと後悔する。鳴海探偵社の良心的存在であるライドウよ、珈琲を早く淹れて戻って来い、と、只管願った。

「お前が此処に来た理由を当ててやるデビルサマナーたるライドウの力を借りたいからだろ?」
詳しい事は、ライドウ君が来てからお話しよう」
「へいへい、構いませんよっと

二度目の対立で沈黙を破ったのは鳴海だが、定吉は近くの椅子に腰掛けながら、ライドウが戻らねば詳細は語らぬと、鳴海の質問を突き放す。鳴海は予想通りの回答が来たなといった様子で、愛想無き声であしらう。
此の鳴海探偵社は”日常の中に於ける違和感”や”不審で不自然なもの”を調査し、解決に導くことを生業としている。定吉が探偵社に来訪したという事は、軍の関係者、若しくは内部で何か発生したと予想するが、果たして。

お、お待たせしました(まだピリピリしてるような気がする)」

数分後、トレイを抱えたライドウが戻って来た。
しかし、二人の間に流れる異様な空気を再び察知したのか、歩く足取りがやや重たく見える。

「定吉さん、どうぞ
「ああ」

ライドウは定吉の前に、珈琲入りのカップを置く。霞台の異界で出会った時、定吉の第一印象は陽気で気さくだった。しかし、秘密将校として暗躍する定吉の姿は、冷静で冷徹。真の彼は何方なのか、ライドウにも分からない。

………ふむ噂通り、美味い珈琲だな」
「あ有難う御座います

ライドウの珈琲を飲んだ定吉の無たる表情が、少し綻んだ様な気がする。静かに珈琲を飲み進める定吉を後にし、ライドウは鳴海の許へと向かう。

「鳴海さん、どうぞ」
「何時もありがとなさて、定吉さんよライドウも戻って来たんだから、ちゃ~んと話してもらうぜ。美味しい珈琲を飲みながら、な?」
!」

鳴海の執務テーブルの上にカップを置いたライドウは、鳴海の台詞を耳にし立ち止まる。
軍人たる定吉が此の探偵社に来訪した時点で、何かが有ると薄々察していた。軍関係者が直々に来る場合は、デビルサマナーの能力が必須である時。ライドウは鳴海の傍を離れず、定吉の言葉を待つ。

晴海町近郊で発見された、二人の女性変死事件を存じかな?」
!あの件か確か─」

定吉が口にした件に、鳴海は心当たりがあった。
一人目の被害者は、二十代前半の女性。華族出身の所謂お嬢様で、夫は大手製菓会社の上層部に所属する。結婚して二年ほど経過し、夫婦関係がやや冷め切っていた。尚、二人の間に子は無し。土曜日の夕方に晴海町へ出掛けてから行方が分からず、其の夜に捜索を警察に依頼。翌々日の月曜日、女性は晴海町河口付近で、”変わり果てた姿”となって発見される。
二人目の被害者はアパレル産業に務める二十代後半の女性で、離婚歴有り。元夫との間には子が二人居り、親権は女性が有する。女性は一人目の被害者同様、晴海町へ出掛けるも帰宅せず、同居する母が警察に捜索を依頼。そして、此の女性変死事件から丁度一週間後の月曜日。晴海町の海岸で”変死体”となって発見された。
二つの事件は共通点が多いことから、犯人は同一人物である可能性が高い。
警察は引き続き調査を継続し、事件解決へと臨む。
─帝都新報の記事より一部抜粋─

─だったなま、予想は付いてるけど、此の二つの事件には、公に公表出来ない事実が有ったてやつだろ?」
「流石探偵、頭の回転が速いなそうだ此の事件には、不可解な点があった」

事件の被害者となった二人の女性の、もう一つの共通点。
其れは、全身の血液が抜かれていたこと。
被害者の死因は失血死であることに間違い無いが、致命傷となる大きな外傷は見当たらなかった。では、一体どうやって失血させたのか。警察は遺体を血眼で検死し、漸く発見したのが、

「両手首関節、両肘関節、両頸部計六ヶ所に、やや太めの針で刺したような痕跡が見つかったのだ」
「へぇ~?刺す位置的に、採血でも施行したような感じだなだとすると、犯人は医療従事者か、血液で興奮する異常性癖の持ち主或いは─」
………悪魔の仕業、ですか

採血痕のようなもの、則ち、血液を抜き取った痕跡だった。此の六ヶ所から身体の血液を抜き取り、女性を失血死させたのだろう。矢鱈と手の込んだ殺害方法に、犯人は特殊な癖を持ち合わせた人物と推測する。若しくは、悪魔か。ライドウは鳴海の台詞に繋げる形で、小さく呟く。

「警察は帝都各地の病院も捜査したが血液採取用の医療器具が持ち出された、ないし、窃盗の形跡は無かったそうだ」
「なぁ~るほど犯人は人間以外則ち、悪魔が濃厚であると上が判断し、俺達の所に来たって訳かでもな、定吉さん此処で一つ疑問が残るんだわこういった異質な事件は、風間さんが渋々依頼を寄こしに来ていちゃもんも付けてくんだけど、何故今回は海軍のあんたが依頼を寄こしてくるんだ?風間さんと、いや、警察とひと悶着あったとしか思えないんだか?」
(!本当だ鳴海さんの言う通り、何時もなら風間さんが来るのに)

不可解で不可思議、そして、異質で異常な事件と判断された時、警察は鳴海探偵社に事件の解決を委ねる。依頼と事件の詳細を鳴海に伝えるのは風間刑事の役割で、あれこれ文句と愚痴を吐きながら託していくのがお約束。ところが、今回依頼に来たのは風間ではなく、海軍の秘密将校・定吉だった。事件は海軍の管轄地域である晴海町で発生したものだが、被害者は海軍、及び海軍関係者と全く以って接点が無い。
鳴海の推測に、定吉は無表情を貫きながら口を開く。

「今朝、晴海町で同様の事件が発生した其れも、犠牲者は我が海軍大尉の奥方だった」
!!」

事件は既に発生していた、三人目の犠牲者を出して。
第三の事件の被害者は、海軍大尉の奥方。年齢は二十代後半で、二人の間に子は居なかった。奥方は大尉に大変献身的だったが、当の大尉は浮気癖が酷く、彼方此方で情人を作っていた。奥方は大尉の浮気を既知していたが、”軍人の妻は夫が何をしても黙って従うべき”という概念に囚われ、誰にも暴露出来なかった。
事件発生前、先週の土曜日夕刻。奥方は息抜きに”お茶会”へ出掛けてくると宣言し、邸宅を後にする。そして、深夜になっても奥方は帰宅しなかった。使用人が警察に捜索依頼を出し、奥方の行方を捜す中、大尉は情人と過ごしていたことが発覚し、海軍内で大問題となった。海軍上層部が大尉を批難し問い詰める中、本朝、奥方は晴海町郊外の森の中で、全身の血液を抜かれた状態で発見されたのである。其の遺体には、二人の犠牲者同様、例の六ヶ所に採血様の痕が有った。

………浮気癖。まさかとは思うけどさぁ、捜査の進展次第で大尉の身辺が世間にバレると色々ややこしくなるから、海軍が事件捜査の権限を剥だじゃなくて、譲渡してもらったてやつか?」
「そうだ。風間刑事は相当ごねたがな

鋭意捜査中だったにも拘わらず、海軍関係者の内輪揉めで捜査権限を剥奪された風間は、今頃相当荒れているだろう。そして、第三の事件は海軍が上手いこと揉み消すことで、世間に公表される日は一生来ない。第一の第二の事件も、事件解決後、悪魔が関わった出来事は、ヤタガラスの印象操作に因って改変された記事が世に出る定めとなっている。心の中で、風間に諸々同情する鳴海であった。

「我々の腰も非常に重い件ではあるが悪魔が絡んでいる可能性が高い以上、デビルサマナーであるライドウ君にしか頼めないのだ」
「(不倫の所為でこうなったんだから、向こうの腰も重いわな)ライドウ、出来るか?」
「勿論です、今直ぐ調査に向かいます」

悪魔絡みの事件となれば、デビルサマナーの出番だ。帝都の守護者として、此れ以上の犠牲者を出さぬ為にも、早急に対応しなければならない。ライドウは帽子を正した後、ホルスターを身に付け、封魔の管、退魔の刀、銃の順に装着する。最後に外套を羽織れば、準備は完了となる。

「準備は出来たようだなでは、早速第三の遺体発見現場に」
「待て、俺も行くわ」
!鳴海さんも、ですか?」
「鳴海が同伴するとは珍しいな………ははぁ、さては

定吉がライドウと共に事件現場へ向かおうとした時、鳴海も動く。ライドウは鳴海が探偵所に待機しているものと思っていたのか、彼の発言に眼を大きく見開き、驚いている様子だ。しかし、ゴウトは何となくではあるが、察していた。
鳴海が定吉に対し、対抗心を燃やしているに違いない、と。
鳴海には元が付くとは言え、同職にあたる定吉。元秘密将校と現役秘密将校、元陸軍と現海軍。超力兵団の因縁も有り、色々と思う節を抱えているのだろう。其れも、悪い意味で。特注スーツと帽子を急ぎ装着する鳴海を他所に、定吉は呆然と立つライドウの背中に手を添え、早く出るよう催促する。

「鳴海殿、貴方の同伴は必要無」
「必要有りまぁ~す、絶ぇ~っ対に必要有りますからぁ~。てな訳で、俺も車に乗せてもらうぜ、定吉さん。行くぞ、ライドウ」
「えっ?あちょ鳴海さん?」

鳴海は無性に腹が立言葉遣いで定吉の台詞を遮り、混乱気味なライドウの手を引っ張りながら我先にと執務室を退出する。

やれやれ私に対抗したところで何になるというのだそう思わないか?ゴウト殿」
「ほんとだな

定吉も鳴海が対抗心を抱いていることに薄々勘付いていたのか、俯き加減で溜息を吐きながら、二人の後を追うゴウトに呟く。ゴウトは定吉のぼやきに同意するも、定吉はゴウトがどのような台詞を発したのかは分からない。