すなつき
2025-06-19 00:07:01
13996文字
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ウサギの嫁入り

黒毛のオオカミシリオンの中、ひとりだけ白い毛並みで生まれてきたことにより一族からその存在を疎まれてきたライカンと、
そのライカンの楔となるために番として選ばれ、はるばる嫁入りしてきたウサギシリオンのアキラ。

彼らが互いを知り家族となるまでの話。
Xにて投稿分をひとつにまとめました。


あまがみ編


ライカンは早起きである。くうくうと健やかな寝息を立てるアキラを起こさないようにそっとベッドを抜け出して身だしなみを整えたら、しばらく彼の寝顔を堪能してから優しく揺り起こしてくれる。
くああ、とあくびと共に寝そべっていたアキラの長い耳がピンと伸びるのを優しい笑顔で見守って、挨拶を交わすのが彼らの朝の始まりであった。

のだが、たまにアキラはライカンよりも早く目覚める朝がある。
普段のしがみつくような睡魔がぱっちりと断ち切られて清々しく目覚めた日はアキラが、まだ目を覚まさないライカンの寝顔を堪能する貴重な日である。
そっと人差し指でライカンのマズルに触れて鼻筋をくすぐるように撫でれば、三角耳がピコピコと可愛らしく動くのがたまらない。シーツが擦れる僅かな音で彼の尻尾も揺れていることが分かってアキラの両目がゆるゆると細まった。
多分だらしのない顔をしているかもしれない。だって貴重だ。彼のこんなに無防備な姿なんて。

くふくふ笑っているうちにいつもの起床時間になったのか、ライカンの目がゆっくりと開かれる。重い瞼をなんとか押し上げようとしているようだが睡魔の抵抗は強力なのか半分ほど開いてはとろとろと落ちてまた開いていく。
何度か繰り返してぎゅうと一度目を固く閉じてようよう赤くて綺麗な目が現れてアキラを映す。

……あきらさま」
「ふふ、おはようライカンさん」

ゆっくりと瞬いてライカンの口が柔らかな弧を描く。
かと思えばそのまま湿った黒い鼻先が近づいてきてアキラの小さな鼻にぴと、っと押し当てられた。
え、と目を見開くアキラの視界の中で、ライカンはそのまま舌先でアキラの口の端辺りを舐めた。それだけでなくかぷりと鼻まで噛むものだからアキラは硬直した。
脳内の処理が追いつかない。
まって、ライカンさん。本当にまってくれ。

じわじわと顔が赤くなって、短い尻尾がぴるぴると無意識に揺れてしまう。ぷー、と勝手に鼻が鳴ってアキラは沸き立つような羞恥に苛まれた。
跳ねる心臓はうるさいし、体は熱くて堪らないし。ライカンは甘ったるい声で「あきらさま」と名前を呼びながらかぷかぷ鼻を噛んでいるし。

「あ、う、ううっ……

寝ぼけている。ライカンが、寝ぼけてしまっている。
静止のために伸ばした手が柔く握り込まれて、すりすりと頬同士が擦れあってアキラはきゅうと喉を鳴らした。
そのままくたりと力が抜けてベッドに沈み込んでしまったアキラを見下ろすように顔を寄せたライカンは寸前ではたと覚醒したようで、赤い目が大きく見開かれた。

「お、おはようございます、あきら、さま」
……うん……

真っ赤になってしまった顔を隠すようにクッションに顔を埋めたアキラを見おろしてアウウとライカンは情けない声を漏らした。

(申し訳ありません、寝込みを襲うつもりはまったく……!)
(……寝込みじゃなかったら、襲ってくれるってことかい?)
(……ッ!?)