すなつき
2025-06-19 00:07:01
13996文字
Public
 

ウサギの嫁入り

黒毛のオオカミシリオンの中、ひとりだけ白い毛並みで生まれてきたことにより一族からその存在を疎まれてきたライカンと、
そのライカンの楔となるために番として選ばれ、はるばる嫁入りしてきたウサギシリオンのアキラ。

彼らが互いを知り家族となるまでの話。
Xにて投稿分をひとつにまとめました。



共寝編


「ライカンさん、ちょっといいかい?」

話し合いの末、呼び名が"ライカンさん"になったアキラが、眉尻を垂らして心底困ってますと言わんばかりの顔をしてライカンを見上げた。
余談であるが、旦那様は恥ずかしいので別の呼び方にして欲しいとお願いしたところ、彼の口からはご主人様が飛び出て来た時にはびっくりして固まってしまった。旦那様でムズムズしていたのにご主人様だなんてライカンは耐えられそうにない。
きゅっと眉間に皺を寄せてやんわりと拒否を示せば、ライカン様、が飛び出してきて結局最終的に"ライカンさん"に落ち着いた。
アキラは少しばかり不服そうな顔をしていたが、ライカンさんと舌で転がすように何度も名前を呼びながら頬を染めて「照れるね」などと笑っていた。
ご主人様の方が余っ程照れないだろうかとは思ったがライカンは口を引き結んだまま曖昧な笑みを浮かべて見せるだけだった。

まだ慣れない、と言ってもアキラが嫁いできてまだ半日しか経っていない今慣れるも何もないのだが、どこかソワソワとするような呼び名に一拍遅れて返事をしたライカンの手をアキラは控えめにぎゅっと握る。

「あの、寝室なんだけれども……
「ええ、あのお部屋をアキラ様お一人で使って頂いて構いませんよ。道中の疲れもありましょうから、ごゆっくりお過ごしくださいませ」

自分の様付けはやんわりとながらも断固拒否しておいて、アキラ様と呼ぶことは絶対に譲らなかったライカンは、繋がれた手を柔く握り返しながらそう言った。

「あなたの気遣いはとても嬉しいのだけれど……僕はウサギのシリオンだから……ウサギっていうのは寂しいと死んでしまうんだ。特に一人寝は一番危険で……朝になったら、もう……
「な、なんと、そのようなことが……!?」
「だからね、ライカンさんがイヤ、でなければ……一緒に寝てもらえないだろうか」

だめかい?と潤む目で見上げられればライカンには諾の返事しか残されていなかった。
嫁いだその日のうちに伴侶を死なせたとあらば、どちらにも顔向けできない。手の中の小さな温もりを失ってしまうことを想像して、ライカンは一層強く握り返して、良いですとも!と必死の形相で頷いた。あまりに必死すぎて、その日の夜ライカンは思い出して恥ずかしくなってしまうほどだった。

寝室に現れたアキラは大きめのスウェットシャツ一枚と、下着と見紛うような丈の短いパンツを身に着けていた。しなやかなほっそりとした脚を存分に見せつけるような格好にライカンの視線はうろと彷徨った。
そのままライカンの腕に巻き付いてくうくうと可愛らしい寝息を立てるものだから、改めてウサギの恐ろしいくらいの可愛さにグゥと喉を鳴らした。

後に、ウサギが寂しいと死ぬのは迷信だとライカンが知ることになるのはこれより随分と後のことである。