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すなつき
2025-06-19 00:07:01
13996文字
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ウサギの嫁入り
黒毛のオオカミシリオンの中、ひとりだけ白い毛並みで生まれてきたことにより一族からその存在を疎まれてきたライカンと、
そのライカンの楔となるために番として選ばれ、はるばる嫁入りしてきたウサギシリオンのアキラ。
彼らが互いを知り家族となるまでの話。
Xにて投稿分をひとつにまとめました。
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映画鑑賞編
「今日はどれにするんだい、ライカンさん」
「そうですね
……
」
ふむ、と顎下に指を添えて少し悩みつつライカンはテレビの近くに置かれた箱の中から、一本のビデオテープを取り出した。
アキラがこの家に来た当初ビデオデッキと共に持ち込んだ数本のテープは既に一巡して二巡目の最中に追加分を家族に頼んだのだと言うそれは、段ボール箱いっぱいに詰められて送られてきた。
どれもこれもライカンには馴染みのないもので、ドキュメンタリーやコメディ、アニメにドラマまで興味は尽きない。当分家から出る必要のないくらいの本数の中から取り上げた今日の一本。
「ではこちらをお願いします」
「
…………
うん」
一体どんな内容なのだろうかと少しばかりウキウキしながらアキラへとテープを差し出せばぴきりと彼の笑顔が凍ってしまった。
彼の目はケースに印字されたタイトルを二度見して、それから眉間にぐわっと皺が寄った。
「リンめ
……
よくもやってくれたな
……
」
「その、アキラ様がお好きでなければ別のものに、」
「いや! ライカンさんが選んでくれたものだからね。ちゃんと見るとするよ。それに別に嫌いなわけではないんだ」
苦手なだけでね、とぽそりと呟いて耳をしおしおにしながらアキラはテープをデッキへとセットした。心持ち、小さな尻尾も萎びているような気がしてライカンは少しばかり申し訳なくなった。
多様な映画を饒舌に語るアキラが苦手なビデオとなるとストーリーが破綻しているだとか、設定に無理がありすぎるだとか、演技にクセがありすぎるだとか。そんなところだろうか、と考えるうちにデッキはテープを回し始めていた。
真っ暗な画面がしばらく続いたのち、のどかな風景が映し出された。まあ、のどかであったのは始めの十分やそこらまでだった。
今にも泣き出しそうな陰鬱な灰色の雲がもたらすどこかじめっとした空気。BGMは不安を煽るようにいびつになっていき、わざとぶれたカメラワークにライカンは息を飲んだ。
「ひ、ぅ
……
ッ」
それと同時にライカンの隣で小さな悲鳴があがった。ふたり並んで腰掛ける小さなソファが僅かに揺れてアキラが身動ぎしながら息を潜めるのを気配で感じ取りながらもライカンは画面から目を反らすことができなかった。
不可解な現象に襲われる町。次々と消えていく住人。姿を現さない元凶が、しかし確実にひたりひたりと距離を詰めてくる恐怖。
極限の状態で曝け出される本性と、痛ましいほどの悲鳴。はたと気がつけば全てが気持ち悪く思える絶妙なストーリーで描き出される世界にライカンはのめり込んでいた。
そうして暴かれる真実。物語は佳境に入り、追い立てるようなBGMと共に崩壊する仮初でしかなかった平和と、人の犯した大きな罪。永劫その罪を背負うことになった主人公が、血まみれのままゾッとするような笑みを浮かべたところで、ぶつりと画面は真っ暗になった。
一拍のち、嫌に軽快な音楽と共に流れ出したエンドロールにライカンはほう、と息を吐き出した。
そうしてようよう、隣に座るアキラの様子を伺うことができた。
彼は顔色を悪くしてライカンの腕にひしとしがみついて身を守るように背を丸めていた。
耳は萎れていたし、つつけばぼろりと溢れてしまいそうな涙が目尻に溜まっている。それなのに縫い止められたように視線はテレビ画面に真っ直ぐに向かっていた。
「
……
アキラ様?」
恐る、恐る。ライカンは彼の名前を呼んだ。先ほど見た映画の中にもこのようなシーンがあったな、と思い出す。
名前を呼ばれたアキラはのろのろと声のした方を見あげて、ライカンの顔をしっかりと認めてからくしゃりと顔を歪めた。
「うっ
……
うう
……
」
「あ、ああ、申し訳ありません
……
ホラーが苦手でいらっしゃるのですね」
巻き込まれた腕派そのままに、自由であったもう片方の手で、アキラの頬をそっと優しく撫でてやる。甘えるようにすり寄ったアキラは潤んだままの目でライカンを見上げると小さくおとがいを引いて頷いた。
曰く、ホラーの中でも最恐と名高い一作であったらしい。ストーリーも音楽も素晴らしく、ただ恐がらせるだけでない演出。よくもそこまで演じることができるな、と思うほどの主演の役者の気味の悪さ。
後味の悪さを残しながらも端々に隠された伏線が二度目の鑑賞で明らかになるというこの映画。決して嫌いではない。これがホラーでなければ考察を語りたいくらいには好きなストーリーである。ホラーでなければ。
アキラは今更バクバクと鳴り出した心臓を宥めるように呼吸を繰り返して、震える声でライカンにお願いをした。
「今日、いっしょに寝てくれないかい
……
」
「それは、ええ、もちろん」
既に何度も一緒に寝ているとは言えずライカンは震えるウサギを労るように笑みを浮かべた。
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