すなつき
2025-06-19 00:07:01
13996文字
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ウサギの嫁入り

黒毛のオオカミシリオンの中、ひとりだけ白い毛並みで生まれてきたことにより一族からその存在を疎まれてきたライカンと、
そのライカンの楔となるために番として選ばれ、はるばる嫁入りしてきたウサギシリオンのアキラ。

彼らが互いを知り家族となるまでの話。
Xにて投稿分をひとつにまとめました。



嫁入り編 2


随伴してきた共と抱きしめ合って別れを惜しんだアキラは、彼らの姿が見えなくなるまでじいと見つめた後ライカンに連れられて居の中へと入った。
小ぢんまりとした家屋の中は順繰りに案内したとしてもさして時間はかからない。にこにこしながら後をぴょこぴょこついてくるウサギの可愛らしさに無意識に揺れてしまう尻尾をどうにか押さえ込んだライカンは、ようやくリビングにてお茶を一杯飲み干した所だった。

結婚するにあって本日が初めての顔合わせとなる二人の会話はまるでお見合いのようであった。とは言え、お互いに穏やかな口調で交わされる会話は心地の良いテンポで、アキラは聞き上手な上に話し上手でもあったので気まずい沈黙に支配されることもなかった。
気がつけばすっかりと気を許した友人同士のようにもなっていたのだが、ライカンにはひとつ懸念があった。
アキラの距離がとてつもなく、近いのだ。始めは対面で座っていたはずなのに気がつけば横に座っていて、例のあのキラキラした目でこちらを見上げているのだ。とろりと溶けてしまいそうな程にキラキラつやつやとした朝日の差し込む新緑のような目で見られるとどうしてだが、体温がじりじりと上がってしまう。加えて百合の花に似た甘やかな匂いもダメ押しのようになって、ライカンは掌にじとりと汗が滲むのを感じた。

人との触れ合いと言えば乳母であった女性が殆どで、彼女でさえこんな近距離で視線を交わしたことなどない。
ゆら、と太くて長い尾が揺れて床の上を掠める音に、アキラの顔が笑みを深くした。頭上の長い両耳はまるでこちらの言葉を一言一句漏らすまいとでもするかのようにピンと立っており、いつもより騒がしい心臓の音までも拾われてしまいそうだった。

「あ、あの、アキラ様」
「うん、なんだい旦那様」
「だっ……!?」

少し離れて貰えないだろうかとそう願うはずだった言葉は、返された爆弾のような威力を持つ旦那様とやらに木っ端にされてしまった。
……だん、だんな? だんな、さま?
ライカンはあわあわと小さく口を開閉してそれからゴホンと咳払いをひとつしてどうにか自分を落ち着けるよう努力をした。
深呼吸を二、三回繰り返して少しばかり平静を保てるようになってからそろとアキラを見た。
彼は笑みを浮かべたまま、ライカンと視線が合うと「うん?」と首を傾げてみせる。

ウサギ族と言うのはこれほどまでに愛らしいものなのだろうか……
両手で顔を覆いたくなるのをグッと堪えてライカンは拳を握った。その手をアキラがすりすりと指先で撫でるものだからグゥと喉が鳴ってしまう。

「わ、私たちは番とは言え今日が初対面ですし、あなたに妻の振る舞いを強要するつもりはありません。しばらくはこちらに馴染んでいただくための時間を置いてそれから二人でどうするかを、話し合いたいと思いますが……如何でしょうか」

アキラはきょとりと目を見開いてまじまじとライカンを見上げた。
婚姻を結んだとて、結局二人の結婚とやらは書面上でサインを交わすのみだ。式を挙げることもなければ、男同士ゆえ子を成すこともできず、ただライカンの楔として役目を与えられてここに縛りつけてしまうことしかできない。
広い家に住むことも、友人と遊びに出かけることも恐らくは許されないだろう。彼がこんな生活を嘆き心身に異常をきたすくらいならどうにかして解放してやりたいとそう思った。
地獄に住むのは己ひとりで充分だ。アキラを巻き込みたくなどないと、たった数時間で絆されてしまったライカンの心が叫んでいる。

「ふふ……旦那様は優しいね。僕のことをそんなにも気遣ってくれるなんて。僕はとっくに貴方にならめちゃくちゃに抱かれても良い位には気に入ってしまっているけど、必ずしも貴方も同じ気持ちとは限らないか。うん、それなら貴方に好きになってもらえるよう頑張るとするよ」
…………?」
「僕としては末永く、お願いしたいところだけど。そうだね、とりあえずは数日一緒に過ごしてみようか」

途中から何を言っているのか分からなくなってしまったライカンに向かって、アキラは耳をビビと震わせて目を細めた。

(ま、心より先に体を落としてしまうのもアリ、かな)