すなつき
2025-06-19 00:07:01
13996文字
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ウサギの嫁入り

黒毛のオオカミシリオンの中、ひとりだけ白い毛並みで生まれてきたことにより一族からその存在を疎まれてきたライカンと、
そのライカンの楔となるために番として選ばれ、はるばる嫁入りしてきたウサギシリオンのアキラ。

彼らが互いを知り家族となるまでの話。
Xにて投稿分をひとつにまとめました。


未明編


ライカンが就寝時、時々魘されていることに気がついたのは何日目の夜だっただろうか。
びくりと一度小さく体を揺らして、それからグッと息を詰める。次に体がどんどん強張って、呼吸を乱すのだ。
初めはどこか悪いのかと思って飛び起きた。不安と恐怖に苛まれながら呼びかけて触れたライカンの体は震えていた。喉の奥から重苦しいものがせり上がって、ひゅうとアキラの喉も鳴った。

ライカンさん、ライカンさん。
何度も名前を呼んで揺さぶって。それでも彼は固く目を閉じたまま眠りに囚われているようだった。
どうしよう、とスマホに手を伸ばした辺りでライカンは探るように手を伸ばしてきたものだからアキラは思わずその手を強く握りしめていた。
まるで迷子の子どもが親を探すような手ぶりだった。アキラが眉間に皺を寄せながらもライカンの手を両手でしっかりと握ってやれば弱々しくも反応が返される。

きゅうん、と切ない音でライカンが鼻を鳴らした。行かないで、と、縋るように握った手に力が込められる。

「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ、ライカンさん」

そうやって言葉をかければライカンの震えは徐々に収まって、緩やかな寝息へと取って代わる。
夜明けはまだ遠い薄暗闇の中。アキラは静かな寝息を立てる新しい家族の顔をじっと見つめた。大丈夫。僕がいるからね。
そんな思いを込めて、力の抜けた彼の手をやわく擦った。

翌朝のライカンは、悪夢のことなどちっとも覚えていないようで握られたままの手をぼんやりと見て、ゆるゆると口端を緩ませた。アキラがとっくに起きていることなど気がついていないのか、親指の腹で手のひらを撫でられてジャンプしてしまうところだった。
ライカンが見る夢のことは気になるが、忘れているならそれで良いのだ。家族になったって、全てを打ち明ける必要などない。アキラだってライカンに隠し事くらいしている。
ライカンが話したくなったなら、アキラはただ静かに耳を傾けるのみだ。


その夜もまた、アキラはライカンが身を震わせた振動で目を覚まして、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
グゥと喉がなる。ああ、来るなと思ったら案の定、四肢が強張り始めた。
ライカンは髪に隠された右目を押えて背を丸めた。

いたい、と。
噛み締めた歯列の間から漏らして、目を押さえている。
アキラはゆっくりと上体を持ち上げて、ずり上がるとライカンの頭の下に腕を差し込んでそのまま抱き締めるように薄い胸元に引き寄せた。

「大丈夫だよ、ライカンさん」
……ぃ、たい、め、が……ぃた、い」
「痛くないよ。大丈夫。大丈夫だよ、ライカンさん、もう大丈夫だ」

後頭部の髪の毛を優しく梳いて、アキラは伏せたライカンの耳に何度も言葉を吹き込んだ。

「いたいの、いたいの、飛んでいけ。ね、ほら、もう飛んでいっただろう」
「ふ、ぅッ……あき、ら、さま」
「うん、僕だよ。ここにいるからね」

ゆっくりとライカンの呼吸が落ち着いていく。トントンと背中を叩いて、押さえた手のひらの上にちゅうと吸いついた。ほんの、気休め程度のおまじないで、ライカンの知らない夜の間のこと。あなたの眠りが、穏やかであるようにと切なるアキラの祈りの形だ。

「あきらさま……どこにも、いかないで」

震えの収まったライカンは、舌足らずな口調でアキラの名前を呼んで腰に腕を巻きつけた。幼いその仕草に応えるようにアキラも彼の頭を引き寄せて、つむじに唇を押し当てる。

「ずうっと、あなたといるよ。どこにもいかない。あなたと、ずっと、一緒にいさせて」

夜明けはまだ少し遠い、未明のこと。
混じる体温の心地よさにアキラは細く長い息を吐き出して目を閉じた。

(ねむれ、ねむれ、ぼくのかわいいおおかみさん)
(夜明けはすぐそこ。ねむれ、よいこよ)