kumazaregoto
2025-05-30 10:41:24
17517文字
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智慧灯明因習村だよ 1日目

橿本借りました
のさくさんの因習村はこちら→ 明日に選ばれし者たち https://privatter.me/page/6961a7feb5965



東雲の家は、村長や他の村人たちのものから少し離れた先にあった。田畑は既に暗闇に隠れてしまいその姿は見えなくなっているが、東雲の家の周りにはそれらしき地形は無い。
ぽつん、と厩舎と変わらぬ見た目の家は、村長どころか村のどの家よりも見窄らしい。壁には鍬や鋤ではなく鉈や縄が掛けられている。物干し竿には人の衣類にしては袖口も無い、奇妙な白い布が夜風を受けて揺れていた。
その中でも目を引いたのは、彼の家の横にある石群だ。十数個は連なっており、どれも盛土の上に規則正しく立っている。
どう見ても自然物ではないそれは、一目見て墓という印象を持つだろう。碑は刻まれていないが、月光を受けた石の輝きは手入れの行き届いていない刀よりも美しかった。
「綺麗に磨かれているな。君がしているのか?」
彩貴が呟くと、東雲は困った様に笑った。
「はい……生きる為ですが、僕が彼らを殺してしまったから、せめてお墓くらいはきれいにしたくて……
東雲は手前の墓を優しく撫でる。
「この子は蹄がもうだめになって、もう歩けなくなってしまいました。だからなんですかね……僕が手にかけようとした時には、抵抗しなかったんです」
……そうか」
「すみません、黙っていて。僕の家に泊まる、のは、お二人にも迷惑をかけてしまうことに、なるのに」
彩貴はああ、と内心納得をする。この青年がずっと自信が無い様子に見えたのはこの為だろうと。村長でこそ東雲と会話はしていたものの、そういえば家では東雲に気を配る素振りすらなかった。この村の村長と村民の間柄がそういうものだとしても、村人からの態度が東雲の立場を物語っていた。
「気にするな。宿を提供してくれる事、感謝する」
……えっ」
一礼をする彩貴に、東雲は口を開けて呆然とする。
「や、やめて下さい……、僕は、礼を言われるような立場じゃ、」
「これは鹿布か?」
東雲の言葉を遮ったのは、橿本だった。
彩貴の前を歩いていたはずであったが、着いた途端に東雲や彩貴そっちのけにしていたらしい。声の方向へ振り向けば、物干し竿の前にいた様だ。橿本は、その竿にだらりと垂れ下がった白い布を見つめていた。
「そ、そうですが……
「自分には皮なめしの良し悪しはわからんが、傷一つ無い、良い腕だと思うぞ」
それが真意か世辞か。橿本の言葉の真偽は知る由もなかったが、その言の葉に東雲の目が見開く。月の光を受けた瞳は潤み、悲愴を帯びている。自嘲げに上がった口角が下がって呆然と二人を見つめていた。
あ、と薄く開いた唇が、何かを呟こうと息を吐くが、躊躇う様に口を閉ざす。
……家、どうぞ入って。お二人は、床座で休んでて下さい。一人分しか、今無いので採ってきます」
「いや、手伝おう」
「ありがとう、ございます……でも、すぐそこなので。ちょうどこの頃、近くで山菜が採れるんです。二人は、旅の疲れもある、と思いますし」
二人分を用意するには大きすぎる背負籠をよっこいしょ、と背負う。踵を返す東雲の足取りは思いの外速い。夜闇に紛れて後ろ姿はすぐに見えなくなる。その背は変わらず猫背であったが、どこか哀愁さえ帯びていた。