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kumazaregoto
2025-05-30 10:41:24
17517文字
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智慧灯明因習村だよ 1日目
橿本借りました
のさくさんの因習村はこちら→ 明日に選ばれし者たち
https://privatter.me/page/6961a7feb5965
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◆
「ありがとうございました
……
このお礼は、一体どのようにお返しをすれば
……
!」
「何、礼を言われるほどのことではない。気にするな」
麓を下る山風は冷たいが、山越をしたばかりの者には丁度良い心地良さを齎した。爽風が草木を撫で、さらさらと奏でる音と、雀や山鳩が楽しげに鳴く声が、より一層穏やかな気持ちにさせる。
木漏れ日は溢れるものの、木々に覆われた閉塞感と少し間違えれば迷い込む恐怖と隣り合わせの森よりも、雲一つない青空の下で浴びる陽の光は眩しいが、神々しい。思わず陽光に手を合わせた者も行商人の一向に数名見受けられた。
「いやいやしかし、お医者さんと傭兵さんが居なかったら、おれたちは今頃賊に襲われて金無し命無し、墓も無しになるとこだったんですよ」
山を降りたばかりの行商一向は、麓の町を背に深々と頭を下げる。決して少なくはない人数であったが、皆一様に土と草木に汚れたよくある旅装束を纏う。国は違えど町に出入りする住民とさほど装いは変わらない。一方で、彼らが頭を下げた相手はただの旅人と称するには些か目立つ姿をしていた。
一人は墨よりも深く夜の闇にも似た黒布を被り、更に深い暗緑色の髪が目元までを隠す姿はさながら隠者の様か。
世捨て人としては纏う着物や鎧に薄汚さは無く、武士であれば軽装に過ぎる。商人にしては背負う荷も少なく、持つ荷といえば手に持つ杖くらいだろうか。しかし青い宝玉を熊の爪が掴んだ先を杖先とした奇妙な杖からも、遊行僧のそれとはかけ離れている。
つまりはただの旅人とするには異様であり、誰からも浮く姿であり初見では疑わしい。しかしながら、口角の上がった口元、賑やかではあるものの、耳を傾けたくなる話し口と話術には目を見張るものがあり、只者では無いと感じさせる。それがこの橿本栄四郎という男であった。
「それはこの者のお陰であろう!自分も戦えん身だ、怪我をしたら自分の出番だが身を守る、敵を倒すとなれば無力故な!」
「はぁ
……
呑気に握り飯を頬張っていた者がよく言う」
もう一方の旅人は、橿本より旅人らしい風体か。焦茶色の羽織を軽く纏い、その下には深い緋色の小袖が裾から覗く。同じ色の頭巾から垂れ下がった房飾りが揺れ、結った黒髪には鷹や隼の羽根にも似た羽根飾りが揺れる。特筆すべきは羽織に隠されているものの、少しだけ先の見えた長尺物
—
太刀だ。その一つでこの旅人が武士であり、行商頭の言う傭兵が誰なのかを物語っていた。
傭兵の名は矢神彩貴。橿本の旅の同行者であった。
「わははは!灯明のの戦いは実に速い、お陰で握り飯を食べきれんかったぞ」
「そうか。では次からは取り出す間も与えぬほど疾く済ませよう」
「本当に傭兵さんの動きは早くて、おれたち何が起きたんだかちーっともわかりやしませんでしたよ」
「賊も何が起こったか全然わかっちゃいない顔してましたねえ。その腕があれば士官も出来そうだってのに」
「ばぁか、士官されてちゃあおれらは今頃無縁仏になっちまうとこだったんだよ」
どっと、商人たちは大笑する。鬱蒼とした森林を抜け開けた光景に安堵を覚えたのか、そのどれもに翳りは見えない。一人一人に目を向け、それまで無表情を貫いていた彩貴の口元が少しだけ緩んだ。
「では私たちはここまでだな。しばらくは町にいるが、君たちよりは滞在期間は短いだろう」
「あり?そんなに短いんで?」
「ああ、先を急ぐ身でな」
「それでは伝わらんだろう灯明の。つまりは自分は医者で、怪我人や患者がいればそちらへ向かうというだけだ。その護衛に連れを付けているのだが、どうにも気が短くて敵わん!」
わははは、と大笑する橿本の手には今度は食べかけの桃が握られている。その様に唖然とする一向に今度は彩貴が気にするなと、手を振った。
「そういう訳だ。この町はそう広くもない、どこかで会うやもしれないな」
「ははあ、そういうことでしたか。じゃあ暫しの別れって奴ですね」
行商一向は再び頭を下げる。
「じゃあ、お世話になりました!お二人さんもお困りごとがあったら声かけてくださいねえ!」
大手を振って別れを告げ続ける彼らの礼は、彩貴たちが見えなくなるまでずっと続けられていた。
晴れやかな昼下がりの時のことであった。
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