kumazaregoto
2025-05-30 10:41:24
17517文字
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智慧灯明因習村だよ 1日目

橿本借りました
のさくさんの因習村はこちら→ 明日に選ばれし者たち https://privatter.me/page/6961a7feb5965


 
大きな戦があった。
初めは武士同士の小さな争いであった戦いは日の本中へと波及し、戦火によって多くの村や民が焼かれて消え去った。故郷を亡くし、家族を亡くし、財産を亡くし、人としての名誉や尊厳も奪われ、人の形をした獣たちがのさばり、多くの民は嘆くばかりであった。
どうかこの争いが終わりますように。
平和な時代が訪れますように。
しかし幾度民が祈ろうとも、神仏は何も応えない。
無慈悲に大地や草木を焼き、穢土を濯がんと大雨を降らして海や川は荒れ狂う。荒れ果てた大地の上や、氾濫した川の中には腐肉と血が溢れていた。
まさに、この現世こそ地獄。それが乱世と呼ばれた時代である。
「はぁ、はぁ……っ」
乱世に苦しめられたのは農民だけではない。家柄も領地も持たない足軽は、手柄を立てなければ明日は無い。壊れた装備を新調するにも金は無く、使い古された具足と陣笠と刀で戦うか、死んだ足軽から強奪するかのどちらか。
何よりも、食べ物が尽きることが彼らにとっての恐怖であり、その様は餓鬼道の鬼そのもの。
食い扶持にも困る様は、農民よりも悲惨とも言え、ここにも一人、食い扶持を絶たれた足軽がいた。
(本軍と離れてもう五日……芋縄も尽きた、ここは……どこだ……)
鬱蒼とした山奥に一人彷徨う男の具足は、剥がれて瑕と土に汚れている。痩けた顔からは生気はほとんど感じられず、ぎょろりと血走った目を一層不気味に目立たせた。
刀を杖代わりにし、もつれる足を引き摺りながら歩く。鎧兜は身を守る防具では無く、むしろ彼の自由を阻む重りにしかなり得ていない。
具足を捨てれば身が軽くなることは男も承知であったが、それでも男にとって身を守る命綱であり、彼の持つ唯一の財産であり、手放すことは難かった。
(水、水さえあれば)
男の食が絶たれてから、もう三日は経っていた。水筒の水はすでに尽き、山中には水源の一つはあるはずであったが、枯れ果て湿り気を失った溝が残されているばかりだ。下手な雨乞いをするも、天は男を嘲笑うかのように煌々と地を照らす。雨水を頼りにすることも出来なかった。
食うにも葉の一つ、嚥下することすらままならず、空腹が食を拒んで吐き出すほどにまで男の食は細くなってしまった。
獣道と、足元に絡みつく茂みがもつれた足を更に疲弊させる。行けども行けども、水の匂いには辿り着かない。男には歩いているか、実は立ったまま動けなくなっているのかも、意識は朦朧とし定かではない。ゆるりと男の体が傾くのを男自身も気づいておらず、ガシャンと具足の割れる音が響いてようやく目を見開いた。
(      )
その言葉を呟いたのか、それともそう思っただけか。男には判断する力は無かった。
薄く開いたままの乾いた唇に、草木の朝露が湿らす。男の少し離れた先には、小さな影が佇んでいた。