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スサ
2025-04-15 18:17:47
16303文字
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【鬼水】百夜通いする話
たぶんスパコミの新刊になります。百人一首×百夜通い、ただ百全部は書くのも見るのも大変なので十数首をピックアップします。
※適宜追加(4/27追加)
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四
暦の上では春となったが、現実にはまだまだ寒い日が続いている。だが、今日は昼に鶯の声を聞いた気もする。目白が梅の間を忙しく飛び回るのも見た。春は確かにすぐそこまで来ているのだ。
今日は何を持ってきてくれる気だろう。
水木は昨日までに鬼太郎が持ってきてくれた絵札を丁寧に並べながら、そんなことを考えていた。
「
…………
、いかん」
完全に楽しみにしている。
よろしくない。
水木は頭をぶんぶん振って、考えを頭から追い出した。
その日の鬼太郎の訪れは、それまでで一番早い時間だった。まだ暗くはなりきらず、空には宵の明星。ゆえに、雨戸も閉めていなかった。そろそろ閉めるかとは考えていたけれど
…
。
「こんばんは」
手に竹籠を持ち立つ鬼太郎は普段通りの格好で、つまり水木から見たら寒そうだった。本人は全く平気そうで、実際平気なのはわかっているのだが、それでもむき出しの膝小僧が寒々しい。
「
……
いらっしゃい」
何と答えたものか迷ったが、水木はそう答えた。
雨戸こそ開いているが、鬼太郎に縁側へ上がる気配はなかった。
「これを」
縁側に膝をつき、水木は竹籠を受け取る。中に入っていたのは綺麗な蕗の薹。
「おお、初物だ」
思わず顔をほころばせれば、鬼太郎もやわらかく目を細めた。
声は大体毎晩聞いているものの、顔を見るのは随分久しぶりのような気がした。
いや、最初に百夜通いを宣言された日から、まだひと月も経ってはいないのだけれど
…
。
「今ならまだ夕飯か晩酌に間に合うんじゃないかと思って」
鬼太郎は穏やかにそう言った。
水木の目は、籠に一緒に入れられた絵札を見ている。
君がため 春の野にい出て若菜摘む わが衣手に雪は降りつつ
若菜摘みは七草と関連付けられることも多いが、七草はとっくに過ぎた。しかし、若菜は七草だけを指すわけでない。食べられるような野草類の、春先に出てきたものは若菜と言って良い。春の草摘みといえば、のよもぎでも、摘むなら時期はもうあとひと月は先だろう。
「おまえが摘んできてくれたのか」
しゃがんだままなので鬼太郎の顔が近い。少し上目遣いに見つめて尋ねれば、それまで余裕そうに泰然としていた様子がわずかに揺らいだ。かわいい。水木の頭の中にそう浮かんだ。
「ありがとう」
「
…
春の、
…
旬のものですから」
あなたに食べてほしくて、と小さく続いた言葉に水木の口元はムズムズしてしまう。こんなことになっていなかったら、今頃きっとギュッと小さな体を抱きしめていただろう。
だがもうそれはできない。それをしてはいけない、水木もそう思う。鬼太郎の真剣な気持ちを軽んじることになってしまう。でも
…
。
「少しだけ待てるか」
「
……
?」
濡れ縁に上がろうとはせず立ち尽くす鬼太郎に、上がれとは言わない。それでも引き止めた。
「座っててくれ」
「
…
!」
「
……
そこはまだ家の中じゃないから」
「
……
わかってますよ」
鬼太郎は苦笑した。
「すぐだから。そこにいてくれ」
「はい」
水木は竹籠を持って慌てて台所へ急ぐ。蕗の薹を洗い、油を用意し、粉を卵と水で溶いて。
油に加熱する間、手早く握り飯を作る。具には昆布の佃煮。
油の音に聞き耳を立て、衣だけを少し撒くように。よしと頷き、からりと揚げていく。
「鬼太郎、もうすぐだから!」
縁側に向かい声をかければ、苦笑まじり「はい」と返ってくる。
蕗の薹を揚げるのに時間はかからない。形よく揚げられたことに満足し、水木は小皿に折った半紙を敷いた上に揚げたての蕗の薹を。
盆に天ぷら、握り飯、箸、それから
…
、迷ったけれどコップはふたつ。缶ビールを一本。
「おまたせ」
さすがに少し驚いた様子を見せた後、鬼太郎は苦笑した。困った人、と顔に書いてある。
子どもっぽく笑って縁側に座り込む水木が缶ビールを開ける音は、夕闇に軽やかに響いた。
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