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スサ
2025-04-15 18:17:47
16303文字
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【鬼水】百夜通いする話
たぶんスパコミの新刊になります。百人一首×百夜通い、ただ百全部は書くのも見るのも大変なので十数首をピックアップします。
※適宜追加(4/27追加)
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二
初天神を過ぎたとはいえ梅にはまだ少し早い。ただ、もしかしたら探せば割いている花も確かにあるのかもしれない。鶯の声はまだ聞かない気がするけれど。
「
……
」
水木は微かな梅の香りに惹かれ、そっと雨戸を開けた。既にして空は白みはじめていた。
冬の夜は長い。しかし、冬至は年末に越して一月以上が経ち、徐々に日は伸びてきている。鬼太郎が訪う時間はただ夜としか決まっていないから、宵の口の時もあれば一番鶏が鳴くまであとわずかという時もある。水木は鬼太郎が来れば何となく目が覚めるのだが、時間帯によってはぐっすり寝入ってしまって起きない時もある。
もちろん、起きていたとして雨戸を開けて中に入れてやるかは
…
まだ決めていない。今のところ許すつもりはないけれど、寒いから中に入りなさいと言いそうにはなる。春までもつか水木自身自信がない。
その晩の鬼太郎はどうやらかなり遅い時間に訪れたようで、水木は胸が痛んだ。開けてやる、応えてやるつもりもないのに
…
そう思うと余計に心苦しくもなる。
濡れ縁に置かれていたのは、今日も百人一首の絵札、そして、咲き初めの梅の枝だ。咲いているのはひとつだけ、けれども真珠のような白く丸い蕾が愛らしい。ちゃんと水にさしておけば残りの蕾もきっと花を咲かせるだろう。
「
…
花の色は、」
まだ桜にはさすがに早い。梅よりなお。しかしもしかしたら、桜が咲いていても鬼太郎は桜を選ばなかったかもしれない。
花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに
梅の枝をそっと持ち上げ、花瓶を探す間、一番きれいなコップに水を入れ仮宿とする。
鬼太郎が最初の晩に持ってきた綿入れに包まれた腕を組みながら水木は目を伏せる。
美貌を謳われた小野小町が、美しく咲き誇った後色を失っていく桜に我が身を、自身のかつて褒めそやされた容色の衰えを重ねて詠ったとされる。
水木もかつて、その見目の良さをもてはやされたことがあった。自分ではそんなものかと思ったくらいだが、さすがにあからさまな好待遇を受けることなどがあれば理解もする。紆余曲折あり化生に近づいた身はほとんど年を取っていないが、それでもやはり加齢を感じることは増えた。
だからどうしたということはない。面の皮一枚の話だ。しかし
…
とちらりと思うのは、たぶん鬼太郎はこの顔も好きなのではないかと感じることがあるから。幼い頃、あの子は熱心に水木の顔を見ては、「みじゅはきらきら」とか何とか言っていて
…
。
ごほん、と誰がいるわけでもないのに水木は咳払いをした。
「
……………
」
男だから、年をとって相応の顔つきになり貫禄が出るのはむしろありがたい。童顔で得をすることはあまりない。
水木は口元を抑え、はあ、とため息をついた。
…
桜を探さなかったことに、もし、意味があるとしたら。
河津桜のように、場所や品種によってはもう咲いている桜もある。そんなものを探すことは鬼太郎には、幽霊族には難しいことではない気がする。
水木は赤くなった顔をとうとう両手で覆った。桜には潔さや儚さの印象がつきまとう。だが梅はどうだ。梅の別名は春告草。まだ寒さ厳しい中一足早く春の訪れを告げる花だ。むなしく時を過ごしてしまったと嘆く歌とは真逆の意味を持つのではないだろうか。ということは
…
。
──この調子で、俺はあの子をきちんと拒めるのか?
まだたった九日だ。水木はだいぶ自信がなくなってきていた。育てた子だとかそんなことどうでもよく、その手をとってしまいたくなる。
いかんいかんと首を振り、水木はあくびをかみ殺しながらヤカンを火にかけた。熱いお茶でも飲んで目を覚まそうと思って。
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