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スサ
2025-04-15 18:17:47
16303文字
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【鬼水】百夜通いする話
たぶんスパコミの新刊になります。百人一首×百夜通い、ただ百全部は書くのも見るのも大変なので十数首をピックアップします。
※適宜追加(4/27追加)
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9
三
毎日ちょっとした贈り物、花や、細々とした日用品だったりを揃えるのは大変だろうに、鬼太郎は宣言通り毎日律儀に何かを用意して来てくれた。
元よりこの世で一等大切な子なのだ。そこまでされて絆されないのは難しい。ただ、絆されるのでは、ここまでしてくれていることに対し少し申し訳なくも思うようになってきた。真剣に、きちんと考えなくてはと。
それはそれとして、毎日鬼太郎が何を用意してくれるかが楽しみになっているのも事実だった。水木の日常は、今、よく言えば穏やか、悪く言えば単調で面白みがない。毎日何かが起こる、というのは、それは日々の彩りとしてこの上ない。
カタン、という音で、うつらうつらしていた頭をはっと上げる。
「鬼太郎?」
声をかければ、はい、と返事がある。無意識に雨戸に近づく。
「開けてくれる気になってくれましたか?」
笑いを含んだ声はからかうようで、まだ開けられない水木をわかっているようだった。そう思うと、なんだか小憎らしくもある。すっかり大人になってしまったようで。
「
…
毎日、大変じゃないのか」
つまらないことを言った。口を開きながら、水木は自分でそう思った。しかし。
「いえ、ちっとも」
澄ました声。
やせ我慢なのか、本当に大変ではないのか。声だけではにわかに判断がつかない。
「
………
そうなのか?」
疑い深いと言われるかもと思ったがそんなことはなかった。
「はい。だって、毎日あなたに会いに来られるじゃないですか」
「
……………
」
顔も見せていないのに?
と思ったが、それなら水木が雨戸を開ければ済む話。何も言えなくて黙り込んだのを、鬼太郎は少し笑ったようだった。
「本当ですよ。起きてる時は声かけてくれるじゃないですか。それだけで嬉しいです」
「
……
っ」
かなり心苦しく思えてきた。雨戸に水木の手がかかる。もう、開けてしまおうか
……
。
「ゆっくり、ちゃんと考えてください」
まるでその動きが見えていて、その上で止めているように聞こえた。水木はぽかんとする。
「
……
うん
…
」
かた、と濡れ縁に何かが置かれたのがわかった。何か固さのあるものなのだろうか?
「それじゃ、また明日」
笑いを含んだ軽やかな声に、うん、と生返事をして水木はしばし廊下に座り込んだ。
顔が、じわじわと熱い。
「
……
誰に似たんだ
…
?」
無理強いせず、紳士的に、贈り物をしながら健気にただひたすらに待つ。その一途さ、ひたむきさは誰に
…
。
顔を両手で覆って、水木は長く息を吐いた。鬼太郎が去った気配を感じながら、雨戸をそっと開ける。
今日の絵札と、
…
「なんだ
……
、
…
蝦蟇の油
…
、
…
あ」
水木は大きな目を見開いた。そうだ。今日は、十三番夜目
…
。
筑波嶺の峰より落つる男女川
恋ぞつもりて 淵となりぬる
高い峰で落ちた雫がやがて川となり淵を作るように、淡い、ほのかな慕情は今や大きく、深い恋情となった
…
。
口も聞けない、歩けないうちからあの子を育てた。今はもう水木の許を巣立ってしまったけれど、それでも短くない時を一緒に過ごした。その間に恋心をつのらせたのだ
…
と言われているようで、くすぐったくも照れくさい。
そしておそらく。それだけではなくて
…
。
こうして毎夜通うことで、水木の気持ちがはっきりとした追いつくことを待っているような。
「
………………
」
水木は両手で顔を覆った。赤くなっている自覚がある。
しばらくそうして悶えていたが、ようやく手を離すと、一緒に置いていかれた蝦蟇の油を見、くすりと笑う。
「
……
一枚が二枚、二枚が四枚
…
」
昔、鬼太郎が小さかった頃の話だ。近所の人が筑波山に行ったと、土産に蝦蟇の油をくれた。その時、蝦蟇の油売りの口上を目玉のおやじが実になめらかに述べたのを、小さかったあの子はいたく気に入って、水木も度々やらされた。
きゃらきゃらと無邪気に笑う幼子の声が耳に蘇る。
…
でも、まさか。
歌の意味を考えたら、まさかその頃にはもうそうだったというのだろうか?
水木は頭を抑えた。おしゃべりを始めた頃ではなかっただろうか、と。
……
もしも、いえ、母の腹の中にいる時からです、なんて鬼太郎が言おうものなら、水木はひっくり返ってしまうかもしれない。
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