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スサ
2025-04-15 18:17:47
16303文字
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【鬼水】百夜通いする話
たぶんスパコミの新刊になります。百人一首×百夜通い、ただ百全部は書くのも見るのも大変なので十数首をピックアップします。
※適宜追加(4/27追加)
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一
カタン、と微かな音がして目を覚ました。
雨戸の向こう、確かに。水木は、布団を抜け出し、廊下に立つ。雨戸に手をかけた時、まるでそれが見えていたように声がかけられた。
「僕に答えてくれる気になったなら、開けて」
水木の手はぴたりと止まった。幾分寝ぼけていた頭がスッと晴れていく。
「
……
いいのか? そんなことを言って」
く、と笑みを含ませる。
「不意打ちで開けさせられるのは今日だけだったかもしれないのに」
言えば、雨戸の向こうでかすかに笑った気配があった。
「あなたは卑怯な男は嫌いでしょう」
「
………………
」
朗らかな声には余裕さえ感じて、顔を見ず、声だけ聞いていると普段認識しているよりずいぶん大人びた印象を受けた。水木は戸惑う。どうしても見た目があまり変わらないから、今までそんな風に思ったことがなかった。
「また来ます」
「え
…
」
思わず声が出た。今にも雨戸を開けてしまいそうになる。
「おやすみなさい」
「
………
ああ。おやすみ」
結局雨戸に手をかけたまま、水木は鬼太郎の気配が完全に遠ざかるまで動けなかった。
寝室に戻ることもできず、十分な時間が経ってから、結局雨戸を開けた。何となく気になったからだ。
「
……
あ」
濡れ縁に何かが落ちて──置かれていた。瞬きの後、水木はそれを慎重に拾う。
「
…
秋の、
…
」
青みがかった瞳がキラリと夜に光り、瞬いた。
百人一首の絵札がそこにはあった。そして、よく見れば絵札の横には風呂敷包みが置いてある。
一月の寒さが水木の肩を震わせる。慌てて絵札と風呂敷包みを抱えて家中に入り、雨戸を閉める。
廊下にしゃがみ込み、水木は風呂敷を開けた。そして再び目を瞠る。
「
………
」
いつ作ったのだろう。買ったとは思えない。風呂敷に包まれていたのは綿入りの半纏だった。
きゅ、と抱きしめた後、水木はすぐ羽織ろうとして、その前に指で半纏に名前を書いた。
新品を下ろすなら朝、どうしても夜に下ろすなら名前を書くように。迷信だが、水木もそうしてきた。
「
………
」
満を持して袖を通す。それはじんわりと温かかった。
きゅ、と着たまま抱きしめて、水木は絵札をあらためて見た。
秋の田の仮庵の庵の苫をあらみ わが衣手は露に濡れつつ
百人一首の第一番、天智天皇。
田の仮庵でしんしんと夜露に濡れる様は、森に暮らす鬼太郎達のことを思わせたし、同時に、半纏を置いていったのも歌にかけてのことなのだろうとなんとなし思った。
露に濡れつつ、ゆえに、濡れないよう、冷やさぬようにとの意をこめているのではないだろうかと
…
。
「
………
ふん」
水木は自分でも顔が赤くなっているのを感じながら、今度こそ寝室へ引っ込んだ。
綿入れに包まれたまま。
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