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akinoshiroihana
2025-04-14 21:32:47
13014文字
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名刺置き場3
2023手術入院ひまつぶしゲッター
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●リョハヤはソーダアイス二人でお食べよ、からのナニカ
この時代はヘクトパスカルじゃなくミリバール、隼人が着てるのはGの地虫鬼くん胡蝶さん回のあのなんかパジャマ感あったアレです
麓から出るバスを待って買ってきたのだという、ドライアイスもなしに
来客の手土産のパイントアイスは早乙女家の今もってささやかな冷蔵庫を圧倒した。(2ドア式冷蔵庫が完全な主流になるにはもう数年を要する)
「皆さんにも」と渡されたアイスキャンディに至っては、「これもバニラだから」と情をかけられたホームランバーがなんとか入った以外は「きみたち戴きなさい」とさほど食欲旺盛でもない職員たちが、唇を青紫にして震えながら頂戴することとなるのを配布担当になった竜馬は気の毒な目でながめた。
だいたいあの「ホームランバー」は一本十円也で、こっちのソーダアイス三十円也の方がぜんぜん高いんだけどなあ、この南の海みたいな、いかにも人工色素を使ってますっていう色のせいか、そうなんだろうな、などと考えつつ彼は、まだ「犠牲者」が残ってはいないかと、不本意ながら氷菓の袋を提げて研究所の庭を横切った、十一時を告げる柱時計が鳴った。
「あッくそ、ここはよく響くなあ」
不意に足元で上がった声にぎょっとすれば、隼人が日陰になった池の縁に腰掛けている、夏の盛りに伸びた蓮の葉の影になりかけていた格好だった。
「なんだいお使いかいリョウさんは」
今朝の四時台に開花した花は、夏の苛烈な日差しの下ゆるゆるとはなびらを閉じていくところだという。
「暑いしうるさいしで今日はもうお休みだってよ」
盛大に鳴き競うような、厨房の立ち上る炎で何か炒めてでもいるような蝉の声に、大きなハチやアブの羽音、虫嫌いなら美しさを理解しにくいかもしれないジャコウアゲハの黒とオレンジのまだらの胴体が黒い羽のひらめくあいだに見える、気がつけば二人そんなものに囲まれているのに竜馬も気付いた。
俺も眠いや
デカい音は目からも入って来ちまう、部活の練習の最初の曲みたいにさ、ダイレクトに脳味噌をきらきらじゃんじゃんした響きでやられる感じで。と小さく欠伸を噛み殺すのは、いつもと違ってその格好では外出しにくそうな、いささか寝間着じみた夏服の隼人で、風通しの良さそうな生地のパンツの裾がひらひらとする膝を抱えた彼は、前の晩から南の海上の台風に紛れて恐竜帝国の何かが近付いてきてはいないかと窓辺に立っていた。テレビの気象情報は、もう少し高気圧のミリバール値まで言ってくれりゃあその後どう動いていくかわかりやすいってのに、など溜め息をついて。
「まだ昼前だぞ」
ほら、これで目を醒まそうぜ
言いつつ氷菓を取り出し袋の口を破ってみて、見慣れたそれには二本の棒が刺さっているのを思い出す。家庭では兄弟が、部活の後では親しい仲間が仲良く二つに割って齧る菓子だった。この孤高を気取るではないが、自分の時間空間を大事にしたがるタイプには理解はできても共感しにくそうなしろもの。
一寸のあいだにかなりの文字数での考え事をした後、竜馬は氷菓の二本の棒を自分で手に取った。
「分けるの下手くそかい」
「いや、麓からバスで上がってらしたらしくってさ、溶けてないけど氷が緩んじまってたんだな」
隼人は首をかしげ、ふうんとだけ返した
「次があったら研究所の冷凍庫に入れさせてもらいなよ、骨格標本にする前のトカゲ野郎の死体が入ってやがるし、設定温度が低すぎてガチガチになっちまうだろうけど」
言いつつ竜馬の片方の手首を白い指が掬い
「おい」
L字形になっていた氷菓の不恰好な出っ張り部分をさくりと啄んだ。噛み切る振動がかすかに来た。
「あ」
「これだけでいいや、ごちそうさん」
手がベタベタになりそうだからさ、それにやっぱり一回ベッドが恋しい。
おやすみ、あとでな
いつもよりよく空気を纏ってふわりとオオミズアオ
―
——
夜の淡翠の羽色をしている隼人の弁であれば、もしくはうだるような太陽の下の氷菓の色ならばしかたないかなと思ってしまうのは甘やかしているのか、いやいや暑さで自分の頭が少々ピント外れになっているのか、と竜馬は思う。思いつつ手の中に残されたソーダアイスが溶けてしまわないうちにと口に運んだ。あれっ、隼人のやつが齧りかけたのはどっちだったっけと真顔で気付くことになるのはその二分程あと。今の彼は仲間の腰掛けていたあたりの光る水際を見る。
蓮は、睡蓮は夜明けとともに清浄な朝の空気の中花開き、日の高くなる前に眠るように閉じてしまう。咲いたきりになるのはこれきりで枯れると決まった日だけだと聞いたとおもう。ならばとじればいい、ねむればいい、隼人が恋しいものの所に行くけれどまた後でと言ったのだからそれがいい。
『楽しからずや』
戦いの合間、受業で読んだそんな詩文をふと口にしてみて、その座りのよさに竜馬は笑った、
ビニール袋の中の残りのアイスがそろそろ大変なことに気付くまではもうあと数十秒。
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