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小包とは呼び難い故郷からの荷物を前に
時節の挨拶から始まる達筆な便りは正直見慣れた肉親でも難渋させられたし、同封された万年筆の手紙は慌ただしさにかそれ以外の水分にかインクが滲んでいる所もあるのに竜馬はふうと息を吐き出した。
時代は宅配便が年末年始は荷物を受け付けない90年代初頭さえまだ遠く、箱の中おが屑に埋もれたそれは、両親が運営する学園の今年の収穫物だった。なるほどこういうものでもなければ送るに日持ちもしない、しかしこれを消費する
———料理してもらうのがなかなか一仕事なのを最近ようやく彼は知ったところだった。故郷では立ち入ることからしてなかった厨房からの、明るく助けを求めた声だとか、鼻をうごめかして嬉し気にその部屋を覗き込む武蔵とかのおかげで。包丁が刺さったきり進退窮まった南瓜退治に呼ばれた隼人がそれを寸断し粗い皮を削ぎワタを掻き出した後「変なとこにマメができちまった」と白い手をさすりさすりしていたのを見たおかげで。
加えて言うならば、むこう一両日は、早乙女家に女手が無かった
急な親族危篤の報に続き葬儀とその手伝いに夫人とミチルが出て行けば翌日の夕辺ガス式炊飯器は爆発したし飯盒で炊いた米飯は美味だったがその後片付けに人々は無口になり、隼人はさっさと軽井沢の別荘の管理人に電話して部屋を開けさせた。三人のうち誰が一人出動時に備えて残るか決める段になり、竜馬は言った「なあにこちらは問題ない、明日香お姉さんには俺からもどうぞよろしくと」。馬鹿なやせ我慢だ、それでこうして、どうすれば食えるのかもわからない南瓜をひとり抱えて夕刻の橙色の隅にいる自分という男は、と。いつになくやるせなく寂しい竜馬だった、石のように重い深緑の実を抱いた腹がぐうと鳴いた。
「なんだい、こっちもカボチャかよ」
部屋の蛍光灯が不意に白々と灯り、窓の外の夕暮れは一気に闇に転じる。猫のようにほとんど足音を立てない隼人の背後での暖色の灯りも点き、廊下をどかどかとやってくる武蔵の足音と「かぼちゃだってえ?」との声があった
麓は教会に来る人たちがお盆みたいなのの時節でカブやらカボチャの祭りだよ、あんまりそれ尽くしだから早めに切り上げて来ちまった。そう言う彼の提げた籠の中身はカボチャのプリンにサラダに煮物、ジャムの大びんにいっぱいのパンプキンスプレッドと、焼き立てのパンに作りたてのバター
「よかった、帰って来てくれて本当に良かった。」
家から火が消えたようで心細かったんだ、俺としたことがと思わず言えば、おいおい、そういうのはミチルさん達が帰って来たら言えよ、と隼人は腕の中から逃げ出そうとした
「こんどはかぼちゃ団子にしようぜ、北海道で作るやつがあるんだ」
武蔵はまだ南瓜尽くしに飽きていないようだった
*
これは玩具カボチャっていう小さな品種なんだけどよ、こうやって提灯だか灯篭にもするんだとさ、子供さんだけじゃ作れねえだろ、作って送ってやったらどうだい菓子でも詰めて
俺の来月の小遣いが今から吹き飛ぶ
あーポン菓子かなんか下の街でさがそうぜ、おいらも自分の分買ってくんの忘れた
そんな語らいと、おっかなびっくり足を踏み入れた厨房と秋の晩餐、
うわぁなんだこれゲッター2のドリルよりエグそうなこれなんに使うんだ、スープ用のミキサーの刃だろなどひとしきり騒いで、その後
「さて、おばさん達に怒られないようにしないとな」
「ああ、男の料理ってのは後片付けまで自分の仕事だって思ってないのが最悪なんだろ?」
言ってみてからうん、はて、と隼人は首を捻る。なぜ自分がそんな法則を知っているのだろう、ありえないはずだ、生まれてこの方、彼の育った家で、そんな不器用で片手落ちな愛をパートナーの女性に向ける誰かがいたなんてことは
「隼人?」
「いや、なんでもねえよありえねえ」
そう言いかき上げた髪にはコーヒーの残り香がしたまま彼はベッドに入るのだろうか、此処とは違う石鹸シャンプーの香りがいつしか覚えた肌の匂いと溶け合っているのだろうかと、ただそれだけを何の邪心もなく思い、竜馬は夜の更けるのを待った
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