akinoshiroihana
2025-04-14 21:27:48
16099文字
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名刺置き場5




●新ゲにつきnot隼ミチですが。鬼百合②


「おい、火事になっちまうぞ」
そんなものがあったとさえ気付かなかった花瓶に活けられた花を指さしてからかえば、おあいにく様、彼岸花じゃないわよとだけ返って来た
「ええあるだろちょっと早く咲いて色もちげぇけどよ」
オレンジに桃色、それに山吹、『お華教えます』の札を提げた近所の老婆の家との付き合いが切れて何年になるかは忘れたが、何かの折にそんなとりどりの彼岸花が軒先に揺れていたのを覚えている
「それはリコリスか大陸種でしょ、お里が違うの」

鬼百合はすぐばらばらになって枯れるのが汚らしいから代わりに活けておけって、神くんが

そう言って、よく似た朱色の花を置いて行ったのだという

その朱色、どうも先程のつれなさの割にどうして、鬼娘的にはそれでまんざらでもないようだが、ぬっと顔を出した弁慶が言った
「なぁんだキツネノカミソリか」
あの狐は自分に似合いの花を知らず藪から摘んできただけ、かもしれない

一体何の冗談か。花言葉は「妖艶」
散る前に静かに色あせ気配を消して隠れてしまうのだという。




「心外だな」

『うわ軽っ』との評価に、毎度の過剰労働から不整脈を起こすも、自分で医務室までのストレッチャーを呼んだ男がしかし、眉根を寄せている。現在心拍が正常でないからその端正な顔は過去の大小すさまじい古傷が浮かび上がりさえして土気色なせいかといえば、そっちは知ったことではなく、現状、気の利いた若手の部下に抱え上げられ、つまりは「お姫様抱っこ」になっているのが気に入らないらしい。

「お前の事だから『冷蔵庫より重いか軽いか』ぐらいで判断しているだろう」
「あああれはね、対角線を意識すれば持ち上げんの楽だよな」
それにある程度協力態勢になってくれる相手だったら、女の子でも100kg越えの相手でも、ちょっとは動かせない事ないかな
神さんだって今咄嗟に俺に合わせてくれたじゃん……うわ、ぐんにゃりすんな、重くなった!と若者は悲鳴を上げる。

「全盛期の同僚にだって言われた覚えがないぞ」
むしろ針金体型の癖に重い、と驚かれさえした
「そりゃ神さんが抱っこいやがったんだろ、今みたいに」
脱力したにゃんこみたいに、と言い足した後で、そんな局面も発生するだけの闘いがあったのだろうと若者は思う。が、
「お前が今何を考えたかわかるぞ」
あいつにはこんな具合に手厚くはされてない、それに言われたのは二人して体育の授業で柔軟運動をしていた時だ
あの戦いの合間には浅間山の麓の高校に共にいっちょうまえに通いもしてな
腕の中、両手の指を組み合わせてすっかり大人しくなってしまった神隼人がノロケとはまるで自覚無しの、遠い日を慈しむノロケを吐くから、

一文字號は。天を仰いだ。



「神さんこんなのかぶるのかよ」

研究所にほど近い避暑地の別荘、そのクローゼットから帽子入れなんて馴染みのない物が出て来たから
ストローハットというには品の良い、黒い蝶結びのリボンをあしらった軽い帽子が出て来たから

「さあ知らんぞ、だいたいカンカン帽はその夏ごとに使い切れとか子供の頃さえ言われた気がする」

それを被って表通りの見物に出ようかと、わくわくしている號から帽子を取り上げ彼はふん、と考えた。そのあと

「ああ、この頭のデカさは竜二だ、従兄のだよ、夏前に死んだ」

號にもちょうどよかった帽子に対して、その御立派で優秀な頭は明らかに小さかった
その「誰か」の存在ごと帽子を脱ぎ號の頭に返し、行くか、とキーを手にするその面差しに、聞いてほしいことは無いのだと、なのにうっかり口にしたとは書かれているのが、もっと雑なつくりの麦わら帽子をかぶった時みたいにイガイガする、と號は思った



ぶっ千切ってくんのもなんだったからさ
ネーサーで飼っている犬の散歩当番だった號が、そんな事を言って雨の中帰ってきた、幾分泥に汚れて
貴様それを何に使ったというスコップで、貴様それを何に使うつもりだったというレジ袋に、土ごと掘り起こしてきたそれは、ただでさえ日の出の遅くなった朝、場違いなばかりの黄金色で見る者の目を刺した。
「どう、元気出そう?」
徹夜明けの目覚ましのシャワーから戻って、同じく髪からしずくを滴らせている男のデスクに、ビニールポットに植え替えたそれをどんと置いてやれば
「鍾馗蘭か、悪くないな」
コーヒーの湯気の向こうそんな応えがあった

見たところ彼岸花だがこいつは咲く時期がだいぶ違ってな、
あの世との通い路が開く前閉じた後にも咲いているんだ、生きぎたない私にはいいかもしれん、だから

かたときも忘れはしないが、まだそちらには行ってやれない
それにこちらにはいまこいつがいてくれる
とても懐かしいが寂しくはないよ


金色に濡れた花弁をひと撫でして、男は誰かにそう囁いた


月がとっても青いから、
遠回りして帰ろうか?
けざやかにふりそそぐ透明な青が、胸のかざり毛から尻尾まで全身染め上げふわふわにふくらませて、口の端からはにょっきり牙も顔を出す
よくできたコスプレねと囁き交わす声がするけど、実は違うんだなあと胸の内でだけ呟く。でも、そんなわけでうずうずするから
遠回りして帰ろうよ

月があんなに潤むから
やっぱり早く帰ろうか?
鏡に映らぬこの人は、自分のお顔も忘れて幾歳。触れれば枯らす薔薇の蕾も気安く帽子に飾るから
イケメンぶりにぽぅっとする衆目、何かに気付いてしまう前、このわくわくがはらはらになる前に、お菓子をベッドにぶちまけに
夜の塒に帰ろうよ