マエバ・セイボスキー
2025-03-05 00:16:28
30655文字
Public パーバソ
 

海に似ている

人魚姫パロです。
なんのひねりもなく、ストレートに人魚姫パロのパーバソです。
領主のパと人魚のバソ。海の魔女役をテ神にしてますが、カップリングはパーバソだけです。
※ただし、デイテス生産工場で作られています
※喫煙表現があります
※盲目のパの描写があります
※設定は完全にいつかのどこかの、なので深く考えないでください

加筆修正して素敵な表紙をつけて本にしました。よろしければ。
https://ecs.toranoana.jp/joshi/ec/item/040031242019



パーシヴァルはずっと独りであった。
もう幾度の生を越えたかわからない。探し続け、求め続け、独り、生きてきた。
ただ一つの宝を探し求め、あるときは山を越え、あるときは谷に住み、海を渡り、まるで旅をするように。
家族はあった、友もいた、財産や見目にも恵まれていた。目は、ずっと見えなかった。
けれどももはや、それはパーシヴァルにとっては日常のひとつで、どんな医師でも治せないことはわかりきってきたので、常に耳を澄ましていた。
彼の歌が聞こえないかと。
彼の声を、パーシヴァルはしらない。それでいて、聞いたら必ずわかるだろう確信もあった。
不思議と、不安はなかった。
いつかはわからない。けれど必ず、探している宝を手にするのだ、という確信が、パーシヴァルにはあったのだ。
パーシヴァルは、今、イギリスの片隅に居を構えていた。
家が代々治めていた領地だ。今では領主などと呼ばれることもそうないが、それでも年寄りたちの中には、そう呼びかけるものもいる。
ここのマスターもその一人だ。まだそんなに年ではないくせに、先代のクセがうつってしまったらしい。
この穏やかな田舎町にある、たった一軒の小さなパブで、パーシヴァルは時折ピアノを弾いていた。
城にはもっと良いピアノがあるだろうとマスターは言うのだけれど、パーシヴァルはこの店が好きなのだ。
気の良い店主はパーシヴァルの好きにさせてくれる。一杯の酒で閉店までいさせてくれるのだから気前が良い。
この店の温かさが落ち着く。
今のパーシヴァルには見えないけれど、きっと時に磨かれつやつやとした木に囲まれた、オレンジ色の明かりの雰囲気の良い店に違いない。
彼はきっと、こういった店が好きだ。
格式張った店よりも、酒があり人と音楽のある店が、海の男達が集うような、そんな。
グラスを置いて、ピアノの前に腰掛ける。
慣れたものだ。見えなくたって、難なく出来る。
パーシヴァルが座ると、店主が小さく口笛を吹いた。
すっと息を吸い、鍵盤を撫でる。
思い出す、あの、夜。
窓から注いだ星空が、カーペットのように床に伸びていた。
海風がカーテンを揺らし、彼のタップの音が軽やかに響いた。
白い寝間着の裾が波のように翻り、しなやかに伸びる手足や夜凪のような髪があまりにもうつくしくて、夢のような時間だった。
その光景はいまでも瞼の裏に焼き付いて、古い映画のように、なんどでも蘇った。
そのたびに確かめる、いまでも、かわることなく、パーシヴァルは『愛』を探し求めているのだと。
そうして、パーシヴァルは今夜も独り、ピアノを弾く。
いつか見つけ出す、己の愛を信じて。

「ああ、懐かしいな」
声がした。
男の声。
ほんの少し高めの、穏やかな声だ。
パーシヴァルは、顔を上げた。
……古い、とても古い曲です」
最後の鍵をたたき、ゆっくりとふりかえる。
「この曲を、ご存じですか」
パーシヴァルには、なにも見えない。
けれど、そこに立っている。
顔を上げ、彼がいるであろう辺りに向かって笑い掛ける。
「私の、最愛の人が歌っていた歌です」
立ち上がり、手を伸ばす。
その手は、やわらかな温度に辿り着く。
潮風の香りがした。
海を舐めた風の香り。
浜辺に並ぶ松と、焼けた砂の乾いたにおい。
「君の、愛」
「ええ、私の、愛、私の運命」
「あ、ああ!きみっ」
パーシヴァルは瞼を下ろした。
大きく息を吸う。
胸が膨らむ。
鼓動を感じる。
掴まれた腕が熱い。
細く、息を吐いた。
「私の全て、バーソロミュー」
目を開ける。
そこには、パーシヴァルの愛が、立っている。
「やっと、みつけた」
彼は、深い海の色をした瞳を目一杯にひらいて、唇を震わせていた。
「貴方をずっと、探していた」
腕を掴む指が震えている。
パーシヴァルはそっとその手を覆った。
「バーソロミュー」
パーシヴァルは、愛を取り戻したのだ。
追い求めた、その人は今、目の前にいる。愛おしい姿をして。
「抱きしめても、良いだろうか」
「っ」
震えるその人は、涙を堪え頷く。
パーシヴァルはありがとうと囁いて、その人を抱いた。
かつて、一度も出来なかったことだ。
そうすべきだったのに、そうしなかった。そして失ってしまった。
追い求めた。
途方もない年月を。
やっと見つけたパーシヴァルの愛は今、腕の中にいる。
パーシヴァルの胸に去来するのは、安堵と充足。やっと、そうあるべき形になったのだという、満足感。
失った半身を、やっと、取り戻した。
パーシヴァルはひとりでだって生きていける。それはバーソロミューも同じだ。だからこそ、かつては別離を選んだ。
けれども、そうではない。パーシヴァルは、彼が欲しい。彼に、隣にいてほしい。
「バーソロミュー」
「うん?」
「君の声は美しいね」
やっぱり、あの歌声は彼のものだった。
パーシヴァルは、貴方の声が好きだと、愛しい身体を強く抱いた。