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マエバ・セイボスキー
2025-03-05 00:16:28
30655文字
Public
パーバソ
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海に似ている
人魚姫パロです。
なんのひねりもなく、ストレートに人魚姫パロのパーバソです。
領主のパと人魚のバソ。海の魔女役をテ神にしてますが、カップリングはパーバソだけです。
※ただし、デイテス生産工場で作られています
※喫煙表現があります
※盲目のパの描写があります
※設定は完全にいつかのどこかの、なので深く考えないでください
加筆修正して素敵な表紙をつけて本にしました。よろしければ。
https://ecs.toranoana.jp/joshi/ec/item/040031242019
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パーシヴァルがベッドから起き上がることができるようになったのは、窓に雪がちらつき始める頃だった。
誰もが、パーシヴァル本人ですら、もう回復する見込みはないと考えていた。
瀕死の大怪我を負って、城に担ぎ込まれたのは数ヶ月前のことだ。
長い間生死の境を彷徨い、執事たちは毎日医師から今日が峠だと覚悟を促され続けた。
ずっと意識は朦朧とし、高い熱が出続け、苦しかったこと以外に記憶はあまりない。
その、パーシヴァルの長い長い夜があけたのは、帰城してからゆうにひと月はたった後だった。
その後もベッドを降りることは出来ず、そこから更に一月はベッドの上、起き上がって歩けるようになるには、半年近くが経っていた。
けれども、それだって驚異的な出来事だった。
誰もが城主の死を覚悟した。現実的な意味では、執事は弁護士に連絡を取っていたし、遺言の確認をしていた。
継ぐべき実子がいない状況で、継承権は争いのもとである。
けれど、結局は、パーシヴァルはこうしてベッドに腰かけ窓の外を眺めている。
気を揉み続けた執事は白髪が増えたけれど、主のその姿に涙を流し安堵していた。
今、パーシヴァルの心のなかにあるのは、一度ならず二度までもどうして生き残ることができたのかという疑問。
そして、居るべき人の居ない、空虚。
「彼は、どこへ」
城の者達には、きっと彼を悪くしないようにと言い聞かせて出立したのだ。
彼らが、バーソロミューを蔑ろにするとは思えなかった。
もしも城に留まっていなくとも、きっとよく支度させて見送るはずだと。
それが、だれに聞いても、彼はいないとしか答えない。
確かに、そんな男が城にいたということは皆の記憶にはあった。
けれど、あんなにあの美しいひとに夢中になっていた彼らはだれもが、ぼんやりとしか覚えていないのだ。
そういえば、いつのまにかいなかったのだ、と。そればかりだ。
パーシヴァルは、動けるようになったらまっさきに探しに行かなくてはと思っていた。
もしかすると、最初彼をここにつれてきた船の人間が、彼を攫っていったのかも知れない。
もしそうならば、どんな手を使ってでも取り戻さなくては。
パーシヴァルは、鈍った身体の訓練だからと言い、毎日日が暮れるまで彼を探して歩いた。けれど、どこにも、彼の足跡はない。
パーシヴァルがかろうじて、その存在が幻ではなかったと信じられたのが彼が使っていた碧の間だ。
海の中にいるような美しい天井の下、天蓋の大きなベッドの下には、パーシヴァルには小さな室内履きがきちんと揃えておいてあった。
クローゼットの中にも、パーシヴァルには小さく、そして選ばないようなデザインの服が数着、所在なげに仕舞われていた。
そして、窓際の小さなソファには、パーシヴァルが幼い頃呼んでいたアルファベットの本が、まるで落とし物のように残されていた。
主を失ってしまった、寂しげな小鳥のように。
彼は幻ではなく、確かにここにいた。
ここで、パーシヴァルと時を過ごしていた。
それは確かにあって、あの日、パーシヴァルがこの城に戻ってきた日、唇に、確かに触れたものがあった。
読む者をなくした本は、まるで迷子の風情だ。
ソファに腰掛け、その本を開く。
彼の拙いアルファベットが書かれた紙が挟まっていた。
A、B、C
……
彼のたどたどしい筆跡。そして、沢山のPが書かれた紙。
嬉しそうに何度も書いていた。
パーシヴァルの、P、だと。沢山のPの後には、いくつもの名前があった。
パーシヴァルのスペルは時々間違えて書かれている。
うぬぼれではない。彼は、彼の想いとともに、ここにいたのだ。
ぐしゃりと手の中でその紙が皺を寄せる。
それであれば、どうして
……
「!」
開け放した窓の外から、声がした。
歌声だ。
あの、歌。
夜の広間で、バーソロミューが軽やかに踊った。
パーシヴァルは駆けだした。
使用人達が驚くのも構わず、廊下を駆け外に飛び出す。
浜辺に出て、ぐるぐると辺りを見回すが、人影はない。
そんなはずはなかった。歌が聞こえる。
この声が、バーソロミューではないのも、以前聞こえていた声とも違うのはわかっていた。
けれど、見知らぬこの歌だけが今パーシヴァルとバーソロミューを繋ぐ唯一の手がかりだった。
もしかしたら、この声の持ち主は何かをしっているかもしれない。
細い細い糸を辿るように、パーシヴァルは浜辺を駆けた。
夜の浜辺に男が一人、歩いていた。
月色の長い髪を背中に垂らし、僧のように長い服を着ている。
足元までを覆う黒衣が、波に濡れるのも構わないようだった。
男の口元から、糸のような煙が黒い夜空に立ち上る。
「失礼、ミスター」
男は、足を止めた。
「すみません、その、その歌をどこで」
「
……
」
男はゆっくりと顔を上げた。その肩を、絹糸のような髪が滑る。
「どこの国の、いえ、その、なにか、ご存じであれば」
「
……
」
「謝礼であれば、お渡しできます、何かその歌について」
パーシヴァルは必死だった。
必死でなければ、唐突に謝礼の話をするなどという礼を失する言動をするはずがなかった。
疲れていたし、本当に一生懸命だったのだ。
「クックッ」
男は、にやりと口元を歪ませた。
「おいおい、随分とせっかちな王子様だ」
まるで、凍った泉のようだった。
それでいて脚を踏み入れたら二度と出てこられない沼の、ひんやりとした泥のような。
生き物の住めない水のような色をした瞳が、キンと澄んだ眼差しでパーシヴァルを捕らえる。
ゾッとして、背筋を冷たい汗が滴った。
戦場でも感じたことのない気配に、パーシヴァルの足がとまる。
「オマエの捜し物を知っている」
「!」
男の白い指先が、煙草を宙に弾いた。
「だが
……
」
それは空中でパチンと弾け、キラキラと輝いて海に散らばる星の一つになってしまった。
「オマエはもうソレを失っている」
「ど、どういう」
「フェアじゃないのは好かん。教えてやる。おとぎ話の、最初のページからな」
そうして、男は語りだした。
パーシヴァルが最初に奇跡の生還をしたあの夜から始まる、物語を。
それは、自分のまったくしらない場所で芽生え、そして花開く前に散ってしまった恋の話だった。
「オレはアイツの声を代償に脚をくれてやった、その結果あの男は見事にオマエという王子様を得たのさ」
「
……
えっええ、ですが、ならどうして」
「オマエを殺すなという」
「え
……
?」
「殺すなも何もオレが何かしたわけじゃあない、オマエがいい戦士だっただけだ。悪くなかったぜ。だが、あの哀れな魚は駄目だという」
男は、やれやれと首を振り、再び煙草を咥えた。
不思議なことに、男の細長い指先にぽっと火がともる。
「アイツとオマエの運命は、見事に重なり合った。思ってたよりしっかりな。これで安泰、オマエがあのまま死んだって、
オマエらは次に生まれ代わってもまた引き寄せ合うはずだった。そういう運命をあの男は奪い取って見せた。
だからオレは言ってやったよ、今死んだって次も一緒に居られるんだから少し待てってな」
男はそのひんやりとした外見からは思いがけない程にお喋りのようだった。
パーシヴァルに言葉を挟ませず、ぺらぺらと語り続ける。
「だが、許せないときた。オマエはこの国に必要だってな。誰もがオマエを愛してる、だから死なせたくない.........熱烈だねえ」
吸い込み、煙を吐き出す。あたりに靄がかかる。
「で、だ
……
差し出すってんなら対価をあたえなきゃならん、オレはそういう主義でね」
「
……
まさか」
「そのまさかだな、オマエを生かす代わりに、アイツは消えた。オマエの運命から。
さしだされた人魚の最後の涙はそりゃあいい品だ。アイツの命とこの真珠、オマエを助けるには充分だったわけだ。
オマエにはまあちょっと残念だったか?だがまあ今その立派な身体があるのはそのお陰ってわけだ。大事にしろよ」
「
……
」
男の指に摘まれた球体は月の光を跳ね返し、まるでそこに小さな月があるかのように美しい。
パーシヴァルは、ぎゅっと目をつむり、息を吐いた。
「
…
貴方は、フェアだと。そう仰いましたね」
「あん?」
「それでは、私の願いも叶えるのが筋ではないでしょうか」
「は?なんのために」
「彼と、私の運命だったのでしょう」
腹の奥底の方。
ぐらりと沸き上がったのは、怒り。
確かに、死にかけたのは自分だ。それを助けられたのも。
けれど、愛してしまった。
あの、声なく、けれど雄弁に、自分のとなりでころころと表情を変える、美しい人を。
それを勝手に奪っていった。
与えることも、施すことも、パーシヴァルにとっては苦では無い。
持つものを与える、それは当然の行為だ。
為政者として、持つ者として、責務であり義務である。
けれど、それと、ただひとつの宝を奪われることは別だ。
美しい、パーシヴァルの宝物。
パーシヴァルは、キッと視線を上げる。睨み付けるようにして、目の前の男を見つめた。
「返して頂こう。私の、愛を」
「おっと、言うねえ」
「私は何も知らされず、関与せず、一方的に奪われている。貴方のいう公平とはとても思えない。
で、あるならば、私にも機会が与えられるべきだ」
「ほう」
「たしかに、私は今、この地に必要な人間だ。それは正しい、彼の判断も利にかなっている。
けれども、それであっても、私は、私の愛を取り戻したい」
パーシヴァルは誠実で、穏やかで、紳士であろうと努めている。
けれども、その実、我が強く、頑固で、傲慢なほどの己の尺度を持っている。
それが、この展開を、このまま納得することなど出来ないと、そう言っていた。
「なるほど、わかった。返してやる、と言いたいところだが」
「代償かな?」
「それもあるが、正直なところ本当にどうしようもない」
「
……
」
「わかった、睨むな、オマエならオレを殺せそうだな
……
。
オマエとオレの相棒が取っ組み合うのを見たい気もするが、今は商談といこう。オレは嘘はいっていない。
返そうにももうこの世に『無い』んだよ、無いものは返せない」
男は再び煙草を放った。
放物線を描き、海面に星屑が散る。
「だが、この次ならまだ、可能性はある」
「
……
次?」
「そうだ、この世にはないが、魂は循環する。つまり、来世だ、生まれ変わり。あの魚はソレすら質に入れちまったが、オマエなら取り戻せるかもしれん。返すことは出来ないが、チャンスなら与えてやれる」
「とりもどす
……
」
「残念だが、この人生は孤独に耐えて生きろ、そして死ね。オマエの『愛』とやらが命がけで守った人生を全うしろ。
オマエ達は必ず生まれ代わる。次の時代に。どんな形かはわからんがな、探し出せ。そして、その手で取り戻せよ『愛』をな」
「どうやって」
「そんなもん知るかよ、オレはその機会をくれてやるだけだ。それには勿論代償がいる」
「何を渡せば良いんだ」
「そうだな
……
オマエの瞳を寄越せ。それでいい」
「瞳?」
「もちろん、今じゃない、今のオマエの身体はアイツの献身で補償されてる。次だ。
次の生、オマエは光を失うだろう。そして、愛を取り戻すとき、オマエは瞳も取り戻せる」
「
……
わかった、構わない」
パーシヴァルは頷いた。
今生で彼を取り戻せないことは恐らく、事実なのだろう。なら、パーシヴァルにできることはただ一つ。
どれだけ掛かろうと、愛を、バーソロミューを再びこの手にしてみせる。
きっと、探し出してみせる。
男は、喜色満面、顔を輝かせた。
波が引く。
かと思うと、激しく打ち寄せる。
「交渉成立だ!」
足元を攫うほどの大波も、二人の横にはまるで壁があるように弾けていく。
「コレは試練だ!光なく、頼りもなく、オマエは海の中にある一粒の真珠を探し出さなくてはならない」
波が男の足元を押し上げていく。
「だが、オマエ達ふたりして運命を弄ぼうってんだ、それくらいは仕方がねえな」
男の手の中で、真珠が輝いている。
「せいぜい見える人生を尊んで生きろ、暫くおさらばだぜ」
「あっ待ってくれ、彼は」
「じゃあな」
次の瞬間、パーシヴァルは独りで浜辺に立っていた。
波は穏やかにつま先を濡らし、空はしんと澄んでいる。
「
……
なんだったんだ」
今の出来事が真実かどうかなどわからない。
けれど、それがただひとつの希望として、パーシヴァルの胸に、小さな火をともしたのには間違いが無かった。
今のパーシヴァルに出来ることはただひとつ。
賢明に、この身で生きていくことだけだ。そしてもし、この次の人生というものがあるのならば。
「必ず、探し出すよ、私の愛、バーソロミュー」
彼の愛は、海に似て深く、広く、そして孤独だ。
ざん、と波が寄る。
パーシヴァルの脚を濡らす。
騎士の誓いはだれに届くこともなく、海の泡となって、消えていった。
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