マエバ・セイボスキー
2025-03-05 00:16:28
30655文字
Public パーバソ
 

海に似ている

人魚姫パロです。
なんのひねりもなく、ストレートに人魚姫パロのパーバソです。
領主のパと人魚のバソ。海の魔女役をテ神にしてますが、カップリングはパーバソだけです。
※ただし、デイテス生産工場で作られています
※喫煙表現があります
※盲目のパの描写があります
※設定は完全にいつかのどこかの、なので深く考えないでください

加筆修正して素敵な表紙をつけて本にしました。よろしければ。
https://ecs.toranoana.jp/joshi/ec/item/040031242019



バーソロミューは、海底からキラキラと輝く海面を眺めていた。
こんな夜は、こうして眺めていると色々なものが落ちてきて飽きないのだ。
水流も激しく渦巻くけれど、海底はまだそこまででもない。
バーソロミュー程の重さがあれば流されることもなく、軽いエンターテインメント程度だ。
海には、遊びがあまりにも少なく、バーソロミューは嵐の夜が好きだった。
夜空からおっこちてくるのは、稲妻の閃光だけではない。
破損した船の木片、人間が落とした何に使うのかも良くわからないツール、キラキラした綺麗なもの。
バーソロミューはいつだったかの嵐の日に落ちてきた十字の飾りを気に入って、ずっと首にさげている。
そして、時々は船の一部、場合によってはその全体も落ちてくる。その船から投げ出された人間たちも。
大抵、バーソロミューのいる辺りまで落ちてくる頃には人間は死んでいて、賢い鮫たちが美味しい夕ご飯にするのを眺めるだけだ。
けれど、人間はその内側に多くの血が含まれていて、水が濁るのは好きではなかった。汚いものはきらいだ。
今夜はまだ、船はなんとか水面にしがみついているようで、なにも落ちてこない。
ぐらぐらと左右に揺れる腹は、居眠りする鯨に似ていた。
(つまらないな)
バーソロミューは善人とは言いがたい、と自分では思っている。
他人(といっても別の種族ではあるが)の不幸を楽しみにしているのだから。
また海面が光った。
今日はよく雷が落ちる。
沖の方は良く降るけれど、この辺りはあまり光らないのだ。
どん、と船の腹が震えた。
おっと思って見ていると、船は先ほどよりも激しく揺れる。
わくわくしながら見ていたら落ちてきたのは、小さな生き物だった。
……こども、だ)
人間の子供だ。
人間の年齢なんてわからないけれど、あれくらいならきっと10歳やそこらだろう。
きっとそのまま落ちてきて、鮫のおやつになるのだ。
たった10年で。
……
バーソロミューが視線を彷徨わせたとき、もう一度、どん、と海面が揺れた。
見れば、今度は大人が降ってくる。それも、だいぶ大きい男だ。
男は、見た目に似合った大きさの気泡を上げながらどんどん落ちてくる。
よく見ると、男はしっかりと意識があるようだった。
目を開き、暗い海中で何かを探している。
(ああ、助けにきたのか)
すぐにわかった。
おそらく、今落ちてきた子供を助けに来たのだろう。
そして男は、暫くして子供をみつけることに成功した。
人間にしては随分長く潜っている。そろそろ限界なのではないだろうか。
男は、子供を抱えた。苦しげに眉を顰め、必死に海面を目指している。
海面近くは、激しく荒れているはずだ。
それでも男の長く逞しい腕が必死に水を掻き、両脚が水を踏みつけようと動いている。
バーソロミューの自慢の尾ひれであれば、あんな距離すぐについてしまうのに。
自分が彼を引っ張りあげたら、ああ苦しいと思った次の瞬間には大きく息を吸い込むことができるだろう。
バーソロミューは、無意識に唇を撫でた。
……
ぽこぽこと小さな気泡が男に向かって上がっていく。
そして男はついに、海面に顔を出した。
ここからはもう男の胸から下しか見ることが出来ない。
バーソロミューは、じたばたしている男の身体をじっと見上げていた。
あれは人間にしては荒れる海を立派に泳いでいるのだろう。
バーソロミューからしたらまったく『じたばた』としか表現できない動きだが。
しばらくすると、ぐらぐらゆれていた大きな船腹の横に、小さな腹がとぽんと顔をだす。
それはよちよちと男に近づいていった。
救助の船だろう。
あまりにも小さいので、二人ともそこにのることができるのだろうかと疑問がわく。
男は、抱えていた子供を押しあげた。するすると、子供の身体が海中から消えていく。
バーソロミューはぽこりと気泡をこぼした。
次は男が船に乗り込む番だ。
本当にのれるのだろうか。
小さな船はどうにもあぶなっかしくみえる。
岩に両肘をついて見物していたバーソロミューは、いつの間にかそこにのりあげるようにして救出劇を見物していた。
……
男の横に止まっていた小さな船の腹はそのまま、離れていった。
男の身体はまだ、半分水の中だ。
バーソロミューは驚いた。
(見捨てたのか)
どぽん、と再び男の身体が沈む。
男の命が泡となって、海上に向かって行く。
男は、子供を助け、代わりに、海に還ろうとしている。
……!」
バーソロミューは善人ではない。
利がないどころか、リスクしかない行為をするような性格ではないのだ。
けれどもしかしたら、男の一部が泡となって伝染したのかもしれない。
バーソロミューは舌打ちをした。
びゅっと砂が巻き上がる。長い尾びれが海底を打つ。
男はきらきらと気泡に包まれながら落ちてくる。
その身体を、攫うようにして捕まえた。
人間って勢いよくもちあげたら死ぬんだっけ?とどこかで聞きかじった知識が頭を掠めたけれど、
まあこのまま海底で死ぬか砂の上で死ぬかの違いだ。どっちにしても死ぬのなら、鮫の朝ご飯になるよりはましだろう。
(重っ)
それにしても重たい。
こんな重さをあの頼りない水かきだけで持ち上げていたのだとすれば、人間にしては相当に頑張ったのだろう。
確かに重たいが、バーソロミューにとっては運べない程ではない。ふたりは、あっという間に海上に顔をだした。
いつの間にやら嵐は去っていたらしい。海面が、思いがけず凪いでいる。
男の身体を抱え直し、そのまま浜に向かって泳いだ。
船に上げる力は流石にない。
浜に着く頃には、海面に、太陽の橋がかかりはじめていた。
水上にでると、途端に男の重さが抱えきれないほどになる。
放り投げるようにして、男を浜に上げた。濡れた砂が男の顔に跳ねている。
男の身体は波打ち際までしか届かなかった。寄せる波が、ざあざあと彼の身体を洗っている。
足先が、海藻のようにゆれていた。このままではまた波に攫われるのは時間の問題だ。
仕方が無いので、這いずっていってなんとか砂が固まっているあたりまで運んでやった。
重たい。
ここで良いだろうというところまで辿り着く頃には、バーソロミューははあはあと胸を喘がせていた。
とんだ重労働である。
どて、と男の横に倒れ込む。
こんな所を誰かに見られたら大変だが、まだ陽ものぼりきっていないし、あたりには船も人影もない。
息を整え、ぐっと上半身を持ちあげた。
さっさと帰った方がよいだろうが、折角だ、助けた男の顔くらい拝んでおこうと視線をおろす。
男の顔には髪と砂がはりついていた。
どきっと心臓が跳ねる。
目が隠れている。
……
その内側には、いったいどんな瞳がかくされているのか。
どきどきと心臓が高鳴る。
海の中ではあまりお目にかかれない、この輝きの秘匿された髪型が、バーソロミューはなによりもすきだ。
時々遠目に地上を眺めては、どこかにいないかなと探してしまう。
めったにお目にかかれないからこそ、貴重だ。
にやりと口角が上がるのをとめられない。
……
すこしだけなら触れても起きないだろう。ほんのすこし、その隠された顔をみるだけだ。
自分には権利がある、なにせ命を救った。
どうやら男の心臓は動いているから、ちゃんと救ったことになる。
バーソロミューは、そっとその濡れた髪をよけた。
……
指先で髪をよけ、砂粒を払い落とす。
秀でた額の下、彫りの深い眼窩、目頭には額を滑っていった水が溜まっている。
髪と同じ色の睫には、砂がキラキラと輝いていた。高く、すっと通った鼻筋に、逞しい頤。
(美形だ)
溺れたせいで肌は青ざめているが、生白い印象はない。
太い首に、分厚い胸板はしっかりと上下していた。
そっとその頬に触れる。冷えているが生き物の温度はある。
頬、鼻筋、額。
綺麗な男だ。
バーソロミューは美しいものが好きだった。
(このくらいはもらってもいいはず)
きょろ、と辺りを見回す。
視線はない。浜辺をうろつく蟹もソレを狙った海鳥も、いない。
触れた唇は、柔らかく、冷たかった。
……ぅ、ん」
パッと顔を離す。
睫が震えている。
起こしてしまったらしい。
バーソロミューは慌てて顔を上げた。ずりずりと再び砂浜を這いずってなんとか海に飛び込んだ。
びゅっと勢いよく距離をとってから、そっと顔を覗かせた。
男は起き上がり、きょろきょろと辺りを見回している。
危なかった。
男は暫くそうして何かを探していたが、そのうちに立ち上がり、しっかりとした足取りでさっていった。
横にあった、大きな魚の這った後には気がつかなかったらしい。
ほっと胸をなで下ろす。
ぽかりと浮かんだ頭を何と勘違いしたのか、海鳥が一羽、羽を休めに来たのをバーソロミューは丁寧に追い払わなくてはならなかった。