マエバ・セイボスキー
2025-03-05 00:16:28
30655文字
Public パーバソ
 

海に似ている

人魚姫パロです。
なんのひねりもなく、ストレートに人魚姫パロのパーバソです。
領主のパと人魚のバソ。海の魔女役をテ神にしてますが、カップリングはパーバソだけです。
※ただし、デイテス生産工場で作られています
※喫煙表現があります
※盲目のパの描写があります
※設定は完全にいつかのどこかの、なので深く考えないでください

加筆修正して素敵な表紙をつけて本にしました。よろしければ。
https://ecs.toranoana.jp/joshi/ec/item/040031242019



日々は、瞬く間に過ぎていく。
今では城の者も街の人々も、パーシヴァルの後ろをあるくバーソロミューをみて誰だとは言わなくなっていた。
バーソロミューは、人々の心を掴むのがとても上手だった。
しゃべりはしなかったが、彼の瞳も仕草もとても雄弁だ。
それに、今ではたどたどしいながらも、筆談が出来るほどになっていた。
彼は海のことにとても造詣が深かった。
この街には漁師が多い。
誰よりも海を知っている男達でさえ舌を巻くようなことを、時々指摘する。
あるときには、ここよりももう少し南に行くべきだと提案し、話を聞いた船は普段の倍釣り上げていた。
それに不思議と、誰よりも天気を読むのが上手かった。波を見て、空を見て、雨が降ると言えば降ったし、時化ると言えば海は荒れた。
彼が一体どこでそんな技術を身につけたのかは、語られていなかったけれど、いつの間にか多くの人々の心を惹き付けていた。
その中には勿論、パーシヴァルも含まれている。
城の中には、彼のことを怪しむ声も少なからずあった。当然だ、脳天気に人を信じるばかりでは領地を守っていくことは出来ない。
けれども、パーシヴァルはもはや、少しも彼を疑ってはいなかった。
行動に怪しい点はないし、ここにきてから外部と連絡を取るような仕草をしたこともなかった。
仮に、なにかしらの情報を持ち出そうとしているのであれば、そのときに阻止すれば良い。
友人には甘いと言われるかもしれないが、パーシヴァルには彼を止めるだけの自信があった。
毎日が、穏やかに過ぎていった。
季節は巡り、人々がビーチで過ごす時間が増えてくる頃。
もうそろそろ夏至の祭りをひかえた、ある雨の日。
雨が続き、パーシヴァルは毎日執務室で書類仕事をして過ごしていた。この時期は毎年そうだ。
溜まった書類仕事をかたづける季節と言っても良い。
うっかり夜まで仕事をしてしまい、固まった身体をうんと伸ばしながら薄暗い廊下を歩いていた。
ふと広間から明かりが漏れていることに気がつく。
薄く開いたドアの隙間から一筋、暖かい色の光が漏れている。
すぐに理由はしれた。もうすぐこの広間で夏至のパーティーがひらかれるのだ。
準備のためにあかりをつけて、そのままになっているのだろう。
広間にはピアノが一つ置いてある。消し忘れられた明かりは、ピアノの側のものだけだった。
広間の殆どは薄暗い。
パーティ-当日には友人の音楽家を招く予定でいるが、パーシヴァル自身も弾けないわけではない。
久々に触れてみたくなった。
カバーを上げ、鍵盤を一つたたく。ぽーん、とよく調律された美しい音が広間に響いた。
指を滑らせると、ぽろんぽろんと音符が転げて踊り出すような音が鳴る。
パーシヴァルは、椅子を引きすっと息を吸った。両手を鍵盤に乗せて、ゆっくりと押し込む。
奏でる曲は、よく練習で弾いた曲、それから、耳の奥に残っている、どこのだれのものともしれない、波を縫ってやってきたあの曲だ。
久々に弾くから、指が縺れそうだった。けれど、頭の中にある曲を思い出しながら乗せる作業は思いのほか楽しい。
徐々に、聞こえる音と記憶が重なり合ってくる。
ああ、自分は、あの歌が、声が好きだったのだなあと気付いたとき、後ろから物音がした。
振り返ると、寝間着姿のバーソロミューが立っている。
「ああ、すみません、起こしてしまったかな」
ここから使用人部屋は遠いと油断していたが、彼の部屋からならば聞こえる距離かもしれない。
素直に謝罪すると、バーソロミューはふるふると首をふった。
パーシヴァルのすぐ横にやってくると、鍵盤と指を交互にさししめす。
「なんだい?」
そして、ぽん、と鍵盤を叩いた。
「?もう一度弾けと?」
こくんと頷く。
パーシヴァルも頷いて再び鍵盤に指を乗せる。
「この曲かな?」
バーソロミューは笑った。そして、声のない歌を歌い出す。
「ああ、君、この曲を知っているんだね」
ぽろんぽろんと広間に音楽が広がっていく。
バーソロミューはにこにこしながら、両手で拍子をとったかと思うとそのままとんとんと夜の中に歩み出た。
ひら、と寝間着の裾が翻る。
彼は、曲に合わせて踊り出した。
技巧のあるものではない。きらきらひらひらと、まるで魚が美しい尾びれをひらめかせて泳ぎ回るような、そんな風情だ。
大きな窓から注ぐ夜空は大理石に星を振りまいている。夜のヴェールを纏った彼は、ただ楽しげにくるくると回る。
パーシヴァルは、胸が高鳴り頬が熱くなるのを感じた。
激しい感情ではない。
ただ、自分の拙いよく知りもしない曲に、彼がその煌めくような足跡をみせてくれるのが、たまらない幸福感となって沸き上がった。
美しい夜の円舞。
いつまでもこの時が続けば良い。
パーシヴァルは、聞こえない歌声に耳を澄ます。
そうして、きらめく一夜は軽やかに、すぎてゆくのだった。

温かな日々は、それが終わるのも唐突だ。
パーシヴァルは封を切ったその手でさっと返事を書き、シグネットリングを拭った。
ここまでの道のりを労いながらも、きっと迅速に届けて欲しいと言い含め返事を手渡す。
……
不安げな顔をしている執事に笑い掛ける。彼は、父の代から仕えてくれている、忠実で勤勉な男だ。
早くに父を亡くしたパーシヴァルにとっては、父か祖父のように思っている男だった。
彼を、彼らを守るのがパーシヴァルの責務である。
今までがそうであったように、今回も全力で戦いそして勝ってくるだけだ。
「大丈夫だよ」
いつもの通り、やるべきことをすべき通りに。
けれど、どうしてか微かな胸騒ぎがする。パーシヴァルのこの手の勘は当たることが多い。
窓の外では、海が唸り声を上げている。
「嫌な天気だ」
まるで前途を予見するような空模様に、パーシヴァルは微かに眉を顰めた。