Hizuki
2025-02-08 09:53:52
25240文字
Public とうらぶ
 

きみのために俺ができること

【とうらぶ】鶴さに。商店街の外れの桜の木の下で出会った訳ありの鶴丸を連れ帰った主の話。色違い要素、捏造設定あり。2022年6月発行のネットプリント本の再録。叶うなら、知らないままでいてほしかった。







 散発的に確認された敵の討伐に俺も招集された。休息を挟みつつ交代で出陣する最中、ちょうど空いてしまった刃員の穴を埋めるためにと呼び出された。やはり実戦で刀を振るうのは手合わせとは違う。久し振りの高揚感を感じながら、彼女に帰還の報告に向かう。部隊長を務めた一期一振が既に報告に行っているはずだが、宛がわれている部屋の場所の都合で彼女の部屋の前を必ず通る。不在なこともあるが、本丸に戻ってきた折には必ず彼女の元を訪ねるようにしていた。

「帰ったぜ。入ってもいいかい?」

 そう中に向かって声をかけると、戸は静かに開いた。

「戻ったか」
「あ、鶴丸おかえり。お疲れさま」

 戸を開けてくれたのは山姥切だった。彼女の補佐をしつつ、自身も戦場に出ては戦果を挙げていたのを知っている。

「さっき聞いたけど大活躍だったらしいね? ありがとう」
「何を聞いたのかは分からんが、役に立ったなら何よりだ」

 戸を閉めた山姥切が、机を挟んだ彼女の左前に腰を下ろす。山姥切から少し離れた場所に俺も座した。政府からの連絡を受けた彼女の話を聞くに、敵の出現はひとまず落ち着いたようだ。俺達が倒した奴らが最後だったらしい。胸を撫で下ろしたのも束の間、机の上に置かれた審神者専用の携帯端末が音を立てる。それを手に取り、内容を確認する彼女の表情が次第に曇っていく。

「うーん……
「難しい顔をしてどうした?」
「また敵か?」
「敵じゃないんだけど……

 俺と山姥切の問いに対して彼女の反応は鈍い。敵ではないものの、何かしらの懸念事項ということか。詳細を口にしないまま、彼女は視線を落としていた端末を俺達の方に寄せた。手慣れた様子で端末を操作する山姥切の手元を、近寄って隣から覗き込む。

……なるほど」

 そこに綴られていたのは、『黒い刀剣男士に関する注意勧告』と題された政府からの通知だった。

「ただの噂だと思ってたんだけどなぁ……

 文章の前には写真があった。薄暗い中、遠方から撮られたと思われる写真。黒い人影は確かに刀を手にしていて、瞳らしき金色がはっきりと写っている。彼女がこうも気にしているのは、先日俺が問いかけたことも影響しているからだろうか。はぁ、と深い息を吐いて俯く彼女を見ていると、山姥切が俺を肘で突いた。何も言わずに山姥切は俺の目を見る。
あんたじゃないよな、と聞かれている気がした。
――ああ、俺じゃない。
主に見えないように小さく首を横に振った。問うたのは目が俺と同じ金色だからだろう。他にも出陣した日はあるが、ここ数日はずっと本丸にいた。外に出る時は基本的に誰かと一緒だし、出陣した日も端に小さく記された目撃日とは重ならない。写っているのは俺ではない、と断言できる。
 ……それにあれは、『もしも』の話だ。

……何にせよ、気を付けておくに越したことはないな」
「そうだね」

 更に画面に指を滑らせて読み進めていくと、敵の邪気に汚染された別の個体が無差別に斬りかかったという話が見え、思わず身を固くする。そして、この件とは別の懸念がゆっくりと近付いてきていることも、薄々感じ取っていた。