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Hizuki
2025-02-08 09:53:52
25240文字
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とうらぶ
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きみのために俺ができること
【とうらぶ】鶴さに。商店街の外れの桜の木の下で出会った訳ありの鶴丸を連れ帰った主の話。色違い要素、捏造設定あり。2022年6月発行のネットプリント本の再録。叶うなら、知らないままでいてほしかった。
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二
「
……
それで、連れて帰ってきたのか」
「うん。ほら、うちの本丸に鶴丸はいないし」
はぁ、と溜め息を吐いたのは、山姥切国広だった。本丸に戻った主を出迎え、こうして彼女の事後報告を受けている辺り、ここの近侍はこの山姥切らしい。彼女からすれば俺は客という扱いのようで、ご丁寧に茶まで淹れてくれた。
「
……
あんたはもっと警戒心を持った方がいい」
顔を上げて彼女を真っ直ぐに見ると、山姥切はきっぱりとそう言い切った。それに彼女は「ごめん」と笑って応えた。主に忠告するのも近侍の役目。時に主の隙が危機に繋がることもあるのだから。
「だよなぁ。もし俺に悪意があったら、きみはもうここにいないかもしれないぜ?」
山姥切の忠告に付け加えるように口を開く。元々悪意なんざこれっぽっちもないが、彼女が何の疑いもなく俺の提案を飲んだのには正直驚いた。
「それをあんたが言うのか」
「まぁまぁ、落ち着いてよ山姥切」
立ち上がって俺を睨む山姥切を彼女がどうどうと宥める。山姥切からすれば俺は招かれざる客で、そんな奴が主の悪い方のもしもの話を言おうものならそうなるのも無理はない。主の声にそのまま腰を下ろすも、山姥切の俺に対する警戒心は更に強められてしまったらしい。一瞬こちらに視線を向け、すぐにまた逸らした。
「何か訳ありみたいだし、悪い感じはしないから、多分大丈夫だよ」
「
……
主のあんたがそう言うなら、それでいい」
「お前の主は話が分かるなぁ。助かる」
盛大な溜め息と共に山姥切が頷いた。大丈夫だと言ってくれるのはありがたいが、何が彼女をそう認識させたのかは正直気になるところ。機会があればいつか聞いてみたいものだ。
「まずはみんなに鶴丸のことを伝えておかないと」
本来俺はこの本丸にはいないはずのもの。それがいるのだから主として皆に説明しておくのは自然な流れだろう。彼女はずっと立ち上がって、自身の後ろにある棚を開けた。そして、俺の隣に膝を付く。
「そうだ、とりあえずこれ渡しておくね」
そう言って手渡されたのは、紋様の浮かんだ小さな透明の珠だった。
「きみの契約の珠か」
「そう」
紋様は彼女を示すもの。珠は審神者と刀剣男士の契約の証。互いの力を込め、二つの紋様が浮かぶことで主たる者に俺達が力を貸し与えることを示す正式な証となる。
「最近変な噂が流れてるからか、商店街で政府の人を時々見かけるんだよね」
「変な噂?」
自分を顕現させた主の本丸ではない場所にいる今の自分の状況を考えれば、政府の人間と顔を合わせるのは極力避けたい。見つかろうものなら追及されるのは明らかだ。しかし、一体どんな噂が流れているのやら。オウム返しに尋ねれば、山姥切が答える。
「詳しい情報はないが、『黒い刀剣男士』がいるらしい」
「
……
へぇ」
その言葉に思わず自身の口元が歪むのが分かった。『黒い』というのは『黒の衣服』をという意味ではない。形式としてそう表す方が理解しやすいからというものだ。
「でも力は込めなくていいよ。政府の人の目をごまかしさえできればいいから。っていうか鶴丸自身の主がいるんだから込められないか」
あはは、と彼女が笑う。どうやらここの主はなかなかに大らからしい。確かに彼女の言う通り、既に契約が結ばれているのなら何をしたところで力は込められない。複数の主との契約はどうしたところで叶わないのだ。ざっと見たところ、立ち上げてそう時間の経っていない本丸のように見受けられる。警戒心の薄さは経験の浅さによるものかもしれない。
「それじゃ、私はみんなのところに行ってくるから、鶴丸に本丸の案内をお願いできる?」
「
……
分かった」
主自身で全員に説明に回れるほどの数となれば、自分の見立てはそう遠くはなさそうな気がする。離れていく足音が止まったかと思うと彼女の声が聞こえた。誰かと会ったらしい。
「
……
行くぞ」
山姥切が被っている布を引っ張って顔を隠しながら、今日三度目の溜め息を吐く。立ち上がった山姥切を追って、俺も部屋を出た。背後から感じる視線は、彼女が話している男士のものだろう。敵意があるようには感じられなかった。
本丸内を一通り回る途中では誰とも顔を合わせなかった。出陣や遠征で本丸を空けているのか、あるいは山姥切が誰もいない道を選んだのか。まぁそれはどっちでも構わない。そして、無言で歩いていく山姥切が足を止める。自分のいた本丸にあった主な施設で、まだここでは見ていないもの。
「
……
最後に道場だ」
ほぼ同じ造りであるとはいえ、やはり空気が違う。壁にかけられた手合わせ用の木刀の幾つかには使い手の名が刻まれているようだ。何となく懐かしさを感じながら軽く見回していると、山姥切が俺に向かって木刀を突き出していた。
「お、どうした?」
「
……
あんたに手合わせを申し込む」
俺を見据える佇まいには、敵意とまでは言わないものの不信感が滲み出ている。
「主は大丈夫だと言ったが、正直俺はあんたが分からない」
「なるほど、よく分からん奴を本丸には置きたくないって訳だな」
主の補佐をする近侍としては自然なものだ。万が一主に何かあったら、という思いは俺も理解できる。先程俺が吹っ掛けたこともあるだろう。
「いいぜ。刀剣男士同士、刀で語ろうじゃないか」
名のない木刀の中から適当なものを手に取り軽く振る。山姥切の向かいに立って、それを構えた。
「どこからでも打ち込んでこい」
全力を出して圧倒することは容易い。だが、まずは山姥切の力がどれほどのものなのか見てみたかった。踏み込みに合わせて床板が鳴る。太刀筋を見極めて受け、時に躱して軽く攻める。木刀同士がぶつかり合う音が道場の中に響いた。
「はぁっ!」
俺の隙を突いた振り下ろしを紙一重で避ける。狙い所は悪くない。真剣で俺の反応が遅れていたら、間違いなく傷を負わされていた。
「おっと! やるじゃないか」
とはいえ、まだまだ荒削りなところも目立つ。それだけ伸びしろがあるということでもあるが。距離を取りながら木刀を握り直し、目の前の山姥切に向けた。目を閉じて呼吸を整え、一拍置いてから間合いを詰める。
「くっ
……
」
俺の攻撃に防戦一方になる山姥切を追い詰めていく。そして下段の攻撃を受け切れなかった山姥切の木刀が、手から離れてカランと転がった。拾う機会を与えることはしない。屈んで手元を離れた木刀に手を伸ばそうとした山姥切の首元に切っ先を突き付ける。
「俺の勝ち、だな」
山姥切は手を引っ込めてその場で拳を強く握った。俯いたまま俺に問いかける。
「
……
何故うちの主なんだ」
「俺がいない本丸の主だったから」
突き付けた木刀を下ろすと、それをそのまま肩に乗せた。本丸内において同一の刀剣男士は同時に顕現できない。以前とある本丸で起きた諍いから、原則としてそう決められている。故に声をかけるなら俺のいない本丸である必要があった。
「
……
目的は何だ」
「んー
……
どう言うのがいいんだろうなぁ
……
。ない訳じゃあないんだが、ここの本丸自体には関係のないことになるんだろうな。今のところは」
「は
……
?」
問いを重ねる山姥切に背を向けて、道場内をふらりと歩く。もちろん目的はある。だが、ここで目的や理由を語る義理はない。ぼかした答えに山姥切から戸惑いの声が上がる。
「
……
それに、俺は本丸に戻れないんだ。だから、こうして色んなところを渡り歩いてる」
――
そう、俺は本丸には戻れない。
「戻れない
……
? どうして
……
」
「とはいえお前の主が俺を顕現させたら、俺は大人しくここを出る。安心してくれ」
話を打ち切って山姥切を振り返ると、意味が分からないという顔で俺の方を見ていた。転がった木刀を拾い、自分が手にしているものと合わせて、壁の空いている場所に収める。
「ま、少しの間よろしく頼むぜ、近侍殿」
差し出した俺の手を取ることはなく、山姥切は早足で道場から去っていった。行き場のなくなった手を下ろし、その場に座る。
元々長期に渡ってここに身を置くつもりはない。『俺』の存在が厄介事を誘発する元になりかねないことは自覚している。とはいえ、単独で得られる情報には限りがあるのもまた事実。政府によって秘匿されている情報が多いことを差し引いても、審神者の元には政府からの情報も下りてくる。言い方は悪いが、俺のやるべきことのために利用しないという手はない。
……
正直、俺がいつまで動けるのかも分からないが。
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