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Hizuki
2025-02-08 09:53:52
25240文字
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とうらぶ
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きみのために俺ができること
【とうらぶ】鶴さに。商店街の外れの桜の木の下で出会った訳ありの鶴丸を連れ帰った主の話。色違い要素、捏造設定あり。2022年6月発行のネットプリント本の再録。叶うなら、知らないままでいてほしかった。
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四
気付けばこの本丸に来てからおよそ三ヶ月が経とうとしている。桜は散り、新緑が芽吹き、雨時がそろそろ終わろうかという頃。その間に顕現した男士も多く、俺が来た時を思えば随分賑やかになっていた。それでも、『俺』が顕現することはなく、俺はまだここにいられている。彼女の本丸にとっていいことなのかそうでないのか判断はつかないが。
「あれ、早いね?」
不意に聞こえてきた声。そちらを振り返れば、夜警の物見櫓の階段を上がってくる彼女の姿があった。
「きみか。少し空を見たくてな」
最後の段を上がり、俺の方を見た彼女に後ろの空を指し示した。俺の隣に立って、柵に手を突いて空を仰ぐと、わぁと嬉しそうな声を上げる。
「すごい
……
大きな満月
……
!」
「この物見櫓からは月がよく見える」
ようやく雨が止み、久し振りに晴れた空に姿を見せた月は白く眩く辺りを照らしていた。彼女が見やすいように少し場所を空け、柱の影に身を寄せる。まるで幼い子供のように無邪気な彼女の姿に口元が緩んだ。
「
……
なぁ、聞いてもいいか」
彼女が落ち着いた頃合いを見計らって口を開く。
「ん? 何を?」
「初めて会った時、どうして俺の頼みを聞いてくれたんだ?」
それはずっと疑問に思っていたことでもあった。どこの奴かも分からない俺を引き受けてくれた理由。彼女は顎に指先を添え、あの時を思い出すかのように目を閉じる。
「うーん
……
桜の中にいる鶴丸が綺麗だったから?」
少し間を空け、指先を空に向けて疑問形で答えた彼女は、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「きみなぁ
……
本気で言ってるのか?」
からかうかのような軽い調子の声に、思わず呆れ混じりの溜め息が漏れた。彼女とて本気ではないことは十分声から分かった。同じように俺も軽く笑いながら返す。
「冗談だよ、冗談。でも綺麗だなって思ったのは本当」
理由としては冗談だが、感情としては言葉通りということらしい。にこにこと笑って言うものだから、俺としてもこれ以上突っ込むのは控えることにした。
「刀剣男士が単独でいることに何か裏があるとは思わなかったか?」
「最初の時にも言ったけど悪い感じはしなかったし、うちの本丸に鶴丸はいなかったし、それに
……
」
そこで彼女は一度言葉を切る。
「通りすがりのどこの誰かも分からない私に声をかけたってことは、きっと本当に困ってるんだろうなって思ったから」
そして、真っ直ぐに俺の目を見て言い切った。
「
……
それだけか?」
「うん、それだけ」
「そりゃ山姥切が心配する訳だ」
俺の念押しにも即答だった。本当に純粋な親切心だけで俺に手を差し伸べてくれたというのか。全く
……
人が良すぎるというか
……
。あの日出会ったのが彼女でなかったのなら、俺は今どうしていただろうか。いや、悪い方のもしもを考えるのは止めよう。だが、俺を助けてくれたからこそ、聞いておきたいこともある。
「もし、俺が噂の『黒い刀剣男士』だったら、どうする?」
あくまで、仮定の話。
「どうもしないよ。今まで通り」
「
……
きみを手にかける可能性があってもか」
「うん。だって、目の前にいる鶴丸は黒くないんだから」
先程と同じように彼女は断言する。自らの身を脅かす可能性を告げたというのに。針で刺されたかのようにちくりと心が痛んだ。確かに黒ではない。今は光を遮るように立っているから、自分には影がかかっている。完全な白でもないし、黒でもない。敢えて言うのなら灰色か。白と黒の、その間。
「
……
もう少しきみは他人を疑うことを覚えた方がいいぞ。ここの奴らが苦労する」
「あはは
……
気を付けます」
素直なところは彼女の長所だ。ただ、純粋すぎるとも言える。本丸の主、指揮官たる彼女が敵の言葉を鵜呑みにしていると、そのうちどこかで痛い目を見ることになる。恐らくそれを真っ先に受けるのは、戦いに出る俺達刀剣男士だ。そして彼女もまた傷付くことになる。
「すまん、遅くなった
……
って主、あんた一体ここで何してるんだ」
申し訳なさそうに笑う彼女の後ろから姿を見せた、今日の夜警の相方の山姥切が驚きの声を上げる。山姥切からしてみれば、まさか彼女がいるとは思っていなかったのだろう。
「あ、そうそう、差し入れ持ってきたの。下の机に置いてあるからよかったら食べて」
「
……
あれか。礼を言う」
山姥切はもうそれを見たようだ。彼女がこうして夜警の奴らに差し入れてくれるのは珍しいことではない。夜食のおかずを一品増やしてくれていたり、一口で食べられるような甘味を添えてくれていたりと多岐に渡る。しかも、それは本丸の経費からは出ていないと聞いたことがある。
「おお、悪いな」
「それじゃ、お願いね」
そう言って彼女は階段を下りていった。少しずつ足音が遠のいていき、扉が閉まる音がした。母屋に戻っていく彼女の姿が暗がりに溶けたところで、山姥切が小さく息を吐く。
「黒い刀剣男士、か」
「何だ、聞いてたのか?」
それは自分が口にした言葉だった。どうやらその頃にはもう下に来ていたらしい。彼女と同じように、月を見上げながら山姥切が呟いた。
「聞こえてきただけだ。
……
本当にそうなら、俺はあんたを斬らなきゃならない」
「そうだな。お前はこの本丸の近侍で、俺は別の本丸の刀剣男士だからな。主に害を為すならそうするわな」
「
……
だが、あんたを斬りたくはない」
思わず目を丸くして山姥切を見る。俺がここに来て早々に不信感から手合わせを申し込んできた山姥切から、そんな言葉を聞くとは思いもしなかった。今でもどちらかと言えば受け入れられていないと思っていたから、本当にそう言われるとは予想外だったのだ。
「
……
何だその顔は」
正直間抜けな顔をしている自覚はある。不服そうな声で俺の見たままを指摘されて、つい噴き出してしまった。
「いや、すまんすまん!」
「あんたのことを気に入っている奴もいるし、その
……
俺達を鍛えてくれたことには
……
感謝、もしているからな
……
一応
……
」
ふいと視線を逸らし、俺から隠れるように布を目深に引っ張った。彼女のように好意を見せてくれる奴がいれば、山姥切のように最初は俺を訝しむ奴もいた。だが今は俺の存在を受け入れてくれている。そんな皆に共通しているのは、彼女のために、主のために強くなりたいという心。手合わせを重ねていく中で、それだけは誰も揺るがなかった。
「
……
やっぱり刀剣男士は主に似るのかねぇ」
言葉や態度として表には出さなくとも、皆素直で優しい奴ばかり。それはこの本丸の主たる彼女の影響を受けた、彼女の刀剣男士だからだろう。
「
……
どういう意味だ」
「何、そのままの意味だ」
山姥切からだって、初めて会った時のような刺々しい空気は感じない。少なくとも、俺に対しての警戒心はあの頃より落ち着いたということだ。
「
……
なぁ山姥切。今のお前の目から見て、俺は『白く』見えるか?」
ゆっくりと柱の影から月明かりの下へ踏み出す。言葉を変えて、山姥切に問いかける。常に光のある時間を避けるようになったのは、色を隠すため。暗く影が落ちる時間ならば、目に付くことはない。
「意味がよく分からんが
……
あんたは『白い』んだろ、鶴丸」
俺の色として知られている白。
俺の仮定の話を否定する白。
きっと二つの意味が込められている。
「
……
そうか。ありがとう」
今の俺が山姥切からそう見えていることにほっとする。あるいは、彼女が受け入れているから、白であると信じたいと思っているのかもしれない。
「さぁて、しっかり職務に励むとするかぁ!」
わざとらしく声を張り上げて、暗い空の向こうに目を凝らす。ここを去る時が来るまで、俺が白いままでいられるようにと願いながら。
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