「何を笑っている」
暖炉脇の席で銀色の青年が問うた、手の中の書物に視線を戻すかわりに
「何がだ」
向かいで真槍に手入れの油をまとわせている半魔に。
槍にこれをしてやるのが終わるまでは、手が汚れるから触ってやれんしお前も触りに来るなというのは、自己修復能力を備えた魔性の武器には過ぎた施しに思えなくもないし、嘗て自分の命を預けもした「それ」は、自分同様そんなに甘やかす必要など無かろうと思う青年であったが、今日、今、問うたのは
「お前が悪い笑い方をしながらやっているからだラーハルト、まるで『俺とお前の秘密だ、いいな』とでもいうように」
何だ、一体そいつと何を隠して笑っている
答えろ
大きく気分を害するまでではなかろうが、眉を顰め、聡明な淡紫の視線は遠大で深甚な活字の海から完全に甲板に上がってきてしまって、やすやすと帰せるようでもない。そのことに半魔はもういちどあからさまに、しかし憐れむような笑みを浮かべた
「いましがたお前の妹弟子が、何か言いに来て、しかし『後でいいから』と微笑んで出直した」
「そうだが」
「お前が悪い」
「なに」
「
―――ときに凍創の季節だな」
「え?」
「あれは火の傍で暖めるととても痒いな」
「
……うん」
「お前が家の居間でやるように俺の足に爪先をこすりつけて痒がるのはいつものことだ、別段構わんのだが」
「あの娘、何に動揺しているのか自分でもわからん顔で頬を染めて逃げたぞ」
という話をこいつにしていたとの告白を待つことなく、アバンの長兄は
前大戦の傷痍が記憶から飛んだかのように飛び出していった
また凍創を増やして帰ってくるのだろうが、まあそれでも、と半魔は止めない
いっそ全身しもやけになって、全身摺り寄せてきてもそれはそれで、などと。
●お題『しもやけ』
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