4話✧恢械




「はぁ、はっ……!」

ルフレは三人の元へと全力で駆けていた。
寧寿宮へと続く巨大な門。そこをくぐれば、すぐにたどり着ける。



そして

門をくぐった瞬間、視界の端に見覚えのある影が映った。

壁に寄りかかり、黄昏れている人影。

「ファ、ファンリンさん!!!」

ルフレは息を切らせながら、樊凌の腕を掴んだ。

「ルーちゃん? そんな急いでどう……

樊凌は、突然現れたルフレの必死な様子に目を見開く。

「っ、はぁ……今、この城……軍隊に囲まれてて……っ、僕らだけじゃ……対応しきれない数なんです……! だから、早く全員合流して……!」

ルフレの息は荒く、まともに言葉を紡ぐのも苦しそうだった。

「落ち着いてや、ルーちゃん」

樊凌は彼をそっと地面に座らせた。

自分が私欲に耽っている間に、彼らはここまでしてくれていたのか……
それなのに、自分は……

罪悪感に苛まれ、樊凌の表情が曇る。

だが、今はそんなことを考えている場合ではない。
ルフレの言葉の断片から、他の三人が足止めをしていることを察する。

「シノちゃんとカラちゃんはこの奥におるから、ルーちゃんは二人を頼んだで。
ボクはすぐにグラちゃんたちのとこ行く」

そう言い残し、樊凌は立ち上がると、一目散に駆け出した。

これで、ラート、フィリップ、樊凌が合流する。
自分はカラベラフィルムとシアノと合流。
その後、ラートたちのもとへ戻れば、全員が揃う。

あとはどこかに身を潜め、グラディエーターの帰還を待てばいい。

ルフレは朧げな思考の中で、作戦の流れを再確認した。

あと少し――
自分が耐えれば、誰一人欠けることなく帰れる。

……よしっ」

息を整え、ルフレは再び駆け出した。



——

「シアノ!カラベラフィルムさん!」

宮殿にたどり着いたルフレは、見慣れたその後ろ姿に思わず歓喜した。
これで全員が揃ったのだと、心の中で確信する。

だが、すぐにその確信が揺らぎ始めた。

?カラベラ、フィルムさん?」

名前を呼んでも返事がない。
ルフレは1歩ずつ、慎重に彼に近づいていく。
既に太陽は沈み、空はすっかり闇に包まれていた。
その中で、カラベラフィルムの青い背中は、いつもよりも重く、暗く感じられる。

シアノは?」

ルフレは周囲を見渡し、シアノの姿を探す。
白く輝くはずの彼のシルエットは、どこにも見当たらない。
日が沈み、視界が暗くなっているとはいえ、あの真っ白な姿は、どんな闇の中でも目を引くはずだ。

「っ、も、もぉ! こんな時までどこかで寝てるんですか!? シアノ〜! ほら!! 起きてください!!」

ルフレは、きっとどこか静かな場所に隠れて寝ているだけだと思った。
そうそう思っていたかった。

無理に作った笑顔がひきつる。
どれだけ彼の名前を呼んでも、返ってくる声はない。
ただ、自分の声が虚しく反響するだけだった。

「シアノ? さすがの僕も怒りますよ……?」


ルフレ殿

小さく、そしてどこか力の無い声が耳に届く。
ルフレはゆっくりと目線をカラベラフィルムに向けた。
その顔には、何とも言えない沈黙が漂っていた。

……っえ?それって……?」

カラベラフィルムの手の中には、この時代には不釣り合いなものが乗っていた。
ガラス片、それもただのガラスではない。

ルフレの目がそれを捉えた瞬間、胸に不安が駆け巡る。
この時代に来てから一度もガラスを見たことはなかった。
そして、このガラスは、彼が知っているものよりも遥かに透明度が高い。

そのガラスが、なぜカラベラフィルムの手の中にあるのか。

シアノの、能力のガラス、ですか?」

既視感が襲ってくる。
それは、シアノの能力、DreamBoxの中で四方を囲んでいたガラスに似ていた。
なぜ、それがここに?
あの部屋の中では、能力を解除すれば、跡形もなく消えてしまうはずだ。

嫌な予感が胸を締め付ける。
何かが、何かが壊れてしまった。

ルフレは、ゆっくりと目を上げ、もう一度カラベラフィルムの顔を見つめた。
その顔には、何も語らずとも、何かが決定的に変わった証が滲んでいる。

カラベラフィルムさん?シアノは、どこに行ったんですか?」

力なく、カラベラフィルムは静かに首を横に振った。
その動作のすべてが、言葉を超えて悲痛に満ちていた。

「っ!そんなはずないでしょう!?だって、そんな

その瞬間、全てが崩れ落ちるような感覚がルフレを襲う。
膝から力が抜け、彼はその場に崩れ落ちた。

(どうしても、こうなった……?)

虚無感が、まるで身体の中に引き込まれるように広がっていく。

言葉にするのも恐ろしいほどの、空虚な空間。
その中で、ただ一人、動けない自分だけが取り残されているような感覚。

目の前の光景が、どこか遠くから見ているかのようにぼやけ、
ただ無音の世界が広がった。
この場所には、誰もいないような気がする。

あんまりだ

その呟きすらも、虚しく響いた。