4話✧恢械




逢魔時

「はぁはぁちょっと、キリが無いですよこれ! 燃やしても燃やしても、こいつら湧いてくる!」
「そろそろ、ファンリンも片付くだろう」

カラベラフィルムとシアノとすれ違いに、樊凌がいた宮殿を出た四人。それから数時間が経ち、日は沈んでいた。
それでもまだ、空は紫色の光に包まれ、薄明るさを残している。

彼らは少しでも軍の侵入を防ごうとしていたが、倒しても倒しても兵士の数は減る気配がない。
通常の戦場なら、恐れをなして逃げる兵士もいるだろう。しかし、今ここで攻め落とされるのは皇帝の城。
後退など許されるはずがなかった。

さらに、この城ほどの規模なら門は四方に存在する。つまり、すでに包囲されている可能性も高い。

「ファンリンたちも迎えに行きたいですけど!! この数引き連れて逃げるのは無理がありますよっ!」

ルフレは息をするように、兵士たちの首を刈る。しかし、次から次へと新手が襲いかかり、
その華麗な剣さばきも徐々に鈍っていた。

フィリップは、"彼は魔女の仲間だ"とルフレに囁かれた兵士たちを、有罪と断じては炎に包んだ。
何度も繰り返したが、終わりは見えない。

人並み外れた体力を誇るグラディエーターとラートも、息が上がっていた。

……っ、まずは三人と合流して、この場から撤退することを最優先だな!」

グラディエーターの言葉に、ルフレは苛立ちを滲ませる。

「だから! それができたら今すぐそうしてますってば!!」
「っはは! 任せておけ!!」

そう言うなり、グラディエーターは剣を振るうのをやめ、一直線に兵士の群れへと走り出した。

「!? グラディエーターさん!?」
……能力を使うつもりか。一旦離れるぞ!」

彼の意図を察したラートが、ルフレとフィリップに声をかける。
三人は彼と反対方向へと駆け出した。

この場面で最も有効なのは、グラディエーターの能力。だが、それを発動させるには時間が必要だった。

孤立した彼を仕留めようと、兵士たちは次々と彼のもとへと集まっていく。
おかげで、ルフレたちは建物の影へと身を隠すことができた。

影に紛れ、息を潜める三人。
鼓舞するための兵士たちの雄叫びが、絶え間なく響く。

――早く、消えてしまえ。

ルフレはただ、喧騒が静まるのを待ち望んだ。

しかし。

『うおおおおおお!!!!!!』

突如として、一際大きな雄叫びが響き渡る。

三人の顔が引き攣った。
まさか……

急いで身を起こし、建物の影から顔を覗かせる。

その瞬間、世界が一変した。

まるで異世界に迷い込んだかのように、静寂が広がる。
さっきまでの雄叫びも、兵士たちの怒号も、何一つ聞こえない。
ただ、カラスの鳴き声だけが空を切る。

先ほどまで兵士たちが群がっていた場所には、動く影すらない。

残されていたのは、ただの死体の山だった。

……上手くいったんですかね」

ルフレが静まり返った戦場を見渡しながら呟く。

「心配しても仕方がない。俺たちはファンリンたちの元へ行くぞ」

ラートがそう告げ、三人はグラディエーターを案じる気持ちを抑えつつ、寧寿宮へと向かった。

いくつもの門をくぐり、城の奥へ奥へと進んでいく。

——!!

彼らの予想どおり、別の門からも兵士たちは城内に侵入していた。目の前に何人もの兵士が見える。

とはいえ、グラディエーターが作った隙に物陰へと逃げ込んでいたため兵士たちはまだ正確な位置を
把握していないようで、キョロキョロと辺りを探索していた。
だが——

移動の途中で数名の兵士に見つかり、居場所を知られてしまった。
慌てて目の前の敵を始末するが、すでに手遅れだった。

次々と兵士たちが集まり、包囲網が狭まっていく。

ルフレは剣を構え、迎え撃つ体勢を取った。

「ルフレ」

しかし、その前にラートが立ちはだかった。

「ラートさん……?」

「ここは俺とフィリップで足止めする。貴殿はファンリンたちを呼びに行け。それが今の目的だ」

ルフレは一瞬「でも……」と口ごもる。
だが、それは今この場で言うべき言葉ではないと悟り、すぐに駆け出した。

「ラートさん、勝手に決めないでくださいよ」
「貴殿よりルフレのほうが足が速いだろう」
……それは、そうですけど……

勝手に決められたことが気に入らないのか、フィリップはぶつくさと文句を言う。
だが、事実ルフレのほうが速い。それは否定できなかった。

「無駄口を叩いている暇はないぞ」

ラートの言葉に、フィリップは小さく舌打ちしながらも背中を合わせ、兵士たちの攻撃に備えた。