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木蔦(キヅタ)
2020-10-11 17:44:53
21169文字
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花吐き病⑦治る見込みがない長義と本丸の立ち退きを求めるまんばの話【ちょぎくに】
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花吐き病その⑦
ちょぎくに
長義の本丸は解体されることになった。他の本丸へ行く者、刀解を望む者、政府に行く者、それぞれいた。長義は自分の行く末を決めかね、本丸でぼんやり過ごしていた。
長義は生きる気力を失っていた。もうダメ人間ならぬダメ刀だった。
それは自分の主が原因だった。
自分の想い人を審神者に寝取られた。目の前で奪われたことは今でも心の傷になってる。トテモ、ツライ。
もう諦めていたし、最後は彼らを祝福した。しかしなんだか自暴自棄になっている。何のために存在しているのかわからなくなった。これからどうすべきか、わからなくてぼんやり考えている。
そこにまんばがやってくる。知らない個体だ。他の本丸が刀を引き取るために品定めに来てたから、彼もそうかもしれない。あれやこれや説得されて、本丸に是非と望まれるかも。
「俺はレアだから是非本丸に来て欲しいって勧誘かな。悪いけど、生憎俺は」
「いや、あんたなんかいらないが」
スパンと言われる。予想だにしなかった反応のため、長義は固まる。
「
……
は?」
「こんな怠惰な刀要るか。写しでももう少しまともに働くぞ。」
「な
……
!」
長義はカチンとくる。しかし言い返せない。
「それにあんた、いつまでもこんな所に居座るな、迷惑だ」
「はぁ!?いつお前に迷惑掛けたんだ!お前には関係ないだろ!」
失礼な物言いに長義は反発する。
「関係ある。出てけ」
「こ・こ・は!俺の本丸だ!よそ者こそ出て行ってくれないか!」
「面倒くさいやつだな
…
」
「卑屈拗らせて散々周りに気を遣わせるお前に言われたくない!」
「もうお前ひとりしか残ってないのにまだここにいるつもりか?」
「別にいいだろ」
まんばは長義をじっと睨んだ後、帰って行った。
その夜、長義は花吐き病を発症してしまう。
花吐き病の治療方法は好きな相手と両想いになること。
長義は途方に暮れる。
もう自分が恋した自本丸のまんばはいない。だからこの病が治ることはない。折れるしかない。
この本丸と運命を共にするのもいいかもしれない。
またまんばが来る。審神者と共に来たのか、玄関先が騒がしい。
「また来たのか!何度来ても無駄だ、お前の本丸には行かない!」
「いや頼まれても要らないが」
「じゃあなんで来たんだ!」
「昨日も思ったんだが、この本丸は客人にお茶も出さないのか?」
「お前図々しいな!」
「そんなに褒めるな」
「褒めてないよ!」
審神者はスーツを着ており、長義を見ると軽く会釈する。まんばと数言話すと、出て行ってしまう。
「なんだ、お前個人は要らないけど、主は俺を望んでいるってやつか?」
「いや望んでないが」
「お前らは一体何が目的なんだ!」
茶を出せとうるさいから、まんばを客間に通して、茶を出してやる。茶請けはさすがにない。
「もうこの本丸は閉じるだろ。だからここにあんたがいてもらったら困る」
「俺は本丸が消えるまでここにいたい。それに俺は不治の病だ、どこかへ引き取られても折れるのを待つだけ」
「なんだ、悲劇のヒロイン気分に浸ってるやつか」
「お前言い方はイチイチ尺に触るな!」
「よく言われる。どうやら周りを不快にさせてしまっているみたいだ」
さすがに傷つけたのか、まんばが俯く。ちょっと言いすぎたかもしれないと罪悪感。
「まあ、俺の一言で不快になるなんて、精神がヤワな証拠だから叩き直してやるんだけどな!」
少しでも悪かったと思った自分が馬鹿だった。
「絶対にお前の本丸なんかには行かないからな!」
「いや来なくていい」
「だからなんでだよ!」
「俺は本丸所属じゃない。政府の者だ」
「え
…
!?さ、さっきの人は
…
!?」
「あれは俺の上司だ、ハゲ部長」
「その呼び名、人のコンプレックス抉りすぎじゃないかな!?って政府所属!?」
「本丸にいたのはとうの昔だ、だから俺に審神者はなんていない」
まんばは悲しげな顔になる。まさか審神者は死んだのか?と心が痛んだ。
「ふてぶてしいからと捨てられた」
「でしょうね!!」
ごもっともな理由だった。
「そりゃ捨てられるよ!お前みたいな図々しい刀!山姥切国広って刀はもう少ししおらしくて
…
」
「お前も同じ境遇じゃないか」
「違うよ、俺の主は駆け落ちで
…
」
「信用がないからだろ?恋人がいても本丸に居ればいいじゃないか。それなのに出て行ったってことは、お前たちの事を信じてないからだろ」
グサッと来る。
でも自分は恋敵だったから邪魔だったんだろうなとは思う。
「あ、主の恋人は、俺の恋人だったから、だから
…
」
「ああ、なるほど、取られたわけだな、あんたに甲斐性がなくて」
まさにその通りだから反論できない。
「それで未練たらしく本丸に残ってるわけか?しつこい男はモテないぞ」
「うるさい!違う!」
自本丸のまんばとは似ても似つかないが、彼の同位体の批判にグサグサ来る。つらい。
まんば(とついでに上司)を追い出した。
とても疲れた。まんばと話してると腹が立つ。なんで人の怒りを買うようなことばかり言えるのか。才能じゃないか?
ゴホゴホと花を吐き出す。自本丸のまんばは諦めたはずなのに、こんなに未練たらしく花を吐いてる。政府のまんばが言った通りだ。
もうこのまま本丸でひっそり折れるんだなと思う。
もう来ないと思ってたまんばがまた来た。
「なんの用だ」
もう顔を見ただけで怒りが湧いてくる。
「立ち退き要求に来た」
「悪徳金貸し業者か!」
「俺も忙しい身なんだ、素直に連行されろ」
「そんなことしなくても、時期が来たら明け渡すよ」
「なんでだ??」
「実は花吐き病に罹ってしまった。叶うはずもないから、もう折れるのを待つばかりだ。折れるのがわかってるのに他に移るわけにはいかないよ」
「花吐き病?そういえば俺もこの前かかったな」
まんばは元気そうに見える。ということは相手と両想いになったのだろう。まんばが誰かと恋仲になっているなんて想像できない。
この図々しいまんばは恋人と一緒にいるときはどんな態度なんだろうか。やはり恋人には甘えたりするんだろうか
…
さすがにこんな可愛げがない態度はないだろう。
「なるほど、なるほどなるほど
……
」
まんばはそのまま帰ってしまう。
かと思えば、次の日再び現れる。昨日はまんばだけだったのに、今日は山姥切長義を連れている。
「そ、そちらは
…
?」
「俺の元同僚だ。こいつも花吐き病だった。こいつの経験を聞けば治るヒントが得られるんじゃないかと連れてきた!俺よりも同位体の方がいいだろう」
まんばの話から察するに、誰かと両想いになって治った個体ということだろう。まんばも治り、この同位体も治ってる。ということは二人は恋仲なのでは?
なんだかもやもやする。
「偽物くんが騒ぐから何かと思えば。ひとの恋路に首を突っ込むもんじゃないよ」
「いいじゃないか。俺に借りがあるだろ?この本歌を治してほしい」
「借り?恨みの間違いじゃないかな。花吐き病は片恋相手じゃないと意味ないよ」
人前でイチャイチャするのはよしてほしい。
「急に呼び出したかと思えば
…
」
「いいじゃないか、俺だってあんたが悩んでる時、四六時中そばで話を聞いてやっただろ?」
「確かにあれについては感謝してるが、話を聞いてたというのは聞き捨てならない」
長義の中では、落ち込んだ同位体に寄り添うまんばの空想が浮かぶ。
なんだか無性に裏切られた気分だった。
その時に長義は、審神者に捨てられたまんばに仲間意識を持ってたんだなと気付く。まんばならこの気持ちをわかってくれるんじゃないかと期待していたらしい。
「ほんとーに、お前の世話から解放されて清々した!本丸に配属になってよかったよ!」
「少し前はほぼ毎日俺に会いにきてたくせに」
「語弊がある言い方するな!会いに行ってたんじゃなく、相談だろ!!なんで俺は一時期でもこんなやつと恋仲だったのか不思議でしょうがないよ!」
「お前あれ間に受けてたのか?上司のセクハラ紛いの冗談でブチ切れたから、それに乗って付き合ったフリしただけだろ。」
「そんな裏事情初めて聞いたが!?説明もなしにいきなり付き合おうって言われて、ソッコーで別れた俺の身になってくれないか
…
!?」
「言ってなかったか?」
元恋刀らしい。なんだかホッとしたが、それほどの仲というわけだ。
「そら、積もる話もあるだろ、後は同位体のふたりに任せて俺はお暇する」
「いやないよ!お前話聞いてたの!?花吐き病は他人がどうこう言って治るもんじゃない!」
「俺が話を聞いたらあんたは治ったじゃないか」
「すっごい曲解!!」
なぜか同位体とふたりきりにされる。
「
……
相手誰なの?」
同位体が片恋相手のことを聞いてくる。
「主と駆け落ちした、元恋刀
……
」
「うわぁ
……
拗れてるね
……
」
「同位体は?」
「俺は配属先の写し。偽物くんとは違ってかわいいよ」
恋話に花が咲く。
「大変だったんだね、配属されるまで
…
」
「ホント偽物くんには苦労させられた
…
」
ついには愚痴にまで発展し、仲良くなった。
「よかったらうちの本丸に来ない?折れるにしても、こんなところじゃひとり寂しいだろ。看取る人もいないなんて。重症化したら寝込むし、その間の生活は何かと大変だし」
長義は考える。
「いや、やめておくよ。ここに思い入れもあるしさ」
有難い申し出だが、断ってしまう。
「どうだ?治ったか??」
「治らないって何度言ったらわかるんだ」
「何かの拍子で治るかもしれないだろ」
「何の拍子だ。じゃあ俺たちは帰るから」
そう言ってふたりは帰る。
長義はなんだか微妙な心境だった。奥歯に物が挟まったかのような感じ
…
。取れそうで取れない。
本丸に誘われた時、行っても良いかもしれないと思った。ただ折れるだけの刀だが、多少迷惑を掛けても大丈夫かもしれない。それくらい彼とは打ち解けたと思った。しかしなぜかまんばの顔がチラついた。気づいたら断っていた。
それに彼らが恋刀同士ではないと知って、ホッとした。
きっと同位体がまんばの毒牙にかかってないことに安心したのだろうと思う。台風のような彼と付き合うなど大変だ。同じ山姥切長義として心配になる。
ああ、明日もきっとその台風みたいなやつが来るんだろうなと思いながら、ゲホゲホと花を吐いた。
しかし予想に反し、次の日まんばは来なかった。
おかしいな、別の仕事でも入ったんだろう、明日には来るか。
今日も来ない、仕事が忙しいのか?
まあ顔を見せに来る程度なら、明日にでも来るだろう。
来ない、いつ来るんだ、少しの時間もないほど忙しいのか。
…
何かあったんじゃないか。
政府は個々の本丸で襲撃が起これば救援に向かうだろうし、普通の本丸が行かない危険度の高い未知の時代への調査があるかもしれない。特にまんばは極だから、戦力として数えられているだろう。
来なくなったまんばを思い、数日間そわそわそわそわしていた。
心配でいてもたってもいられず、政府に行く。
「え?偽物くん?いるよ?呼んでくるから待ってて」
普 通 に い た 。
「どうしたんだ?あ、本丸を出る気になったのか?」
「違うよ。なんで最近来なかったんだ」
「他の仕事が立て込んでて」
それって長義の優先度は低いってことか!と怒りが湧いてくる。ケロッとしたまんばを見ると心配した自分が馬鹿みたいだ。
「帰る!!」
「??ああ」
今回の件でわかってしまった。良いのか悪いのか、長義はまんばに惹かれている。
元同期を連れて来られてモヤモヤしたのはヤキモチだし、付き合ってないってわかってホッとしたのは同位体の心配じゃなくまんばがフリーってことにだし、本丸移管の話を断ったのもあそこに居たかったからじゃなくまんばが会いに来てくれるから。
まんばと話しているとイライラするけど、話した後はすっきりする。まんばは嘘がない、裏表がない、本音で言い合えるから、話していて心地よい。
表立っては同位体に嫌われているようだったが、心の底では信頼されているだろうと感じる。まんばにはそれだけの魅力がある。
あんなやつに惚れるなんて、とても不服で心外で信じられないことだ。
だけど、今回まんばに会いたくて会いたくて堪らなくて、まんばの事が好きなんだと思い知った。
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