さもゆ
2024-12-10 03:42:48
82844文字
Public 吸死
 

【ヒヨロナ】ロナルドと永遠のきょうだい

弟を亡くした吸血鬼に弟認定されてしまった退治人と、その周囲の話。
※自我と名前のある吸血鬼兄弟と女性がガッツリ出る。話のメインまである
※捏造過多
※ロくんの本名有

2024.9.18 たべものpixiv投稿作品

 弟は死んだ。
 磔にされ、槍で刺されて、炎にまかれて死んでしまった。
 残ったはずの塵は、雨に流され、消えた。

 五百年も前の話だ。

 最初の百年は絶望して、自分の棺桶に閉じこもっては泣いていた。
 二百年を過ぎるとあいつの声が聞きたくなって、人里に下りては人間にちょっかいをかけ、いもしない弟の影を追っては足を止めた。
 三百年を過ぎるとようやく生まれ変わりの概念──吸血鬼には無い宗教観だ──を理解して、あいつならきっと生まれ変わっているかもしれないと希望を見た。
 そこに至るまでに死のうとは思わなかった。嘘だ。思いはした。実行にも移そうとして、寺の屋根の上、じっと朝日を待つ日もあった。
 けれど死ねなかった。
 死ねなかったんだ。
 だってあいつがそれを望まなかったから。弟が俺に破滅を願わなかったから。俺はお前のいない世界で生きるしかなかった。
 
 そして五百年を過ぎた今、ようやく見つけた。
 弟の生まれ変わり。寺の坊さんは嘘なんか吐いちゃいなかった。

 心の綺麗なやつは、必ず、輪廻転生する。



 序



「これで四十九年連続ですよ」

 ヒヨシに書類をつきつけた事務方の職員が言った。

「最初は、広島。そこから一年ごとに各都道府県で届出を出しています。四十七都道府県ぜんぶで。四十七年かけてね。広島では二回出しています。四十八年目に。で、四十九年目に出した神奈川での届出がこれです。また順繰りに広島から各県を回っていくのかと思ったら、この新横浜が吸血鬼のホットスポットになっている噂を聞いて、わざわざ広島から飛んできたそうですよ。訊いたら、今回は一年と言わず、しばらくシンヨコに滞在するかもとのことでした」
「お、おう。それで?」
「二十二年前、神奈川での一回目の届出を受け取ったのは私の父です」
 若い事務員は真っ直ぐヒヨシの目を見つめた。それからヒヨシが受け取った書類を見て、眉を下げて言う。「私たちの仕事はデータベースの管理です。誇りに思っていますよ。でも、悔しいじゃないですか。膨大な量の行方不明者のデータだけを、ただ整理するだけなのは」
「それは依頼か?」
「まさか。れっきとした吸対業務です。それにあなたはとっくに引退しているでしょう。もし頼むなら、そうですね、退治人ロナルドさんにでも頼みますよ。彼、退治だけじゃなく吸血鬼の関することなら何でもやってくれるって評判ですし」
「あー、はは。やー、何でもは、どうじゃろな」
「とにかく、それはあなたの隊に任せました。後でデータも送っておきます。よろしくお願いします」
 事務員は言うだけ言うとすぐに自分の持ち場へと戻って行った。ヒヨシは半ば押しつけられるように手にした書類に目を通し、ふむ、と髭を撫でつける。書類には行方不明者の情報が載っていたが、四十九年間探し続けているわりには、内容がかなり薄かった。



 吸血鬼対策課に出された行方不明者届は全国で一日何件になるだろう?
 もちろん一日に約三十人ほど届出があると言われる人間の数よりは少ないが、けれど確かに、吸血鬼も、一日のうちに何人かは行方不明になっていたりするものだ。
 人間にありがちな認知症だったり家出だったりはあまりないが、たとえば、家に帰るのを忘れていたり、一日くらい連絡しなくとも大したことはないだろうと何十日、もしくは何年も無断外泊をしてしまったり──ご長寿者は大体にしてうっかり ・・・・だ──行政に正式な手順を踏んで人間と共に暮らしている吸血鬼には、そういうことが、ままある。
 “吸血鬼の友人が旅行に行ったっきりもう何年も自分の家に帰っていないんです”、“同僚の吸血鬼が外回り中にいなくなってて”、“ペットが吸血鬼なんですがちょっと目を離した隙に”……そういう届出は半分は早期解決されるが、もちろん全てが解決されることはない。人間と同じだ。
 人間と同じでないとすれば、その行方不明届が、百年後も二百年後も有効である、という点だけ。
 今は電子機器が発達しおよそ全ての情報は端末ひとつに登録されているため、部屋を圧迫することはないが、吸血鬼対策課のデータベースはすでに部屋ならば溢れかえるほどの行方不明者でいっぱいだった。
 
 そのいっぱいのうちのひとつを任されたヒヨシは、全国で行方不明届を出しているという依頼者に対してなるほどな、と思った。最初の感想はそれだった。なるほど、確かに全国で、しかも一年ごとに届出を出しておけば、職員の短い任期や人間の怠惰、劣っていく記憶力に蔑ろにされず、膨大なデータの一番上に君臨できる。
 人間が吸血鬼のそういった情報を期限切れにせず、埃をかぶっても保管しているのは、永久を生きる吸血鬼を恐れているからにほかならない。行方不明となった吸血鬼が、いつどこで、誰に牙を剥いているとも知れぬのだ。警察機関である吸血鬼対策課は、その組織ができたときから、永久を制御し見守って、人間との均衡を保つことを目的としている。
 
「しっかしこりゃあ……
 あまりにも、薄い。内容が。薄いというより、ほとんど無い。
 行方不明届に載っている行方不明者の身体的特徴は、性別が男なことと、肌が青く、髪が黒く、目が赤い。
 たったのそれだけだった。
 しかも。

 名前の記載すら、ないのである。