Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
残りの夜が来た
Public
福本
Clear cache
フェイクファー
伊藤と一条と佐原 高校生パラレル
初出・Webサイト「残りの夜が来た」2009年
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
脇においていた携帯が震えたので目をやると、サブディスプレイにこの春見つけた女の名前が青く光っていた。メールみたいだった。手を伸ばしかけて、やめる。この女のメールはなかなか傑作なのだが、いかんせん長い。佐原は長い文章を読むのが嫌いだ。
夕暮れの屋上はなかなかにいい眺めだが、春の17時は思っていたよりも寒かった。佐原は薄いカーディガンの前をあわせ、身震いした。くしゃみがでた。昼間から屋上で寝たり起きたりキャッチボールしたり、とにかくだらだらしていたせいだと思った。
「カイジさーん、俺、帰るよ」
同じく昼間から屋上でだらだらしていた男に声をかける。カイジはあーだかうーだか分からない返事をした。まだ寝ているようなので返事ではないのかもしれない。佐原はカイジの顔を覗き込んだ。カイジは眉毛を八の字にして目を閉じている。
「部活
…
行くのか」
「いや、帰りますよ」
「行けよ
…
」
「カイジさんにそんなこと言われるとは思わなかったなー」
佐原はあははと笑った。カイジは1年前か半年前か、そのあたりまで佐原の所属する陸上部の先輩だった。いつのまにかフェードアウトして姿をみせなくなったのはカイジの方だ。
「カイジさんこそ、行けば。安藤とか、あいつたまにカイジさんの話してるよ」
「俺あいつ、マジで嫌い!
…
どうせろくな話じゃねえだろ」
「あったりー、っていうかカイジさん、陸上部に好きな奴なんかいんの」
佐原はまたあははと笑った。
カイジは起き上がった。ポケットを探るカイジに、佐原は手のひらを向けた。
「俺もください」
「買えよ!
…
大体俺、もう3年だろ。部活も引退だろうが」
「まだ4月っすよ、」
っていうか、受験とかしないでしょ、カイジさん。佐原はそう言いながらカイジからタバコを受け取る。
「
…
ライター切れてる」
「しょーおがないなー」
佐原は自分のライターに火をつけて手で覆った。カイジに差し出すと、ちょっと嫌な顔をされた。カイジは人に何かをしてもらうのが苦手だ、ということを佐原は知っていたが、気づかないふりをしてそのまま無理やり火を近づける。
カイジのくわえたタバコに火が灯った。
佐原はカイジに興味を持っている。見ていて飽きない。立ち上がったカイジが渋い顔で「寒い」と言うのを観察しながら煙を吐き出していると、携帯がまた震えた。さっきと同じ女の名前が映っている。
「うるせーなこの女」
「言うなよ、そんなこと」
「メールが長いんすよ」
あと回数が多い、というと、カイジはさらに顔をしかめた。カイジのこの善人っぷりは、佐原の興味を大いにひくところのひとつだ。偽善なのか弱虫なのかほんとにいい人なのかわかんないけど、もうちょっと渋い顔をさせてみせたくなる。
「でもね、この女のメール」
面白いんですよ、と言いかけたところで、屋上のドアが開く音がした。佐原はあーあ、と思った。見える人影がその女のような感じがしたからだ。携帯を開いて先ほど受信したメールを見ると、《屋上にいるの??》と書かれていた。うぜーな。
「じゃ、カイジさん、俺帰るね」
「あー」
「風邪引かないでくださいねー」
ひらひらと手を降りながら、佐原は小走りで女のほうに向かった。出口で振り返ると、しまりかける重いドアの間から、髪の毛が風でぼさぼさになっているカイジの影が見えた。今日、なんか元気なさそうだったけどどうしたのかな、と一瞬考えたが、前を行く女の首筋を見て、考えるのをやめてしまった。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
広告非表示プランのご案内