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太公望と普賢
トリミング 望普編9
twitterなどに掲載していた極短編のまとめです。望普、伏普、原作軸、現パロなどいろいろ。
「普賢真人、実は崑崙十二仙になりました!」
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【針をなくす】
長かった会議もようやく終わり、三々五々部屋を出て行く背中を見送ってから、楊戩は窓を開けた。勢いよく吹き込んだ冷たい風が、張り詰めた会議の雰囲気を一気に戸口へと追いやってゆく。深く息を吸い込み、吐き出すと、頭の芯からクリアになっていくのがわかった。
真正面で机に突っ伏したまま動かない武王に「大丈夫ですか」と声をかけたが、唸り声一つ聞こえない。両肩に一国の未来がかかっているのだ、疲れないわけがないのだけれど、会議のたびに精根尽き果てるようでは、道半ばで息切れしてしまう。どこかで意識してリセットしなければ。
「武王。もうお休みください」
そう促したときだった。慌ただしい足音が近づいてきた。戸口で急停止したそれは、さっき退室したばかりの軍師のものだった。
駆けこんだその姿に、おやと楊戩は目をみはる。いつもより軽装
……
寝衣? いや、上衣を脱いだだけか。素足で、片方だけ手袋をつけたまま。おそらく一度自室に戻って着替える途中だったのだろう。肩で息をしながら、部屋中をぐるりと見渡す。
騒々しさに気づいて、武王も顔を上げた。
「どうかしましたか、師叔」
「忘れ物か?」
「忘れ
……
いや、そんなはずは、」
言いかけて口を噤み、じっと何か考え込んでいるようだったが、突然二人の目の前で床に這いつくばった。ぽかんと見守る楊戩と武王にはわき目もふらず、床すれすれまで顔を寄せ、じっと目を凝らしている。
「あの
……
太公望師叔?」
「しっ」
静かにせい。低く言って、太公望は腹ばいになったまま、床をじりじりと進む。蝸牛でももう少し早いんじゃないかと思うほど。目は一度も逸らされず、チリ一つ、髪の毛一本見逃さないとでもいわんばかりの、鬼気迫る集中ぶりに、思わず楊戩と武王はちらりと目くばせをした。なんだかよく分からないが探し物らしい。忘れものではないと言ったから落とし物か? おそらくとても小さくて
——
とても大切な。
二人で床を覗き込んでみたが、めぼしい物は何も落ちている様子はなかった。声をかけるのもはばかられる緊張感の中、太公望は部屋の隅から隅へずるずると移動する。あれじゃあ膝や肘が擦り切れてしまうんじゃないだろうかと思いながら見守っていたとき
「誰だ、こんなところに。
……
あぶねえな」
武王が呟いて何かを拾い上げた。太公望ははっと顔を上げる。そして
「
……
あっ
……
た!」
つかつかと歩み寄ったかと思うと、間髪入れず奪い取り、両手でしっかりと握りしめてへたり込んだ。
「
……
武王、かたじけない!」
「って、おめぇ、それ
……
」
「かたじけない」
くり返し、なんどか息を吐いてから、太公望はよろりと立ち上がる。そして「騒がせてすまぬ」とだけ言い残して部屋を後にした。
楊戩と武王はしばしあっけに取られていたが、やがて武王が「ああ疲れた」とため息をついて立ち上がった。
「さて、俺も寝るかな」
「あの、武王。落とし物ってなんだったんです?」
すこしだけ考えてから武王は「さあ」と肩を竦めた。
「お守りとかじゃねえかな」
「お守り?」
「なんの役にも立たないが、ないと不安になる。そういうのをお守りっていうだろ?」
吹き込む夜風を断ち切って窓を閉めた。
蝋燭の火がゆらりと大きく揺れ、そしてまた静けさを取り戻す。結局なんだかわからないままだったが、あの取り乱しようを思えば、相当に大切なものだったらしい。
(師叔のお守りって何なんだろう?)
明日にでもあらためて聞いてみようか。まあ、教えてはくれないだろうけれど。もう一度床の上を見渡してから、楊戩は部屋のあかりを消した。
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